6月17日(水)~21日(日)の5日間、無観客ライブによるリーディングシアター「緋色の研究」の生配信が行われた。
文化放送・東映がプロデュースするインターネットラジオ超!A&G+」で放送中の朝のワイド番組『あさステ!』のパーソナリティーである、有澤樟太郎、松村龍之介、矢崎 広、東 啓介、染谷俊之(番組担当曜日順)の5人が、公演ごとに鈴木勝吾鈴木拡樹佐藤流司、橋本祥平、相葉裕樹(出演日順)をそれぞれゲストとして迎え、5ペアによって綴られた朗読劇。
題材はアーサーコナン・ドイルによる有名小説『シャーロック・ホームズ』シリーズの長編のひとつ、探偵のホームズと相棒となるワトソンが初めて出会い、解決した事件を描いた「緋色の研究」だ。
人気の若手俳優たちがコンビを組んで臨んだ上質なミステリー。“劇場”から無観客ライブ配信で届けられた“演劇”の臨場感を、すべての組み合わせの所感と合わせてお伝えする。

取材・文 / 片桐ユウ 撮影 / 金丸圭

◆役者の“演じる”魅力がダイレクトに伝わってくる作品

配信画面には開演時間の10分ほど前から曲が流れており、劇場の客席内へ足を踏み入れたときのような心地に。

開始時間になると、脚本・演出を担当する毛利亘宏(少年社中)からの挨拶、配役と解説がなされる。「ホームズ」と「ワトソン」の配役はこの時までシークレットとされており、ファンの間では予想も楽しみのひとつとなっていた。

2012年秋にも豪華キャストによって上演された朗読劇「緋色の研究」だが、旬の俳優たちがこの名作をどのように解釈し、そしてこの時期だからこそのライブ配信に臨んだのか。期待が高まる幕開けだ。

ステージには一人掛けのソファーが2脚。ゆるやかに向き合う形でセンターに設置されている。ソファーの間に置かれたテーブルにはポットと2組のティーカップ、その後ろには本棚と花が生けられた大きな花瓶が見える。

その場に立ち会うことは叶わないが、ライブ配信には視聴者にも緊張感の共有がある。“舞台”の上にセットが組まれており、音楽の流れるなかで上手と下手から俳優が登場してくるという“演劇”のスタイルに、なんともいえない懐かしさがこみ上げた。

第一幕は、先に登場したワトソンが自身の経歴を述べ、ホームズとルームシェアをする経緯を明かしていく。続いて登場するホームズの人物描写。その卓越した推理力と観察眼にワトソンが驚き、彼の仕事が諮問探偵であることが判明してから事態は急展開。殺人事件の解明を求められたホームズはワトソンと共に現場に出向き、おどろおどろしい殺人現場を目にする。

グレグスンとレストレード、ふたりの警部とのやりとりやホームズの推理と仕掛け、その中で起こる第二の殺人事件を追いかけつつ、一幕は犯人を捕らえたところで終了。

10分間の休憩を挟み、第二幕はホームズが解き明かした真犯人の過去エピソードが緊迫感たっぷりに繰り広げられる。
彼が殺人に至った理由と真相が粛々と綴られ、エンディングは再び「ベーカー街221B」、ホームズとワトソンが暮らす部屋の居間へと戻る……。

探偵とその助手をメインとして数多くの人物が登場するが、キャストはふたりきり。声色を変え、仕草を挟み、台詞の掛け合いによって場面を描写していく。役者の“演じる”魅力がダイレクトに伝わってくる作品だ。

そして美術セット、照明、音楽、衣裳とヘアメイク。それらが融合して形づくられる“劇場”空間の特別さ、良さもあらためて感じられる仕上がりである。

5日間、それぞれ異なる役者ふたりによって綴られた朗読劇。
ここからは各ペアに感じたテイストや見せ方を抽出してレポートする。

視聴者それぞれが受け取る印象には“違い”もあるかと思うが、各ペアの作り方と合わせてその感想の“異なり”もまた面白がっていただけたら幸いである。

以下、配役を含め多少のネタバレを含めて、生配信された順に記載していく。

◆松村龍之介 × 鈴木勝吾6月17日19時~公演)
※松村は火曜パーソナリティー

松村龍之介がワトソン鈴木勝吾がホームズ 役を演じ、連続配信の初回を飾った。

共に落ち着いた物腰で台詞も展開も明瞭。今回の5ペアの中で表現するとしたら“最もスマートなコンビ”だろうか。

松村ワトソンは、誠実でまっすぐな青年といった風情。その“誠実さ”が伺えるのは、人物像だけではなく、見る側に対しての台詞の明確さ、丁寧さだ。観客(視聴者)への説明責任と合わせて、共感・共有への意識が高い。

