セガの人気ゲームをハリウッドで実写映画化した『ソニック・ザ・ムービー』(公開中)で、ソニックの日本語吹替版の声優を務めた中川大志。そのクオリティの高さには、“七色の声を持つ男”と称される声優、山寺宏一も「本当に“大志”たもんだ」と太鼓判を押す。常に全力投球の中川大志を直撃!

【写真を見る】ソニックを見ておちゃめな表情をする中川大志

スーパーパワーを持ち、超音速で走ることのできる青いハリネズミソニック。敵にねらわれ、地球に逃げてきたソニックは、人目を忍んで独りぼっちで生きてきた。ところがある日、地球征服を企みソニックのスーパーパワーをつけ狙う悪の天才科学者のドクター・ロボトニック(ジム・キャリー)が現れたため、ソニックは保安官のトム (ジェームズ・マースデン)に助けを求める。

『映画ちびまる子ちゃん イタリアから来た少年』(15)、『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』(17)の日本語吹替版に続き、声優の仕事は今回で3度目となった中川。

「本作のソニックはCGのキャラクターとはいえ、口や目の動きを含めた表情の変化は、実写の役者とほぼ変わらないくらいの情報量があったので、実写の吹替えと同じような感覚で挑みました。声に関しても、二次元のキャラクター的な声の出し方になりすぎないように、ちょっと生っぽい人間味を出すことを意識しました。難しかったけど、楽しかったです」。

■「最初は、さすがに『やれないです』とお断りしました」

完成した日本語吹替版を観ると、中川の声優としてのスキルに舌を巻くが、中川自身は、オファーが入った当時「やっぱり声優さんというその道のプロがいるなかで、違う畑の人間がアフレコをやることに対しては、抵抗がありました。毎回そう思いますが、声優じゃない俳優が声を当てることに抵抗がある人がいるのも、わかっていますし」と、戸惑いを隠せなかったようだ。

「特に今回に関しては、マネージャーさんからオファーをいただいたと電話がかかってきた時、さすがに『やれないです』とお断りしました。ただ、普通に考えたら、ソニックというキャラクターと僕の役者人生が交わるはずがないので、この仕事が僕のところに来てくれたという奇跡自体が、すごいことだと思い、このままお断りするのはもったいないと、一晩考えました。それで『1回テスト収録をさせてください』とお願いをしたんです。その後テストをしてもらい、OKをいただいて、ようやく自分も納得できた感じです」。

ソニック役が決定したあとも、中川は「やらせていただくからには、声優さんたちに対して失礼にならないようにしたい。収録現場は、僕が声優の勉強をする場ではないので、仕上がった状態で本番に臨まなければいけない」と襟を正し、収録前に、発声の指導などを受けて、練習に励んだ。

「声優さんは、普段から自分の喉の状態についてわかってらっしゃるけど、僕は自分の声だけを集中して聞く機会があまりないので、どういう喉の使い方をしたら、ソニックの声に近くなるのかすごく研究しました。例えばキーが同じでも、喉の使い方でソニックっぽい声かそうじゃないかが変わってきます。イメージを音響監督や制作チームの皆さんと都度共有し、どこを目指すのか確かめ合いながら練習していきました」。

■「山寺宏一さんは、恩師でもあるし、お父さんみたいな存在」

ソニックをねらうドクター・ロボトニックの吹替えを務めた山寺宏一とは、中川が中学生時代に出演していたバラエティ番組「おはスタ」でも共演していて、中川にとっては「恩師でもあるし、お父さんみたいな存在でもある」と言う。

「山寺さんは、僕が中学生の時、2年間がっつりご一緒させていただいたあとも、ずっと僕を見守ってくださった方です。また一緒にお仕事ができることは純粋にうれしかったけど、今回は山寺さんのフィールドなので、緊張感はありました。山寺さんは『絶対、大丈夫だよ』と言ってくれてはいましたが、実際に僕の声を聞いて、どういう感想を持ってくださるのか、すごく近しい存在だからこそ、ドキドキしましたし、怖かったです」。

無事、山寺からお墨付きをもらった中川だが、完成した日本語吹替版を観て、改めて山寺の表現力に圧倒されたそうだ。

「すごく驚きました。僕はアフレコの練習をする際、何度もジム・キャリーの芝居を観てきましたが、山寺さんが吹替えると、また違うキャラクターになるんだとびっくりしたんです。やっぱりすごいなと感じました」。

■「正直、自分の顔に対してはなんとも思わない」

中川は、自身の枕詞にもなっている“国宝級イケメン”と言われることについて「ありがたいですが、そこに関してあまり自信がないです。僕は正直、自分の顔に対してはなんとも思わないというか、もっと顔がきれいな人たちはいっぱいいると思うので。だから、カッコいい役や、少女漫画に登場するようなイケメン役を演じる時は、精一杯努力をしています」。

朝ドラなつぞら」で演じた不器用な演出家、坂場一久役も記憶に新しいが、中川の演技力は、高く評価されてきている。高校卒業後、俳優1本に絞り込み、人気若手スターとして邁進中の中川は、最近、自分自身にある種の“余裕”が出てきたとも実感している。

「いままでは、肩肘を張っていました。自分が思い描いたイメージに演技が行き着かないと納得できなくて…。常に120%を目指していたので、まったく遊びの部分がなかったんです」。

いわゆる完璧主義者だったことは、自他ともに認めるところだそう。「僕はこれまで、自分が望んでいた地点に到達できなかったことを認めたくないし、そういう作品を残したくないとも思ってきました。いまになって思うと、それは“攻め”のようで、実は“守り”だったのではないかと。つまり完璧にできたと思っても、そこからはみ出る部分がなかったのかなと気づいた感じです」。

そう語る中川の表情が清々しい。「もちろん、適当にやるとか、力を抜くわけではなく、一生懸命にやることが前提ですが、そのなかで自分がどんな顔をしていようが、どうなっていようが、ぶっちゃけなんでもいいなと思うようになりました。自分が思い描いていたとおりにならなかったとしても、準備していたものと結果的に違うものになることのほうが多いし、そのほうがおもしろいものができるので。そう開き直ったほうが楽しいから、以前よりはリラックスしてやっています」。

6月14日で22歳になった中川だが、コメントも頼もしいし、伸びしろは無限大だ。本作では、声優、中川大志の凄みをぜひ実感してほしい。また、ソニックが魅せるアクションは、大スクリーンで観てこそ、その真価を体感できるはず。

取材・文/山崎伸子

山寺宏一とのエピソードも語ってくれた/撮影/山崎伸子