ある市民団体によると、アメリカ国内のワーキングプア人口は2010年に1億5000万人(2人に1人)を突破したという。アメリカ政府とグローバル企業が結託して、膨らんだ貧困層から搾取していることを告発するのが『(株)貧困大国アメリカ』だ。

新書としては異例の30万部を発行した『ルポ 貧困大国アメリカ』(2008年)、『ルポ 貧困大国アメリカII』(2010)に続くシリーズ完結編。著者の堤未果(つつみ・みか)氏に聞いた。

―「SNAP」という、アメリカで実施されている低所得者向け栄養支援プログラムの話から本は始まります。

「SNAPは専用のカードを提携店の読取機に通すと、その分が政府から支払われる仕組みです。受給額は平均で月132ドル(1万3200円)。低所得者や高齢者のための制度のように見えますが、生鮮食品は高いので、安くてすぐ満腹になるインスタント食品やスナック菓子ばかり買われている。結果、この20年間で子供の糖尿病患者が激増しています。SNAPは子供を飢えから救う制度のはずですが、実際には子供の医療費を増やし、低所得者の家計を圧迫するという悪循環を起こしています」

スナック菓子などを対象外にできないのですか?

「そういった法案は10州で提出されていますが、食品業界が一斉に反発して、彼らから多額の献金を受けている政治家が反対するためにいまだ成立していません。SNAPは国民のためよりも、食品業界や病人が増えると薬が売れて儲かる製薬業界、カード事業を請け負う金融業界のための巨大な利権になってしまっています」

江戸時代の「農民は生かさず殺さず」を彷彿とさせますね。

「国民が『餓死はしないけど、ちょっと病気になっている』くらいが、企業の利益になるということでしょう。問題は、国民が健康的に生活できるようにすべき国が、巨大な多国籍企業に儲けさせることを優先しているということです」

リベラルなはずのオバマ政権下で、「株式会社化」が進行していたというのも驚きです。

共和党vs民主党という対立軸はすでに過去のものです。グローバル企業は両方に多額の献金をしているのですから、どちらが勝っても大企業優遇は変わりません。大統領になろうと思ったら、選挙費用だけで2000億円以上かかるので、企業に依存しないと選挙に勝てないんです。そんな現状を変えるには、企業献金を規制するしかない。しかし、2010年、逆に企業献金の上限が撤廃されてしまいました」



―普通の市民にできることはもうないのでしょうか?

「現状をおかしいと思っている人は少なくありません。現に、南部で企業献金は一切受けないことを公約にした候補者が当選しました。有権者がきちんと判断を示せば、現状を変えることにつながるはず」

―本を読む間、日本もいずれアメリカのようになるのではないかという思いが拭えませんでした。

「巨大資本優先の政治は日本でも始まっています。やはりひとりひとりの国民がきちんと政治をウオッチすることが大事です。選挙で投票するのはもちろん、政治家事務所に寄って今、何が審議されているのかを聞いたり、『ちゃんとやってくれないと次は落としますよ』と緊張感を持たせるのも効果的。アメリカがこうなってしまったのも、国民が法改正に無関心で、政治から目を離していたからです。政治ショーではなく、法の動きを注意して見なければなりません」

(撮影/高橋定敬)

●堤 未果(つつみ・みか)



東京都生まれ。ニューヨーク市立大学大学院国際関係論学科修士号取得。国連、米国野村證券を経てジャーナリストに。『政府は必ず嘘をつく』(角川SSC新書)など著書多数

(株)貧困大国アメリカ



岩波新書 735円



アメリカで進行する、「1%」が食、職、政治、司法、メディアを牛耳る構図。独裁者ではなく、顔の見えない「巨大資本」が蝕む庶民の暮らしを徹底取材で浮かび上がらせる







「グローバル企業は共和党と民主党の両方に多額の献金をしているから、どちらが勝っても大企業優遇は変わらない」と指摘する堤未果氏