松村は最初に登場した際、一度背景を見上げるようにしてしばらく佇み、それから正面を向いて本を開いた。そのわずかな仕草で“劇場”の“舞台上から”という外枠と、リーディングシアター「緋色の研究」の始まり、というシチュエーションを伝えてくる。

そうした細やかな配慮は、ホームズが喋り倒す場面の合間に、相手のカップにポットから飲み物を注ぎ足す一瞬にも見られた。……先にたっぷりと向こうのカップに注いでいたので、自身の分が残っていなかったように見えて余計な心配もしてしまったが。ただ、そこにすら役を重ねたのではないかと思わせるような、生真面目な松村のワトソンだった。

鈴木勝吾は鋭くブレのないホームズ。社交的でないことはないが、彼の頭の回転に並大抵の人はついていくことができないため、結果として孤独。だがロマンチストで厭世的というわけではない。そんなふうに彼の生活や思考が想像できるほど、作り込みを感じさせる会話のテンポと仕草が特徴的だった。

特に目を引いたのは、頻繁に右手をタイピング、もしくはリズムを取るようにソファーの肘掛けを叩き、せわしなく動かす動作だ。ふいに何かを指差したり、思考を切り替えるように手を振ってみせるところも、常に頭を回転させている人間らしい。
蛇足だがアフタートークの際、一瞬その仕草が出ていたので「もしかして彼自身のクセだったのだろうか」という考えも過ぎったのだが、おそらく“シャーロック・ホームズのクセ”の余韻が出た、もしくは鈴木勝吾自身も常に目まぐるしく考えを巡らせている人なのだろう、と勝手に予測している。

5ペアの中で最も座ったまま朗読を繰り広げたコンビでもあり、安定感を感じさせながらも「自分たちは静止した状態で物語の状況を表現してみせよう」という試みに挑んでいたふたりでもあった。

◆有澤樟太郎 × 鈴木拡樹6月18日19時~公演)
※有澤は月曜パーソナリティー

2日目は有澤樟太郎がホームズ、鈴木拡樹ワトソンを演じた。

お互いの出方、話す内容をしっかり自分の中に取り込んでから相手に返すコミュニケーションの取り方が印象に残った。それは緻密というよりも慎重さ、そして相手への気遣い、優しさという感触に近い。5ペア中、“最も穏やかなコンビ”である。

その穏やかさは物静かで単調ということではなく、退屈というわけでも決してない。むしろ一瞬たりとも目が離せない魅力があった。

まず有澤のホームズは愛嬌がある。ワトソンに知識の偏りを指摘された際や、推理がはずれたときに見せる露骨な落胆など、欠点や失敗とも映る場面で見せる表情がとてもキュートだ。
そして自身の観察眼や推理力に対して“自分だけが扱える飽きない玩具”で遊んでいるかのようなウキウキ感が伝わる。

世の中には様々なホームズ像があるが、とっつきにくいホームズに対して第三者との仲を取り持つ常識人ワトソン、という構図も多い中で、有澤のホームズは他人を惹き寄せる人物像である。

そのホームズから、まるでとびきりの内緒話を聞かされるようなポジションに、相手をよく見る鈴木拡樹ワトソンはとてもハマっていた。
さらに聞き手に留まらず、楽しそうなホームズに感化されていくワトソンの変化と成長も垣間見えたように思う。
ワトソンは悪い人間ではない。だが戦地で負傷し、帰国してからも喪失感を拭えぬ無気力な日々。世界が灰色に見えているかのような青年が、ホームズと出会って心に何かを取り戻す。

一幕の終わりは犯人を白日の下に晒したホームズが立ち上がった状態で、ソファに腰掛けるワトソンを振り返り、二幕では世間に探偵の功績を発表することを決意したワトソンが立ち上がり、座ったままのホームズに微笑みかける。そのポジションの逆転が美しく、良い読後感が残ったコンビだった。

