「誰が敵であるのか、韓国国民よ目を覚ませ」

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「敵は北だ、韓国軍の軍事力では北朝鮮(以後、北)軍の侵攻を止められない」

 北朝鮮金正恩氏が実権を継承してから、北軍は急激に変貌してきた。

 北が韓国政府を罵倒し、南北和解を進める象徴である融和の施設を瞬時に跡形もなく破壊した。笑顔で金正恩氏と握手した韓国の文在寅大統領に、罵りながら泥を塗ったのである。

 この背景にあるのは、やらなければならないほど追いつめられているのか、あるいは、北がやっても韓国は報復できないという自信があるのかのどちらかである。

 私は、韓国は報復することができないとみている。その理由は、北軍が韓国軍に奇襲攻撃して勝利できる軍事力と継戦能力を備えつつあるからだ。

 私が気になるのは、軍事力の開発だ。

 核、長中距離弾道ミサイル、特に精密誘導が可能となった短距離弾道ミサイル、超大型ロケット砲、無人自爆攻撃機などの開発成功、さらに、固体燃料を製造する工場建設によるミサイル数・弾薬数の増加が、継戦能力を向上させた。

 これらによって、朝鮮半島における特異な戦争(全縦深同時打撃)構想と軍事力の構築が完成しつつある。

 これらが意味することは、米国を朝鮮半島有事に介入させなければ、南北の戦いでは韓国は勝利できないということだ。

 韓国軍は、北の軍事侵攻や砲撃などの挑発には、いつでも大打撃を与えられる反撃能力を保有していると韓国国民も期待しているところだろう。

 ところが、北が、精密誘導の短距離弾道ミサイルを完成させた頃から、形勢は全く逆転した。

 朝鮮半島で戦いが生起すれば、韓国有利から北が圧倒的に有利になった。

 奇襲すれば、北軍が短期間で勝利する。形勢が逆転した実体を以下に説明する。

北の挑発的な発言に自信の裏づけ

 金与正党第1副部長*1が韓国政府や文在寅大統領発言を露骨に非難・罵倒し、そして南北共同連絡事務所の爆破や2018年の南北軍事合意を反故にする動きを開始するなど、強硬姿勢を示している。

*1=党の中央委員会の第1副部長職というものはなく、党第1副部長というのは、組織指導部の第1副部長職を略して使用しているものと推測される。

 この狙いは、米朝交渉が進まず、経済制裁も解除されないまま、ただ時間だけが過ぎ去っていくことに反発し、文在寅大統領に強い揺さぶりをかけ、米国との交渉の使い走りをさせようという魂胆だろう。

 この背景には、「北の経済状況が深刻な状態に陥っているからだ」といった情報もある。

 国連経済制裁や新型コロナウイルス感染症の拡大による中朝国境の閉鎖もあり、以前から継続して相当厳しい状況にはあると考えられる。

 訓練においても、1か月以上も冬季訓練が実施されず、訓練に使用できる砲弾も極めて少なかったといった情報も散見された。

 一方で、元山リゾート・陽德溫泉地区・三池淵郡内邑地区の開発、順川の固体燃料などの製造工場建設、ICBM(大陸間弾道ミサイル)製造施設建設、ウラン濃縮工場の建設、短距離弾道ミサイルなどの開発も継続的に行われている。

 私は、天安門事件、ソ連邦崩壊の頃から我が国周辺諸国の動向を分析してきたが、1995年前後の北の深刻な経済危機の時ほど、厳しい状況にはなっていないとみている。

 当時は、各地方や軍に大量の餓死者が出ていた。軍の演習・訓練、軍の監視活動もストップするほどであった。

 現在は、それほどでもない。北は、国連経済制裁を速やかに解除させ、国内の経済を立て直すことを考えていることは間違いない。

金正日時代との相違

 金正日の時代までは、南北の戦いは、南北が睨み合う南北軍事境界線(以後、境界線)から開始されるというシナリオであった。

 北軍が南侵する場合には、地上軍が境界線付近まで移動して、戦闘準備を行い、奇襲攻撃を仕かけ、38度線を突破して、ソウル、そしてさらに釜山まで攻撃を継続、占領を完成するものであった。

