人種や民族の差別や憎悪を助長する投稿を放置しているとして、米フェイスブックのサービスへの広告出稿を停止する動きが広がっている。

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ファイザーやSAPが新たに参加

 米CNBC6月30日付の記事によると、同日時点で、このボイコット運動に賛同して行動を取った企業や、正式に運動への参加を表明していないものの、米ツイッターや米ユーチューブも含めたソーシャルメディアへの広告出稿を取りやめた企業・団体は計240以上に上るという。

 直近で、広告出稿ボイコット運動に参加した企業は、米製薬大手ファイザーや独ソフトウエア大手SAPなど。ファイザーは、7月いっぱい、フェイスブックとインスタグラムですべての広告出稿を取りやめるという。SAPは「人種差別や憎悪表現の拡散防止に向けた明確な行動を示すまで、フェイスブックとインスタグラムに広告を出さない」と述べたという。

ベライゾン、ユニリーバ、コカ・コーラ、VWなど大手も

 これに先立つ6月25日ロイターCNBCなどは、米通信大手ベライゾン・コミュニケーションズが7月からフェイスブックへの広告掲出を一時停止すると報じた。この時ベライゾンは声明で「我々を安心させることができる、納得のいく解決策をフェイスブックが見いだすまで中止する」と述べていた。この時点で運動に参加していた企業は数十社で、その中ではベライゾンが最大の企業だと、ロイターは伝えていた。

 しかし、翌日になると、食品・日用品大手の英蘭ユニリーバや米コカ・コーラも出稿取りやめを発表。その後もドイツ自動車大手フォルクスワーゲン(VW)が追随するなど、収束のめどが立たない状況が続いているという。

トランプ大統領の投稿を放置、従業員がCEOに抗議

 問題の発端となったのはトランプ米大統領の投稿だったようだ。米ミネアポリスで白人警官に取り押さえられた黒人男性が死亡した事件を受け、大規模な抗議デモが全米各地に広がったが、これに対し、大統領フェイスブックへの投稿で抗議デモへの参加者を「悪党」と呼び、「略奪が始まれば、銃撃も始まる」と警告した。

 大統領はツイッターにも同じ内容を投稿した。ツイッターはこれに「暴力の賛美に関するツイッターのルールに違反する」と注記をつけたうえで、利用者が「表示」をクリックしなければ閲覧できないようにし、コメントなしのリツイートや「いいね」、返信を禁止した。

 しかし、フェイスブックはこれを容認。そのまま閲覧できる状態にした。これに同社社員の不満が噴出。6月1日には在宅勤務中の社員数百人がストライキを起こし、マーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)を非難した。

 ザッカーバーグCEOはかねて、トランプ大統領などの政治家の発言は、同社がその是非を判断すべきでないとの方針を示していた。5月28日、CNBCの番組に意見を求められた同氏は「SNS(交流サイト)の運営企業は真偽の審判者になるべきではない」と表明。「政治的な発言は民主主義社会において最も慎重に扱うべきものの1つ。政治家のメッセージは皆が見られるようにすべき」と述べていた。

人権擁護6団体がボイコット呼びかけ

 CNBCによると、6月中旬、「名誉毀損防止同盟(ADL)」や「全米黒人地位向上協会(NAACP)」、「スリーピングジャイアンツ」、「カラー・オブ・チェンジ」、「フリープレス」、「コモンセンス」といった6つの人権擁護団体が米企業に対し、7月1日から1カ月間、フェイスブックへの広告掲出をやめるように呼びかける運動「ストップ・ヘイト・フォー・プロフィット」を開始。これに大手が賛同した。

 こうした動きを受け、フェイスブックは方針転換を余儀なくされた。ザッカーバーグCEOは6月26日、投稿や広告に対し、より厳格な規則を適用すると明らかにした

 今後は投稿内容に問題があると同社が判断した場合、政治家などの投稿でニュース価値があるものには注意喚起のラベルをつけて掲載を続ける。一方で、暴力の助長や投票妨害といったものは削除する。この場合、政治家でも例外を認めないという。

 また、特定の人種や民族、宗教、性的指向などの人を危険な存在だと主張する広告を禁止する。移民や難民などに対し嫌悪感を示したり、侮蔑したりする広告も禁じるとした。

 しかし、これはフェイスブックが抗議者にいくらかの譲歩をしたといった程度の措置だと、米ウォールストリート・ジャーナルは指摘している。

 より大胆な方針変更を示さない限り、この問題は長期化する可能性があるという。米大手運用会社アライアンスバーンスタイン(AB)のアナリストは、「ボイコットはフェイスブックとインスタグラムの両プラットフォームで引き続き拡大する」との見方を示しているという。

 (参考・関連記事)「フェイスブック、怒る社員に『人種間の平等』約束

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フェイスブック ロゴステッカー(写真:AP/アフロ)