また何と言っても注目は、多彩に演じ分けられた登場人物たちのキャラクター造形だろう。ひとりでディ○ニー映画の吹き替えをやりこなせるのではないかと思うほどの、鈴木拡樹七変化は必見(必聴?)だ。
二幕で見せる有澤の犯人役も恐ろしい。もはや妄執にすら見える執着心と狂気が凄まじく、足踏みによる表現には慄いた。

“変装”というシチュエーションでもないかぎり、20代~30代前半の俳優たちが「老婆」や「女主人」「少年」などをひとつの作品で演じ分ける機会はなかなかないだろう。
“朗読劇”という懐の広さによって目にすることができた役者の力である。

染谷俊之 × 佐藤流司6月19日19時~公演)
※染谷は金曜パーソナリティー

3日目は染谷俊之ワトソン佐藤流司のホームズによる「緋色の研究」。

全体を通してアクティブで軽快。“最もにぎやかなコンビ”と表現できるかもしれない。一番明るく、彩度が高い緋色である。

染谷ワトソンによる流暢な言い回しにグイグイと惹きつけられ、一幕の終わりまであっという間に感じられたが、時間配分は他ペアとほぼ同じ。それだけスムーズな読み手だったのだと驚かされた。

染谷が演じるワトソンは、ホームズを見守るような紳士感と包容力を漂わせつつ、一個人としての性格にも芯が通っており、ワトソンという人物の個性が立っている。
それでいて自然体。この物語はワトソンの日記に綴られており、彼がシャーロック・ホームズワトソンの暮らす「221B」の居間で、何気なくページを開いたことで始まったのだ……というような全体の雰囲気を形づくっていた。

またワトソン以外に演じる登場人物もバリエーション豊か。自身のターンでは存分に遊び心を発揮し、ホームズや犯人の長台詞では“聞き入る”表情で魅せる。
緩急を自在に操る染谷のワトソンと、佐藤が演じるやんちゃなホームズのコンビはピッタリだった。

佐藤のホームズは、若々しく勢いがある。自身の才能に絶対の自信を持つが、鼻にかけているような嫌味さはなく無邪気だ。「だって俺、全部わかっちゃうんだから仕方ないじゃん?」というような悪びれなさが、かえって好印象を与える。

喜怒哀楽の上下が激しく、諮問探偵として活躍しながらも、名声を得られていないことには少々不満げ。そんなエネルギッシュな面が、登場シーンから殺人現場を検分する場面、クライマックスまで溢れ出ており、とても華やかだった。

そこから一変、二幕で見せた佐藤の犯人像は、枯れてくたびれ果てたような男。だが殺人シーンに近づくにつれて徐々に殺意が滲み出る。後半は正面を見据えたまま、息を乱しながら語り尽くし、鬼気迫る様を見せつけた。

ふたりとも自由度が高いようでいて、決して互いを邪魔していない。絶妙なコンビネーションだった。

◆東 啓介 × 橋本祥平(6月20日18時~公演)
※東は木曜パーソナリティー

4日目に登場したのは、東 啓介のホームズと橋本祥平のワトソン

ここまで3パターンのコンビを見てきて、そろそろ“違い”よりも“共通点”のほうが目につく頃ではないか……というこちら側の身勝手な不安を、さらっと飛び越えてくれたペアである。

ミステリーという原作のジャンル上、決して明るくはない展開の中、彼らは常に明朗で上品だった。不思議な説得力と瑞々しさを備えた“最もノーブルなコンビ”であったように思う。

東のホームズは少し気だるげ。深い響きを含んだ良い声もあってか余裕を感じさせる。長い足をテーブルに乗せて話す場面もあり、一見すると行儀が悪い男なのだが、そうは感じさせない品の良さがあった。彼が弾くヴァイオリンは本当に上手そうだ。

そんな渋みと落ち着きに反して、推理を語る場面や立ち振る舞いの端々には嘘をつけない率直さが伺える。ひとりで生きていけないほど不器用ではないが、どこか放っておけないホームズ独特の魅力が漂っていた。

