テイクアウト不倫”を本誌にすっぱ抜かれたグルメ芸人が、“つまみ食い不倫”だの“女まで食べ歩き”だのとさんざん揶揄されたように、男性が女性とセックスすることは、しばしば“食う”とか“食べる”とか形容される。しかし、もし(一部のカマキリのように)性交後、女性が男性を文字通り食べてしまう世の中になったとしたら?

 この強烈な仮定から出発する「ピュア」など全5編を収める短編集が本書。表題作は、SFマガジン掲載後、早川書房のサイトで全文が無料公開されると、評判が評判を呼んで盛大にバズり、同社史上1位となる20万超のPVを記録した。

 小説の背景は、環境破壊によって地球人口が今の4分の1にまで激減した未来。国家連合が遺伝子改良を推し進めた結果、女性は、鱗と牙と鉤爪を持つ、平均身長2メートルの強靱な肉体を獲得。人口の9割を占める男性がひ弱な体のまま地上に残る一方、女性は人工衛星で暮らし、妊娠出産を義務づけられている。だが、妊娠するには性交後に男を“食べる”ことが不可欠。この状況下で、果たして恋愛は可能なのか?

 著者は、「現代女性の生きづらさを描いたらSFになった。」と題するネット上のインタビュー(こちらも話題になった)で、「ピュア」がモチーフを借りたという『人魚姫』について、“ダメ男が考える都合のいい女の話”とアンデルセンを一刀両断。女は本当は自分たちで思ってるよりずっと強い存在だという持論を小説にしたと語っている。

「こんなもの村上春樹が書いたとしても私は読まない」

 この短編を「女による女のためのR-18文学賞」に応募したが一次選考も通過せず、他社に持ち込んでも「こんなもの村上春樹が書いたとしても私は読まない」と門前払いされた――というあけすけな楽屋話もめちゃくちゃ面白いが、それがこんな話題作に化けるのだから世の中わからない。

 荒削りだがパワフルな文体で語られるこの突拍子もない恋愛に共感する読者が多かった証拠だろう。

 他の4編はすべて書き下ろし。女性から男性の体に変わった幼馴染みとの関係を巡って揺れ動くキュートな青春小説「バースデー」。“もしかぐや姫が地上に恋人を残していたら?”という発想から始まる、種(と性別)を超えたラブストーリー「To the Moon」。未曾有の実験により12人の胎児の母となった研究者のドラマ「幻胎」……。いずれも性と愛がテーマだが、トーンはさまざまだ。

 最終話の「エイジ」は、男性側から表題作の世界を描いたスピンオフ。“男は女に喰われるだけだから、学なんていらない。労働に従事して、最低限の娯楽で息抜きして、あとは女に健康な精子を提供して、死んでゆく”という地球上で、15歳の工員エイジは、工場で最年長(27歳)の本好き、芹沢と出会う……。全5編を読み終えると、ある種の切実さが胸に残る。

おのみゆき1985年生まれ。作家。慶應義塾大学フランス文学専攻卒。著書にエッセイ『傷口から人生。メンヘラが就活して失敗した生きるのが面白くなった』、小説『メゾン刻の湯』など。

おおもりのぞみ1961年高知県生まれ。書評家、翻訳家。訳書にテッドチャン『息吹』、劉慈欣『三体』(共訳)など。

(大森 望/週刊文春 2020年7月2日号)

『ピュア』(小野美由紀 著)早川書房