【矢野将文社長インタビュー|後編】岡田オーナー誕生から5年でJリーグへ昇格

 3月のスタートを予定していたJ3リーグが、いよいよ開幕の時を迎える。新型コロナウイルスの影響により、無観客の“リモートマッチ”での開催となるが、サッカーのある日常が戻ってくることに心躍らせる人は多いはずだ。

 再開を前に、Football ZONE webも参加している「DAZN Jリーグ推進委員会」では、J1からJ3までの全56クラブを対象に「THIS IS MY CLUB – FOR RESTART WITH LOVE -」と題したインタビュー企画を実施。FC今治からは矢野将文社長に登場してもらい、二人三脚で歩んできた岡田武史会長とのJリーグ挑戦への道のりを振り返ってもらった。

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 2014年11月、当時5部相当の四国リーグに所属していたFC今治の名が一躍全国に広まった。日本代表監督として2度のワールドカップを戦い、日本を飛び出して中国1部の杭州緑城(現・杭州緑城/2部)でも指揮を執るなどアジア全域で活躍していた岡田会長がオーナーに電撃就任したからだ。

 矢野社長を含めて新体制となった際、今治は10年後に「常時J1で優勝争いをするとともに、ACL優勝を狙う」とビジョンを掲げた。カテゴリーを2年に一回上げると想定したなかで、2016年にJFL昇格、19年にJ3昇格に成功。“ノルマ”に対してプラス1年の時間を要したとはいえ、現本拠地「ありがとうサービス. 夢スタジアム®」の完成、J1クラブライセンス基準となる1万5000人規模の新スタジアム建設が進むなど、一歩ずつ着実にステップアップしてきた。

 岡田会長とともに歩んできた5年半で最も印象深い出来事――。矢野社長はその答えに、現本拠地のオープニングゲームとなった2017年9月10日JFLセカンドステージ第7節ヴェルスパ大分戦(3-1)を迷わず挙げた。

「今のスタジアムのこけら落としは、一番のビッグイベントだったと思います。初めて今治にサッカー専用スタジアムを作って頂いて、2017年9月の初戦には5241名のお客様にお越し頂いた。それまでは市内にある施設、西条市四国中央市陸上競技場あるいは球技場、対岸にある広島県福山市尾道市でやらせて頂いて、どんなに多くても観客数は約3000人でした。本当に満員になるのかとドキドキしながら準備していたんですが、前日にはチケット販売をストップしたほどで。5241名、この数字は一生忘れませんし、そのなかで快勝したのは一番思い出深いです」

軸はブレないながらも、周囲の有用な意見をすぐに取り入れる“朝令朝改スタイル”が鍵

 岡田会長はクラブの周知と応援を集めることに力を注ぎ、自らビラを配ったり、ポスターを貼るなどスポンサー獲得に奔走した。就任当初はスポンサーが集まらずに苦戦を強いられたが、2020年にトップパートナー契約を結んだ「ユニ・チャーム株式会社」の⽯川英⼆取締役副社⻑が「岡⽥さんの熱意を受けてパートナーになることを決めました」と決断の理由を語ったように、岡田会長が掲げる理念に共鳴する形で多くのサポートを得てきた。米金融大手ゴールドマンサックス証券で営業マンとして10年間働いた経験を持つ矢野社長が見た、岡田会長の“経営哲学”とは――。

「岡田氏は、企業の経営とは異なりますが、サッカー日本代表の監督というとてつもないプレッシャーのなかで結果を残す目標に向かって、多くの関係者が動くのを司ってきた方です。その後もJリーグ、中国スーパーリーグの監督も務め、素晴らしい経験値を持っていらっしゃる。ただ、軸はブレないながらも、くだらないこだわりはない部分が凄いと思います。自分がこうだと思っていたとしても、その考えを改められるような新しい情報を自分やスタッフが獲得してきた時には、しっかりと受け入れる。『朝令暮改』ならぬ『朝令朝改』。朝に伝えて夕方に改めるのではなく、朝に言ったことを朝改めるというところがあります。私たちの会社に関わる全員が、岡田氏の経営スタイル・感覚を楽しんでいるように思います」

 2019年度の高校サッカー選手権では今治東が今治勢初となる全国の舞台に立ち、岡田会長が築いたサッカーの原理原則「岡田メソッド」が話題を呼んだ。矢野社長も今治に対する注目度の高さを肌で感じているという。

サッカーというスポーツが、今治市民に新たなつながりをもたらすハブの役割を果たしていると感じます。皆様、様々な場所で『今治はいいね』と羨ましがられるそうです。(今治市のキャラクターである)バリィさんが元気で、サイクリングが盛んで、最近ではFC今治Jリーグまで上がっている、と。FC今治がこれまでになかった人の動きを作っているということは評価して頂いていると思います」

 開幕が3カ月以上延期となっていたJ3も、6月27日についに2020年シーズンの幕開けを迎える。新型コロナウイルスの影響を受けたなかで、サッカーを通じて地元を活気づけることは今治の“使命”だと矢野社長は語る。

「今は、新型コロナウイルスという目に見えないものとの戦いを余儀なくされて、皆さんが不安になっている状況です。スポーツの持つ力を信じながら、私たちの営みがクラブに関わる皆様に少しでも元気を与えていければ、と。シーズン開幕に続いて、スポーツはやはり勝負事ですので結果を残して、皆様に期待を持ってもらえるような戦いを見せていきたいと思います」

 岡田会長、そして矢野社長の下、今治がJリーグデビューイヤーにどのような爪痕を残すのか、期待は高まるばかりだ。

※取材はビデオ会議アプリ「Zoom」を使用して実施。(Football ZONE web編集部・小田智史 / Tomofumi Oda

FC今治の矢野将文社長【写真:寺下友徳】