 この際、12万人の特殊部隊兵が、事前に韓国に潜入し、国内を混乱させておく戦争戦略であったろう。

 北軍は、旧式の装備であること、海空軍が極端に劣性であること、ソウルよりも南に配備されている米韓軍の海空軍を攻撃できない。

 そのため、軍事境界線を超えると同時に、韓国軍により北地上軍の攻撃が阻止され、阻止された北軍地上部隊が、米韓軍の海空軍により、撃破されるという公算が高かった。

北軍が南侵し、韓国軍が反撃する場合の戦闘様相(イメージ

 空中の戦闘では、北空軍は、旧式であるために、南侵と同時に、米韓空軍に、空対空ミサイルによって早期に撃墜されてしまう。

 水上や水中の戦闘では、北海軍は、旧式小型で、米韓海軍艦艇の情報も取れず、旧式の対艦ミサイルでは、米韓艦艇を撃沈できず、北軍だけが早期に撃沈される。

 12万人の特殊部隊は、韓国国内に潜入し、韓国国内を混乱させることはできるが、弾薬や食料に限りがあり、長期間戦うことは難しい。

 弾薬・燃料などは欠乏しており、継戦能力がないことが最大の欠陥であった。戦闘時間の経過とともに、前線で戦う地上軍は、時間の経過とともに自滅することが予想された。

 この金正日の時代の北軍の南侵に、どこかに勝ち目を見出そうとしても、勝利できないで敗北するというのが、自衛隊OBの軍事専門家の意見であった。

 自軍と敵軍の兵棋(駒)を使って戦わせる図上研究の結果でもあった。

新しい北の戦争戦略

 5月24日朝鮮労働党中央軍事委員会拡大会議では、次の3つが提示された。

①核戦争抑制力の一層の強化

②戦略武力を高度の臨戦状態で運営するための新しい方針

③砲兵の火力打撃能力を画期的に高める

 これらの3つは、軍事機密事項であることから理解しづらいところがある。とはいえ、具体的にどのような戦いをして勝利しようとする戦争戦略なのかを簡単に解説する。

①は、米国に対して、核抑止力を備えて、半島有事において米軍の介入を抑止する。核抑止戦略だ。

②は、ハワイグアム日本列島に駐留する米軍に対する北軍の軍事戦略と軍事態勢の確立であろう。長中距離のミサイル戦争を主体とした作戦戦略だ。

 そして、常時、奇襲侵攻できること、一定の期間戦える継戦能力の整備も含まれる。

③砲兵火力と言っているが、実際は短距離ミサイルや超大型ロケット砲などのことであろう。これらを使って、半島有事の戦いにおいて勝利できる戦略である。

 つまり短距離弾道ミサイルを使った戦い、作戦戦術であろう。

 ここでは、①および②の前半は省略して、②の継戦能力(ミサイルの燃料、弾薬製造)および③を詳細に解説する。

 私は、北が今、中央軍事委員会拡大会議で提示したことは、これから努力して達成することではなくて、ほぼ完成している段階であると認識している。

 強硬姿勢に出てこられるのは、この裏づけがあって、韓国が軍事的手段を使っても反撃できない、反撃を許さないほどの軍事力と軍事戦略をほぼ完成させたことが理由にあると考える。

韓国全土を同時に叩く戦略に転換

 朝鮮半島において戦う戦略について、北朝鮮が開発してきた兵器とその能力を朝鮮半島の地図上に展開して考察する。

 2019年5月から、短距離弾道ミサイルおよび超大型ロケット砲の発射実験を開始して、成功を収めている。

 これらのミサイルロケットは、中国あるいはロシアの測位衛星の誘導を受けており、低弾道で、軌道変更ができ、命中精度は極めて高い。

 射程も300~600キロであり、韓国の領土全域を射程に収めることができる。

 これらの兵器は、数十メートルの円の中に、2発発射すれば、1発は命中する命中精度がある。

 ソウル以南の在韓米空軍基地、韓国海空軍基地、国連軍司令部、防空ミサイル基地、防空ミサイルTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)基地、韓国軍弾道ミサイル基地に対して、狙って正確に命中させることができる。

