憧れの給与の目安として「1000万円プレイヤーになりたい」などと発言することはないでしょうか。年収の金額が一桁上がればいろいろな夢が叶う。そんな風に思いがちです。しかし、世間からは「勝ち組」に見える年収1000万円家庭に育ったというKさんはそんなことには全く気づかず暮らしていたといいます。

母の口癖は「うちはお金がない」

それはKさんが高校三年生になり、大学進学を考えた時のこと。地方の公立高校に通うKさんは東京への進学を希望していました。そのため、親にはかなりの負担をかけることが予想されました。

「当時の我が家の状況は、会社員の父、週に2日だけパートタイマーとして働く母、私立高校に通う妹と祖母の5人暮らしでした。住宅ローンも残っていて、私も妹も学習塾に通わせて貰っている状態。祖母の年金は家には入れてもらっておらず、母はいつも『家計が苦しい』といっていました。本来なら地元に残るべきとは思ったのですが、私には東京に出てやりたいことがあったので『我が家の状態を考えたら奨学金を借りながら進学するしかない』と考えました」

学校で奨学金募集のポスターを見つけたKさんは、早速在学中に申し込める奨学金の審査に応募するため進路担当の先生に書類を提出しました。すると、後日先生から個別に呼び出されたそうです。

「そこで担当教諭からいわれたのが『Kのうちは収入が多すぎて審査に通らないよ』というセリフでした。私は一瞬意味が分からず『そんなはずはありません。うちは貧しいはずです』と食い下がりました。私が必死に我が家のお金のなさを語ったので先生は少し困った表情で『いろんな控除を引いても高収入に該当してしまうんだよ』と書類一式を返却してきました。そして、私ははじめてそこで父が年収1000万円を超えていることを知りました」

その金額に驚いたKさん。自宅に帰るとお母さんに「うち貧乏じゃないじゃない!」と詰め寄りました。しかしお母さんは「だって実際に毎月大変なのよ?」と答えたそうです。

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1000万円プレイヤーは給与所得者のおよそ5%

国税庁が2019年9月に公表した「民間給与実態調査」によると、1年を通じて勤務した給与所得者5026万人のうち、1000万円以上の年間給与所得を得ているのは約250万人、全体のおよそ5%にあたります。そんな20人に一人の存在でも「生活が苦しい」とつぶやいてしまう裏には、いったいどんな理由があるのでしょうか。実際に年収1000万円以上の人からは以下のような声が聞こえてきました。

・「給与が増えると、税金や社会保険料がとにかくあがる。『日本は累進課税制度だから仕方ない』なんて言われるけれど、頑張って働いた結果が所得制限に引っ掛かっていろいろな手当の対象外になるというのが腑に落ちない」

・「とにかくいろんなものを引かれていくので自分がたくさん稼いでいる部類と言われても実感がわかない。実際は年収700万円くらいの人と変わらない生活レベルなんじゃないかと本気で思う」

どうやら「夢の年収1000万円」を実現した人たちの生活は思っているより華やかなものではないようです。

恩恵もなく質素に暮らす家庭も

年収が1000万円以上あるにもかかわらず、体感としてお金がある感じがしない。どうやらKさんの家庭は特別珍しいパターンではなかったようです。

近年では高校無償化などが進んできましたが、そういったものもこれくらいの額だと所得制限に引っ掛かってしまい、恩恵を受けることもできません。実際、Kさんの言うように多くの家庭が制度から外れてしまい「子供が私立高校に通うと生活が苦しい」というのは切実な悩みになっているようです。

あなたのそばにも隠れお金持ちが?

世間からは「お金持ち」と思われているにもかかわらず、その実態は全く質素だという年収1000万円家庭。周囲からは「知らないうちにいいものを選んだりして生活水準を上げているからなんじゃないの?」なんて言われるそうですが、Kさんの家庭は全くそんなことはなかったそう。

だからこそ、私立高校を目指す妹のために率先して自分は公立高校へ進学し、親に負担のかからない方法を考えたりした彼女からすると「奨学金を貸してもらうことすらできないなんておかしな立ち位置だ」と思ったそうです。イメージと違う高収入家庭。実は気づかないだけで自分の家も「分類的には高収入」に該当しているかもしれません。

【参考】国税庁民間給与実態調査