安倍内閣の支持率が下落傾向にある。コロナ対策、検察庁法改正問題、そして河井克行・案里氏の買収問題など、政治不信を深める材料がゴロゴロ出てくる。それに反比例するかのように存在感を高めつつあるのが、安倍首相と距離を置く石破茂元幹事長だ。ポスト安倍の最右翼に位置すると見られている石破氏に、内閣支持率の現状、安倍政権のコロナ対策などについての評価を聞いた。(JBpress)

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「内閣支持率と政党支持率、足して50%を割ったら危機」の法則

――黒川検事長の定年延長問題から検察庁法改正案が国会で紛糾する事態となって、国民の間でまた政治不信が高まっています。政治が信頼を取り戻すために必要なものはなんでしょう。

石破茂氏(以下、石破) それは決め手があるわけじゃない。まずは国民の「信用できない」との声に真摯に向き合うということでしょう。

 検察庁の問題でも、桜を見る会でも、森友・加計問題でも、要するに「安倍さんは本当のことを言っていないんじゃないか」って多くの人が思っているんでしょう。でも内閣支持率は3~4割あるんです。ということは、「あまり信用はしていないが、政権の方向性は支持している」というような方が多いのだと思います。

――これまで多くの不祥事や問題があった。本来ならもっと不支持が広がりそうなものですが、そうならない。これは「俺たちにもう政治は関係ない。勝手にやってくれ」という感情が広がっているのではないですか。

石破 そうかも知れませんが、政治が国民に関係がないはずはないですよね。

 例えば時の政権が、政権にとって都合のいい検察の人事を行ったとする。特に日本の刑事裁判は起訴されれば99.7%が有罪になるという、世界でも極めて稀な、高い有罪率を誇っています。つまり有罪にできる自信が無ければ起訴しないわけですね。

 そういう中で、政権にとって都合が悪ければ、違法なことをやった人でも検察のさじ加減によって起訴されないということも可能性としてはありうる。そうなると権力に近い人は悪いことをしても罪にならない、なんてことになる。それはつまり国民の不利益そのものです。そう感じたから検察庁法改正案に反対の声が上がったのかは分かりませんが。

 私も長いこと議席を与えていただいている経験上、普通はこれだけ問題が続けば、内閣支持率がもっと下がるのではないかと思います。そうならないということは、政治への無関心が高まっているのか、「いろいろあるけど野党よりましだよ」ということなのか、そこは本当に分かりません。

 その答えは次の総選挙の結果で分かるのかもしれません。われわれ衆議院議員の任期は来年の10月22日までで、それまでには必ず選挙がある。ましてや衆議院ですから、政権選択の選挙です。そこで国民が自分たちの意思で判断することになるのでしょう。

――最近の世論調査では、内閣支持率が30%を切るものもあります。これくらいの数字では、内閣としては危機感を感じるほどではないのでしょうか。

石破 われわれが先輩方から教わってきた一つの目安として、内閣の支持率と自民党の支持率とを足して50%を切ると危ないというものがあります。その根拠は不明ですが、経験則的には正しいと思います。現在の内閣支持率や政党支持率を見ると、そのレベルにはなっていません。

 ただ、自民党の支持率というのも小選挙区制の下ではなかなか分かりづらいところがあります。自民党を支持するという人の中に、安倍総理を支持する人も、私を支持する人も、例えば政権に対して批判的な村上誠一郎先生を支持する人もいる。こういう支持者が全て自民党支持者にカウントされるので、一概には論じられません。だから最終的には、選挙で示された主権者の意思が決め手になるんじゃないでしょうか。

第二波にスムーズに対処するためにも、これまでの対応策の検証を

――安倍政権は「危機に強い」と言われてきました。そういう中でコロナ禍がありました。安倍政権のコロナ対応ですが、「日本は他の国に比べて死亡率が低いので上手く行っている」という評価もあるし、あるいは「対策を決定する過程が不透明だ」という批判もある。安倍政権のコロナ対策を、どう評価していますか。

石破 人口当たりの死亡率が低いのは、日本だけではありません。韓国、中国、そしてインドも低い。総じて、ヨーロッパが高くてアジアが低い、ということは数字として歴然としています。

 安倍総理は、清潔好きで、秩序正しく、他人に対する思いやりがあって、医療現場は非常に頑張って、国民皆保険という制度があって…というのを「日本モデル」として称賛されました。辛い思いをした国民に総理からそのようなメッセージが出されたことは良いことだと思いますし、挙げられた要素もまた事実です。

