―[魂が燃えるメモ/佐々木]―


いまの仕事楽しい?……ビジネスだけで成功しても不満が残る。自己啓発を延々と学ぶだけでは現実が変わらない。自分も満足して他人にも喜ばれる仕事をつくる「魂が燃えるメモ」とは何か? そのヒントをつづる連載第194回

 アマゾンの創立者ジェフ・ベゾスは起業した際に、「顧客第一」を自分の経営理念にしました。これは「顧客第一主義を世界で一番実現する企業になる」というアマゾンの社是にもなっています。

 ベゾスはなぜ顧客第一を経営理念にしようと考えたのか。決断には常に人物の影響があります。「あの時、あの人が、ああ言ったから。だから自分はこうするんだ」ということがあって、人は何かを決断します。ベゾスの決断に影響を与えたのは、ミシシッピ州オックスフォードで書店を経営しているリチャード・ハワースです。

 ベゾスはアマゾンを開設する10ヶ月前に、本の売り方を学ぶために書店開業セミナーに参加しました。この時に講師を務めたのがハワースです。ハワースは顧客サービスの重要性を唱え、次のような自分の体験を語りました。

 ある日、ハワースがお店の2階にある事務所で仕事をしていると、お客から苦情がありました。その苦情は「店のバルコニーのプランターから土がこぼれて、自分の車が汚れた」というものでした。そこでハワースはお客の車に同乗して、洗車場のあるガソリンスタンドに向かいました。しかし、そのガソリンスタンドは休業していました。そこで今度は自分の自宅へ向かい、バケツと洗剤とホースを持ち出して、お客の車を洗いました。このことでお客の態度は柔らかくなり、その日の午後に再び店を訪れ、本をたくさん買ってくれたそうです。

 ベゾスは「この話がとても印象的で、『顧客サービスアマゾンドットコムの礎にする』と決めた」と、米国書店協会の理事に対して語っています。そして、ベゾスは「シンプルで見やすいサイト」「何処よりも豊富な品揃え」「迅速で安価な配送」という形で顧客サービスを充実させていきます。

◆人物の影響がどう響くかは受け手次第

 人物の影響は抽象的です。誰かの体験を聞いて、「顧客第一が大切だ」と感じても、どんな行動が顧客第一なのか、具体的に思い浮かぶ内容は人によって異なります。この経緯について、ハワースは「ベゾスに顧客の車を洗った経験はないと思いますよ」と皮肉っています。しかし、もしベゾスがアマゾンという通販サイトに関して、一人一人に親身になる事が顧客第一だと考えていたら、カスタマーサービスに電話番号がない今のアマゾンはなかったでしょう。

 ベゾスはコンピュータ及びインターネット業界で大成功を納めた人物ですが、アップルスティーブ・ジョブズや、グーグルラリー・ペイジ、セルゲイ・ブリンなどとは少し異なっています。ジョブズは「美しい書体を持ったコンピュータ」に、グーグルの二人は「すべての情報に索引をつけること」に、つまり事業そのものに情熱を感じていました。

 それに対して、ベゾスは「インターネットは途轍もないスピードで拡大していくだろう」という成長性を見込んで参入しています。しかし、だからといって彼が「儲かりそうな業界だから」という、よくある理由だけで始めていたら、今のような成功はなかったでしょう。

 そして、その時に見つけたのが、書店開業セミナーで出会った「顧客第一」という経営理念だったのです。このように人物の影響というのは、いつどこで自分に起きるかわかりません。だからこそ、多くの経営者は成功の理由について、「自分は運がよかった」と話しています。

 しかし、その運命には「人物の影響」という正体があります。誰かの発言や行動に接していると、自分の心を揺さぶられるものと出会います。その心を揺さぶられたものこそ、その人がやるべき仕事です。仕事やビジネスというとつい理屈で考えがちですが、「顧客第一」は理屈で納得する理解するものではありません。誰かの体験に共感して、「自分もそうしよう」と心情で理解するものです。

 単に頭で考えるだけでなく、目と耳を開いて、足を運び、感動すること。もしくは、これまでに感動した体験を思い出すこと。このどちらかがきっかけになって、個人における信念や、企業における理念は見つかります。

 ベゾスの体験は平たく言えば、「ビジネスセミナーで感動した」という話に他なりません。もしビジネスセミナーに行って感動した経験があれば、ベゾスの体験について「そういえば自分にも似たようなことがあった」とその時の心情がよみがえり、それが行動の原動力になります。今回の話は『ワンクリック-ジェフ・ベゾス率いるAmazonの隆盛-』(日経BP社)に詳しく書かれています。気になった方はぜひ読んでみてください。

佐々木
コーチャー。自己啓発ビジネスを結びつける階層性コーチングを提唱。カイロプラクティック治療院のオーナー、中古車販売店の専務、障害者スポーツボッチャ」の事務局長、心臓外科の部長など、さまざまな業種にクライアントを持つ。現在はコーチング業の傍ら、オンラインサロンを運営中。ブログ星を辿る」。著書『人生を変えるマインドレコーディング』扶桑社)が発売中

―[魂が燃えるメモ/佐々木]―