“静”の色合いが強い東のホームズを引き立て、自身も輝いて見せたのが小気味の良いリズムで“動”のワトソンを演じた橋本。
場の説明や解説を担うというワトソンの役回りを気負わず、ワトソン本人の感情をイキイキと表現する。それは他の登場人物たちにも同様で、そのときにその人物が何を思っているのかがしっかりと伝わってきた。

橋本の読み上げには、サービス精神という名の配慮があるとも思った。耳を澄ますときには手のひらを耳の側に近づけるといった、状況説明の際にする仕草がわかりやすい。その素直さは東にも共通しており、奇をてらわずにスタンダードな表現を信じたあたりも、このペアに“ノーブルさ”を感じた理由だ。

共に20代半ば。キャリアの黎明期で共演している関係性も加わってか、このホームズとワトソンは、きっとその後も“名コンビ”として続いていくだろうなと思わせるバディ感があった。

◆矢崎 広 × 相葉裕樹6月21日18時~公演)
※矢崎は水曜パーソナリティー

5日間連続生配信のラストを飾ったのは、矢崎 広のホームズ、相葉裕樹ワトソン

5ペアの中で唯一の同い歳。お互いに一歩も引けを取らないといった感じの“最もクセのあるコンビ”、芸達者同士の「緋色の研究」だった。

矢崎は2012年に上演された際にも出演しており、しかもホームズとワトソンの両パターンを演じている。8年を経てのホームズ。期待とプレッシャーは大きかったかもしれないが、飄々と乗り越えて見せた。

まず矢崎のホームズで異色だったのが、“カメラ”に向けた目線である。“劇場”という空間から届ける朗読劇。観客がいるものと想定すれば、撮影しているレンズの位置は意識しないだろう。だがこれは無観客での“生配信”。そのシチュエーションを活かした目線と決め台詞に「その手もあったのか!」と、非常に面白く思った。

そして矢崎ホームズの印象は一番偏屈。思考は鋭いが、そのぶん少しばかり狭い視野の持ち主で、世間を疎んじているわけではないが、少々拗ねているような雰囲気がある。
そのホームズが、ワトソンから褒められた際に見せるぎこちなさとまんざらでもなく照れた様子には、おかしくもホッとさせられる。人物の不器用さをチャームポイントに見せる矢崎の愛され力、あるいは特技だ。

相葉のワトソンは、冒頭の語り始めから人生の挫折と苦難を感じさせる厚みがある。一方でホームズを試すような負けん気と、相手の才能を認める正直さも持つ。相反するような良さが同居しているワトソンだ。
テキパキとした口調の中にもふんわりした柔軟性が見えるし、青年の爽やかさと合わせて、探偵の相棒となっていくにふさわしい好奇心旺盛な面も持ち合わせている。ひと口には表現しきれないような幾層もの魅力をスパッとキレ良く提示している。

様々な登場人物の演じ分けも見どころ。特に刑事のひとり、グレグスンのキャラクターはとてもイメージしやすかった。年齢はもちろん、体格の違いまでもが目に見えるようで、ロンドンで暮らす様々な男たち(時には女も)、といったリアルさがあった。

このふたりのセッションで特に印象深かったのは、物語全体の“起伏”である。
どの場面の、どの台詞を重要なものとして強調するのか。役者の理解度と技量次第で朗読劇の伝達力は変わるのではないかと思っている。その面で、このコンビが最も意図を込めて物語に緩急を付けて挑んでいたように感じた。

……以上で、5ペアの所感を終える。

それぞれの“魅力”に特化して記述してきたつもりだが、きっと観る人によって、もっと豊かで様々な良さがあったのではないかと思う。

同じ作品を別の役者が演じることで見つかるその役者の良さ、作品の良さを感じることのできる贅沢な5公演。ニコニコチャンネル「『あさステ!』チャンネル」(おまけコーナーあり)にて6月29日(月)より各公演の配信が改めて予定されているので、見比べる楽しさもぜひオススメしたい。

(c)東映・文化放送

五組五様の朗読劇。『あさステ!』パーソナリティーの有澤樟太郎、松村龍之介、矢崎 広、東 啓介、染谷俊之がそれぞれゲストを迎えて劇場から届けた「緋色の研究」全公演レポートは、WHAT's IN? tokyoへ。
(WHAT's IN? tokyo)

掲載:M-ON! Press