 でも、日本モデルとは程遠いインドでも人口当たりの死亡者数は欧州に比して少ない。その理由は何なのか。

 つまり「われわれが行った日本モデルが効果を発揮した」だけでは、科学的な裏付けが十分ではないのです。なぜ日本では感染爆発が起こらず、医療崩壊も起こらず、致死率が低かったのか。そこをちゃんと検証せずに「日本モデルは素晴らしい」で終わらせてしまうと、事の本質を見誤りかねません。

 むしろそれより明確にすべきだと思うのは、総理がはっきりと示された政策が達成されていないことの理由です。例えば、一人10万円の給付金が8月にならないともらえない、なんていう状況がなぜ生じているのか。「一世帯30万円の給付には時間がかかるから一人一律10万円」としたはずなのに、その原因が明らかになっていません。

 PCR検査もそうです。総理ご自身が増やすと仰ったのに、全然増えていない。この原因についても明らかにならない。持続化給付金も、「アベノマスク」もそうです。国民も「なぜこんなに遅いのか」と感じているでしょうし、それ以上に総理のご指示をなぜ行政が迅速に実施しないのか、そこに危惧を感じます。

 政府として、なぜ検査体制が進まないのか、なぜマスク配布や給付金が遅くなったのか、なぜ持続化給付金の手続きは煩雑なのかといったことについて、その理由も含めて明らかにしなければなりません。そうでなければ、第二波、第三波が来た時に、また同じことを繰り返しかねませんし、そもそもの行政の信頼性が損なわれてしまいます。

――そうした対策がスムーズにいかなかった原因を解明すると、政権の不手際が明らかになるので、解明に積極的にならないのではないですか。

石破 原因が現政権の不手際とは限りません。従来から引き継がれた構造的な問題だったということもあり得ます。ですからまずは、誰の責任かという話は置いておいて、どうしてこういうことになっちゃうのか、というところを解明しないと。

 問題の所在を明確にするのは、国民のためであることはもちろんですが、政権のためにもなるはずです。特に、行政の長たる総理大臣が会見などで明確にされた指針が実行されていないのですから、どこかに不具合か怠慢か、何らかの原因があるはずで、これらを明らかにするのは、国家としての国民に対する責務です。その上で、責任を問うべき人がいるならば問われなきゃいけないし、構造的な問題があったということならば、そこを変えていけばいい。

 そういう検証がなされないままだから、国民はみんなモヤモヤ、イライラしているんじゃないでしょうか。

――そういうモヤモヤ感はなかなか支持率に現れていないです。不思議な感じです。

石破 一定の支持率がある最大の理由は、「野党がひどいから」というものでしょうけど、野党がひどいから政権の支持率が高いっていうのは、あまり威張れた話ではないでしょうね。

「河井案里氏にだけ1億5000万円」の不可解

――少し前までの自民党なら、こんな時には党内で「新たな総裁を」という流れが出て来た。

石破 そうかもしれません。

――今は、そういう党内世論が出てくる雰囲気はないですね。

石破 それはやはり、政権の意向に従わなければ、ポストも資金も選挙応援ももらえないのではないか、と勝手に忖度するような雰囲気があるからでしょう。実際にそうかどうかは分かりませんが、私はそんなことはないんだろうと思います。ただ、そのように思わせるような出来事が続いたことはあったかもしれません。つい先日で言えば、検察庁法改正案に対する反対の意思を明確にした泉田(裕彦)先生が衆議院の内閣委員会の委員から外れました。今までの政権においてもそういうことはあったのですが、いまは特に誤解を招きやすい状況が続いていることは否めません。河井案里氏の選挙の際に1億5000万円もの資金が党本部から拠出されたことも、(同じ参議院広島選挙区から立候補した)溝手(顕正)先生が安倍総裁に対して批判的だったからではないか、と誤解されやすい状況でしたよね。

 ポストと資金と選挙の応援体制というのは、どれも国会議員にとってはとても大事な要素です。だからこそ、政権に迎合しようとしてしまう雰囲気があっても仕方のないことかもしれません。

 私みたいに長く議席を頂いて、また多くの役職を拝命した経験もあって、ということだと、「選挙は自分の努力、ポストは与えていただいた役職を精一杯務めるべきもの」と割り切ることができます。ポストは政権のためにあるものでもないし、個人の栄達のためにあるものでもない、と言うこともできる。しかしまだ議歴も浅い国会議員にとっては、一定の役職をいただくことで地元にも国民にも恩返しをしたい、という思いがあるのも事実でしょう。

