◆“ポストコロナ時代”の模範例を示したKリーグ

「世界で初めて新型コロナウイルスを克服したサッカーリーグ」。最近、韓国のサッカーファンメディアKリーグを語るときに、よく使われるフレーズだ。

 5月16日にはブンデスリーガが、6月8日にはラ・リーガが、6月17日にはプレミアリーグが再開されたが、5月7日に開幕したKリーグが世界に先駆けて“ポストコロナ時代”のサッカーの模範を示したと自負しているのだろう。

 実際、5月7日Kリーグ開幕戦は世界中から注目を集めた。昨シーズン王者の全北現代(チョンプク・ヒョンデ)対水原三星(スウォン・サムスン)の試合は中国、マカオ、香港、コソボドイツスイスオーストリアオーストラリアインドマレーシアイスラエルなど世界17カ国で中継され、限定的に行われたTwitterYouTubeの生中継には計340万人のアクセスがあったという。アメリカのESPNやイギリスBBCなどにも取り上げられるほどで、「1983年リーグ創設以来、初めてKリーグが世界で取り上げられたかもしれない」と、Kリーグ関係者も驚きとうれしさを隠せないほどだった。

 もっとも、そのKリーグも一時は深刻な状況に立たされていた。もともとは2月29日に開幕を予定していたが、韓国では2月19日を境に新型コロナウイルス感染者が急増。2月下旬になると新規感染者が毎日500人以上確認される緊急事態に陥り、Kリーグ2月24日に開幕の無期限延期を発表した。主管する韓国プロサッカー連盟は何度か緊急理事会を開いたが、「強い社会的距離確保」を求めた韓国政府の防疫対策もあり、4月になっても全く開幕の見通しが立たない状況だった。

 ただ、Kリーグが他国と異なるのは、リーグを開幕(再開)できずとも、各クラブの活動は継続していたことだろう。Jリーグなどは緊急事態宣言の発令期間中、チームも活動休止を余儀なくされたが、Kリーグでは全クラブが練習を続けていた。

 3月中旬には韓国プロサッカー連盟が新型コロナウイルス対策のマニュアルを配布。そこには、すべての選手とコーチングスタッフは1日に2回以上の検温、ペットボトルタオルなどの共同使用禁止といったことはもちろん、自宅や寮から練習場に通う選手たちの移動動線にも言及するなど、状況別のガイドラインが詳細に示されているという。

 特に外部との接触の禁止が厳しく強調され、他チームとの練習試合が全面禁止となり、チーム内の紅白戦で実戦感覚を維持するよう勧告された。練習試合が解禁されたのは、韓国政府による「社会的距離の緩和」の発表があった4月20日だ。

 つまり、Kリーグの各チームは1カ月近く“巣ごもり練習”に励んでいたわけだ。前出の5月8日の開幕は4月24日に発表されているが、準備期間がわずか2週間で済んだのも、中断期間中もチーム活動が継続され、なおかつ一人の感染者も出なかったことが大きいと言えるだろう。

◆最も期待されているのは観客動員の解禁

 とはいえ、パフォーマンスや組織力はチームによってバラつきがある。開幕から1カ月が過ぎた現在、首位争いをしているのは昨シーズン王者の全北現代と昨シーズン2位の蔚山現代(ウルサン・ヒョンデ)だ。ともに充実した戦力を誇り、今シーズンも優勝候補に挙げられているが、その対抗馬と目されていたFCソウル、水原三星といったかつての名門クラブは下位に甘んじている。

 また、開幕1カ月を終えてホームチームの勝率が下落していることも判明。昨シーズンまでは54.2パーセントだったが、第5節を終えたホームチームの勝率は48.3パーセントだった。特にFCソウルや水原三星は33.3パーセントに下落し、無観客試合がその一因となっているのではないかと推測する声もある。

 しかし、すべてのチーム無観客試合に手をこまねいているわけではない。スタンドサポーターイラストボードマスコットを飾ったり、ファンの歓声や応援コールを録音し、試合状況に合わせて音声を流しているクラブもある。FCソウルは確認ミスでアダルトグッズ業者のリアルドールを客席に設置してしまい、世界中の笑い者になってしまったが、「空席のスタンドに少しでも賑わいを」という工夫が空回りした“しくじり”を、いつまでもあげつらうことはできないだろう。

 それだけに、Kリーグで最も期待されているのは観客動員の解禁だ。世界に先駆けてリーグスタートさせて1カ月が経った今、次のステップとして観客を入れた状態での運営が待望されている。

 ただ、それも決して簡単ではないのが現状だ。5月7日の開幕時は早くて5月最終週、遅くても6月上旬には段階的に観客を受け入れたいという計画だったが、韓国では5月下旬から新型コロナウイルス感染者の集団感染のニュースが相次ぎ、再び緊張が高まっている。Kリーグもそうした状況を無視できないだろう。

 世界に先駆けてキックオフの笛を鳴らしたKリーグファンサポーターの歓声がスタジアムに鳴り響く日が来るのは、もう少し先のことになりそうだ。

文=慎 武宏

[写真]=Getty Images