 詳細な例を挙げるならば、韓国国内の空軍滑走路の戦闘機が駐機している区域、あるいは戦闘機を隠蔽して保管するハンガーを直接狙って、命中させることができる。

 北軍が奇襲侵攻して南侵する時には、すべての攻撃に先んじて、開発してきたミサイルや砲を発射して、米韓軍の主要基地を叩いてしまえば、その機能を戦闘の初期の間、例えば、北軍が軍事境界線を越えてソウルを占領するまでの期間、停止させることができる。

 これまでは、韓国南部に所在する基地の動向を掴むことができなかったが、GPS誘導の小型無人機によって、滑走路の戦闘機、防空ミサイル、港の埠頭に停泊している海軍艦艇の位置を短時間に正確に知ることができる。

 米軍の無人偵察機ほどの能力はないが、小型でプラスチックの素材で製造されているので、レーダーに発見されることはない。

 小型無人機に爆薬を搭載すれば、自爆攻撃もできる。

 中国軍2018年から開発している大量の小型無人機を使って自爆攻撃ができれば、かなり多くの被害を与えることができる。

 運用要領にもよるが、短距離弾道ミサイルよりも破壊効果がある。

 これによって、北軍がソウルを砲撃し、地上軍が軍事境界線を越えて侵攻する時には、米韓軍の戦闘機弾道ミサイルの反撃を受けることは少ない。

 在韓米軍を撤退させて、北が奇襲侵攻を行えば、韓国全土を占領する可能性が極めて高まったといえる。

奇襲侵攻により韓国全土を同時に叩く場合の戦闘様相(イメージ

 北はこれまで、経済が困窮しているために、弾薬やミサイルの燃料が不足していた。

 だが、順川(順川)の工場を今年の5月に完成させた。

 表向きは肥料工場だが、極めて近代的で、大規模で、軍の司令部や大講堂として使える建物、多くの軍人が働く施設であることから、肥料も製造するが、主体はミサイルの個体燃料や弾薬を製造する施設だと推測している。

 この施設が機能し始めれば、長期間戦うための多くのミサイルや弾薬を製造することができるようになる。2~3年もすれば、いつでも長期間戦える能力を備えることになる。

ミサイル量産で一変した占領シナリオ

 北軍には、海空軍の兵器が時代遅れで戦えない、弾道ミサイル潜水艦はまだ完成していないなどの欠陥があるものの、長中距離と短距離弾道ミサイル、特に精密誘導できる短距離弾道ミサイル、無人自爆攻撃機などを完成させた。

 このことが、朝鮮半島の戦い方を北の敗北から勝利できるシナリオに変貌させた。

 これからは、すべてのミサイルを精密誘導できるミサイルに改造すること、各種ミサイルや弾薬を量産することだけだ。

 おそらく中国が密かに北を支援するであろう。

 2018年から5回の中朝首脳会談、中国の兵器および部品が北に密かに供与されていること、測位衛星などの支援によりミサイルなどの精度が著しく向上していることからも裏づけられる。

 韓国は、朝鮮半島の軍事バランスが完全に変貌したことを認識すべきた。

 米軍を韓国に引き留めなければ、数年後には、韓国は北に武力侵攻され、韓国は国土を防衛することができないであろう。

 私は、過激に煽り立てているつもりはない。軍事力分析とこれによる戦い方を見積もると必然的にこのようになる。

 大統領や韓国国民が米韓同盟の存続を強く求めなければ、数年後には、韓国国民は、韓国国内に金日成金正日の銅像を建てるために、汗をかくことになる。

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