 また、自民党の資金についても、その原資は政党助成金という国民の税金、党費という党員の浄財、そして企業団体からの寄付です。それは、残念ながらまだ我が国には政党法というものはありませんが、公党として国をよくしてください、ということでお預かりしているものです。

 だから当然ながら、選挙ともなれば一人でも多くの自民党議員を当選させるために資金を使うわけですね。そういう中で、河井案里氏だけが選挙資金として1億5000万円ももらったなんていう話が週刊誌に載れば、多くの自民党の議員はひっくり返って驚くわけです。「そんなことって本当にあるのか、信じられない」と。

 そういうことが積み重なって、あまりモノが言えないような党内の雰囲気を生んだことも事実でしょう。

――政権与党内の統治方法をそのように変えていったのは菅さんですか、それとも二階さんですか。

石破 いや、そこはやはり安倍総裁への忖度ということになるのではないでしょうか。

――では総裁が変われば、また元に戻りますか。

石破 それは次の総裁がどのような意向を示されるかで違うでしょう。「安倍総裁の間のやり方を引き継いだ方が党内の統治が上手く行く」と思っている人がなれば変わらないでしょうし、「それは違うんだ」と思う人がなったら変わるでしょう。

「コロナを機に改憲論議」はありえない

――コロナでは非常時における日本の脆さが見えた面もありました。例えば国民や企業の活動自粛を強制することができず、要請という形しか取れなかった。そこで、「要請というお願いしかできなかったのは憲法に緊急事態条項がないからだ、今後に備える意味でも緊急事態条項を備えておくべきだ」という意見も出てきました。コロナの件で、憲法改正の必要性をさらに強く感じたりしましたか。

石破 それはありません。今回我が国は、あくまで「要請」というスタイルを取りましたが、それで結果的には感染爆発も起こさなかったし、今のところ致死率も非常に低いところで推移しています。

 ですから、外出するのに許可が要るとか、外出したら罰金だとか、営業したら免許取り消すとか、そこまでやる必要があったという主張にはあまり説得力を感じません。

――例えば今回の新型コロナよりも、もっと感染力が強かったり、強毒性があったりするようなウイルスが登場した時に「要請」だけでは済まないのではないか。その時に備える意味で緊急事態条項が必要なのではないか、とういう議論はあると思います。

石破 少し議論を整理したいのですが、感染爆発に備えるために憲法の改正が必要だとは私は思っていません。それは立法措置で十分可能だからです。

 今の日本国憲法のもとでも、各種の権利の保障は、公共の福祉に合致する範囲でと決められています。財産権についても、「これを侵してはならない」とした上で、「正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる」と書いてあります。つまり、正当な補償があれば公共のために私権を制限することも認められるわけです。土地の収用などがそうですよね。一般的な憲法上の自由や権利についても「国民は、これを濫用してはならない」と規定されています。

 つまり、現在の憲法でも、感染症対策という公共の目的であれば強制力を伴う措置を定める立法は可能です。ですから、立法措置が可能な平時の状況であれば、わざわざ憲法に緊急事態として権利の停止を定める必要はないと思います。

 私が憲法上、緊急事態条項が必要だと考えるのは、国そのものの存立が脅かされるような、立法措置の暇がないような有事に備えるためです。外国勢力から侵略を受け、国民の基本的人権が侵害されるような事態――例えば武力攻撃の下で「こんな演説をしてはいけない」「こんな雑誌を発行してはいけない」「こんな集会をやってはいけない」「こんな神様を信じちゃいけない」ということを国民に強制するような事態――を排除できるのは国家権力しかありません。国家そのものが存続の危機にさらされたら、もう誰も国民の基本的人権を守ってくれません。

 このような事態においては、もはや憲法秩序に基づいて国会で立法をする暇がないので、躊躇なく緊急事態を発令して一時的に行政権が対処すべきです。それも何の根拠もなく無制限に行うと行政権の暴走を抑えられなくなりますから、どんな要件のときに、どんな国民の自由や権利が、どのように制限され、どんな要件を満たせばそれが解除されるのか、あるいはそこで財産権の侵害があった場合に、それを補償するのかしないのか――といったことを明確にしておく必要があると思います。

 ですから、日本国の憲法秩序そのものが破壊されるような事態に備えるための緊急事態条項は必要ですが、逆に言えば、そうでない限りは、今の憲法の範囲内で対応できると思います。

――そこは丁寧に切り分けて議論していかなければならない。

石破 当然そういうものだと思います。一時の感情論で論ずべきものではありません。私が前提としている事態においても、今の憲法でギリギリどこまでできるのか、なお必要なのは何か、という精緻な議論はまだ十分ではありません。

