(作家・ジャーナリスト:青沼 陽一郎)

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東京アラート」なるものが解除されてから、東京都内の感染者数が増えている。6月26日から30日までの5日間は連続して50人以上が確認されている。東京アラート発令期間中よりも、明らかに増加傾向にある。だが、小池百合子東京都知事に、再度の東京アラートを発令する構えはない。

 東京アラートの発令には、いくつかの基準があった。1日あたりの感染者数(1週間平均)が20人以上、感染経路が不明な人の割合が1週間平均で50%以上、週単位の感染者数の増加率が1倍以上、などというものだ。

 すでに東京都の状況はこの基準をいくつか上回っている。だが、それでも「東京アラート」を発令しないのは、そもそも東京アラートになんの効果もないことを、小池都知事自ら告白したに等しい。

 なぜなら、30日の会見で、新しいモニタリング指標の変更を打ち出して、「東京アラート」の今後の発令はない、としたからだ。代わって、医療体制のと状況把握を重視して、週1回の専門家会議を開催するとしながらも、休業要請や警戒を発する具体的な指数の基準を明確にしなかった。実に、曖昧な対策に後退している。

感染者増でもなぜか積極的対策はなし

 新型インフルエンザ等特別措置法に基づく政府の「緊急事態宣言」が、最終的に解除されたのは5月25日のことだった。これを受けて東京都では、休業要請の解除行程を3段階で示すロードマップの「ステップ1」に移行。6月1日からは、さらに緩和した「ステップ2」に移行した。

 ところが都内では感染者が増加。そのため2日に東京アラートが発令され、11日に解除されるまで続いた。しかも、解除と同時に「ステップ3」に移行し、翌12日には小池都知事が「コロナ対策が一段落した」からと、東京都知事選挙への再出馬を表明している。

 さらに19日には、休業要請を全面的に解除。それでアラート発令中より、ここへきて日々の感染者が増加して高止まりしている。感染状況と都の対策の、このチグハグぶりは何なのだろうか。

 そもそも東京アラートには、なにかを制限したり、自粛を要請したりする機能はない。ただ、感染者増加による警戒を呼びかけるだけのものだ。そのシンボルとして、東京都庁とレインボーブリッジがライトで赤く染まった。それだけだ。

 小池都知事は、ただ、それをやりたかっただけのことではないのか。

 それは、大阪府がもっと以前からやっていたことだ。

 大阪府では「大阪モデル」という、自粛要請の解除や再要請を判断する際の独自の指標基準を設定して、7日連続で一定水準が下回れば、要請を段階解除する方針を打ち出した。これに合わせて、警戒レベルを赤色(警戒レベル)、黄色(注意喚起レベル)、緑色(基準内)の3色で表し、5月11日から、大阪城太陽の塔、それに通天閣をその色でライトアップした。

 そのあとのことだ。小池都知事が「ロードマップ」「東京アラート」と言いだしたのは。

 ただ、大阪のライトアップを真似ただけ、やってみたかっただけのことではないのか。その有効性も見えてこない。

 そう考えると、小池都知事にはあるひとつの傾向が見えてくる。

 小池百合子には、オリジナリティがない――。

振り返ってみれば対策の大半は「借り物」

 みんなどこかから引っ張ってきたり、真似事をしたりする。だから、横文字の命名や発言が目立つ。

 東京アラートという言葉も、米国ニューヨーク州に「ニューヨークアラート」というものがある。個人が電話やメールなどで、災害や犯罪などの緊急警報を受け取れる登録システムだ。

 欧米で新型コロナウイルスの感染が拡大していく中で、3月9日にはイタリアで、3月17日からはフランスで、住民の外出や移動を制限する都市封鎖、いわゆる「ロックダウン」の措置をとった。

 すると、都内の感染者が累計で136人だった3月23日の記者会見で、小池都知事は突如、こう発言している。

「今後の推移によりましては、都市の封鎖、いわゆるロックダウンなど、強力な措置をとらざるを得ない状況が出てくる可能性があります」

 だが、日本では都市封鎖なんてできるはずもない。そこに法的根拠はないからだ。なのに、他国に感化されたのか、真似るようなことを言いのけている。

(参考記事)なぜ都知事はできない「ロックダウン」を口にしたか
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/60090

 結局、彼女にできたことは、外出自粛要請くらいのものだが、4月の終わりから5月の大型連休にかけてを、「ステイホーム週間」と位置づけていた。「Stay Home」はニューヨーク州のクオモ知事が連日の会見で呼びかけていた言葉だし、「Stay at Home」なら英国のジョンソン首相が繰り返していた。ただ、英国では5月11日から外出制限が緩和され、その後は「ステイアラート」がスローガンになっている。

 そもそも、小池都知事が立ち上げた地域政党「都民ファーストの会」。このネーミングからして、トランプ大統領が前回の選挙戦で「アメリカ・ファースト」と叫んでいたことからとったものであることは、誰の脳裏にも浮かぶ。

 しかも、再選を目指す7月の東京都知事選挙で、小池都知事は公約の最初に「東京版CDC(疾病対策予防センター)の創設」を掲げている。これは言うまでもなく、オリジナルの米国CDCから拝借してきたものだ。その米国は、新型コロナウイルスによる世界で最も多くの感染者と死者を出している。

 感染者数が再び増加傾向にある埼玉県の大野元裕知事は、29日に東京との往来を避けるように県民に呼びかけた。感染由来は東京都にあるとする見解に基づく。単純だが、もっともわかりやすい対策だ。ウイルスを持ち込まなければいいだけのことだからだ。

模倣ばかりで理念なし

 その東京では、夜の街、接待を伴う飲食業、それも新宿のホストに感染者が多いとしている。北海道小樽市では「昼カラ」によって感染クラスターが発生している。いずれも娯楽によるものだ。だったら、分かりやすく東京ならば“新宿のホストクラブ”を対象に、その地域や業種限定で休業要請を出し、応じた店にはあらためて休業補償をするなど、積極的な措置をとればいいのに、やらない。

 むしろ、小池都知事が30日の会見で表明したことと言えば、夜の街への外出の自粛という、もう数カ月前の発言を繰り返していることくらいだ。 

 いまは医療体制が整っているからいい、感染源が特定されているからいい、小池知事は日々の感染者が50人を超えても、テレビカメラの前で記者にそんなことを語っていた。だが、感染拡大の第2波も懸念される中で、もっとも求められることはウイルスとの共存ではなく、封じ込めのはずだ。彼女の言う「ウィズ・コロナ」ではない。「排除」だ。

 日本国内の感染者が再び増加傾向にある。しかも東京が感染拡大の先陣を切りながら、新たな具体策も打ち出せないでいる。お手本となるものもない。

 カイロ大学卒が本物か学歴疑惑も囁かれるなか、それよりも横文字を多用して、あたかもインテリ風に見せかけながら、実は借り物ばかりでオリジナリティに欠ける。もちろんそこには一貫した理念も哲学もない。エピゴーネン(先行者を追随し真似しているだけの人、模倣者)としての正体が透けて見えてきた。そんな気がしてならない。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  『女帝』熱愛報道の嘘と小池都政の空虚な精神構造

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