 それに、なにしろ憲法審査会は、この国会では一回しか開かれませんでした。それなのに、このコロナみたいなことが起これば、緊急事態条項が必要だというような議論が出る。気持ちとしては分からなくはないですけど、そもそも立法という段階を飛ばした乱暴な議論ですし、もうすこし法的に精緻な話をしなければなりません。

――法的な議論が緻密になされないまま、憲法改正に向けたムードだけが盛り上がることに危険性を感じると。

石破 そもそも憲法論ではないことを憲法問題のように論じるのは、世論のミスリードと言われても仕方ないのではないでしょうか。今回の黒川検事長の件にしても、法律論が乱暴に過ぎます。

 政権は「検察官だって国家公務員だから国家公務員法の適用があるのは当たり前だ」と主張しましたが、これは法的な一般常識を根底から覆すものです。法律を少しでも学んだ人間であれば、「特別法は一般法に優先する」というのは常識です。この場合、国家公務員法が一般法で、検察庁法が特別法。また「後法は前法に優先する」という常識もあって、この場合も後法が検察庁法。ですから二重の意味で検察庁法が優先するんですね。それをひっくり返すような閣議決定をしたこと自体が法秩序としておかしい話です。

 本来、閣議にも出席している内閣法制局長官が、これは法秩序としておかしい、と止めるべきものだったのではないでしょうか。ところがなぜか閣議決定され、同じ構成の検察庁法の改正案も提出されるに至ってしまった。

 そうであれば、「それはおかしい」と言えるのは国会しかないわけです。国会で徹底した法律の議論をしないといけない。それなのに流行りすたりみたいに、世論が盛り上がっているときには大騒ぎするけれど、検察庁法の改正が今国会では見送られたとなれば、「やあ、世論の勝利だ、民意の勝利だ、よかったよかった」で終わってしまう。まともな法律的議論もなされないまま、時がたてばみな忘れてしまう。それでは何にも変わらないですし、国民にとっても非常に不幸なことだと思います。

「内閣への権力集中」が問題なのではなく、内閣を牽制できない「立法府の弱」さが問題

――国会が本来の役割を果たしていないということですか。

石破 十分果たしているとは言えないでしょう。仮に内閣がおかしな法律解釈をしたり、おかしな閣法を提出したりした時には、議会が「それはおかしい」といって変えさせなければならない。これは与党だろうが野党だろうが関係ありません。それが立法府の役目であり、三権分立の意味です。

 よく「安倍一強だ、内閣の暴走だ、けしからん」とかいう人がいます。しかし今までは、党や議会に比して内閣の権能が弱く、何も物事が決まらない、ということで、十年以上かけて内閣の機能強化をやってきた。その結果なのですから、当然と言えば当然です。

 それが国民にとってよくない状況にあるのであれば、それを止めるのは立法府の役割です。三権分立の中で行政府とバランスを取るのも議会の役割じゃないですか。いま政府の悪口をワーワー言っても何も変わりません。それよりも、議会の権能をもっと高めることに、議会としてもっと努力するべきなんです。

 だから私は、憲法改正の議論をするなら、まずは立法府の権能を強めるためにも、臨時国会開催の要件を憲法に定める議論から始めてはどうかと言っています。今の憲法では、衆議院、参議院いずれかの議員の総議員の4分の1以上の要求があった時には内閣は国会を召集しなければならない、と書いてありますが、「何日以内に」とは書いていません。だから臨時国会の要求があっても、いつまでも開かれなかったり、開いたその日に解散しちゃったりということが過去にありました。

 そうであれば、衆議院でも参議院でも、総議員の4分の1以上の要求があったら臨時国会を「20日以内に」開かなければならない、というように憲法に期日を定めておくべきではないでしょうか。政権批判よりも、むしろそういうことをちゃんと議論する方が先じゃないですか。立法府は立法府らしいことをやるべきです。世間的には、格好よく政府を批判している方が受けるのかも知れませんが、それでは何も変わらないんです。

 これは単に現政権云々という話ではありません。いつまでも自民党が与党とは限らない。今のように立法府の力が弱いままだと、将来われわれと全く立場を異にする政権が出来た時にも、内閣の暴走を止められないということになりかねない。以前の民主党政権は、たまたま失点が多かったので短期間で終わりましたが、本来、小選挙区制であれば政権交代はもっと頻繁に起こってもおかしくありません。三権分立の仕組みがきちんと働くようにするために、議会の権能を高めるということが、もっと議論されるべきだと思います。

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