〈お腹の命の胎動と温もりを感じながら毎晩ニュースをお伝えして参りましたが、今週いっぱいをもちましてしばらく番組をお休みすることになります。コロナ禍の出産ということで、家族の立ち合いはなく面会も制限されるようです。不安もありますが、まずは無事出産を終えられることを願いつつ、再び『NEWS23』で皆様にお目にかかれる日を楽しみにしております〉

 メインキャスターを務めるTBSNEWS23』のツイッターを通じ、本日7月3日(金)の放送を最後に産休入りすることを発表した小川彩佳アナ。「週刊文春WOMAN」2020夏号では、緊急事態宣言下の電話インタビューで、身重の体でコロナ禍キャスターを務める中での葛藤、覚悟を明かしていた。

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 始まりは「謎の肺炎」でした。今年1月7日TBSNEWS23』ではカルロス・ゴーン被告の海外逃亡、桜を見る会、経済界の新年祝賀パーティーなどを取り上げ、最後に「中国・武漢市で原因不明の肺炎が発生し厚労省が注意を呼びかけている」とお伝えしています。

 いったい何なんだろうと気にはなりましたが、これが今日のパンデミックの端緒となるニュースであるとは想像もしていませんでした。 私たちはこの日から、ニュースの伝え手として、前例なき手探りの歩みを始めることになります。

 2日後に原因となるウイルスが検出され、翌週は国内で武漢出身の男性の感染がわかったことで、いよいよ「謎の肺炎」は国内の出来事になり、その呼び名も「新型コロナウイルス感染症」に変わって、ニュースコロナ一色になっていきます。

 

 当初はこの未知のウイルスについて一次情報はどこにあるのか、どこをたどっていけば正しい情報に行き着くのか、なかなかわからないなかで取材していかなければならない状況でした。感染症の専門家の見解も、最初はヒトからヒトへの感染はないということでしたが、それが、感染するが感染力は弱い、感染する、感染力が強い、と変わっていく。これは非常に恐ろしい経験でした。

 その時々の精一杯を尽くしていたつもりではありますが、新たな知見が既出の情報を次々と覆し、さまざまな新説が出てくるなか、1週間前に私たちは正しい情報を伝えられていなかったのかもしれない。自分がどんな言葉でどうお伝えしてきたか、これは今後個人的に振り返って精査したいと思っていることです。 

 コロナ禍は、報道機関の中にいる私たち自身に降りかかるものでもありました。3月31日TBSの局内で感染者が確認されると、さまざまな放送対応が話し合われました。私は2月末に妊娠を公表していたので、翌朝かかってきた電話を取るときは、私はもう出演できなくなるのかもしれない、と放送に穴を開けてしまうことへの不安がよぎりました。

 ところが、電話は家の中に中継できる場所を確保できるか、どういう機材を持ち込めるかという問い合わせで、お答えしているうちに、バタバタといつものスタジオを離れた場所から出演する態勢が整えられていきました。こうして私は他番組に先駆け、遠隔出演でニュースをお伝えすることになったのです。

 もともと、妊娠した身で働いているということについては、スタッフに気を遣わせているのではないかという罪悪感のようなものが常にありました。ですから、こうした配慮で出演を継続させていただけたことは、一人の働く妊婦として、大変有難いことでした。

憤りが顔に出てしまったことも

 それからはクラスターオーバーシュートロックダウンと、今まで使ったことのない言葉が飛び交い、人が毎日亡くなり、緊急事態宣言が出される。日々刻々と変わる厳しい現実は正確にお伝えしなければならないが、感染の不安によるパニックを生むようなことがあってはいけない。

 遠隔出演ではあってもいつものメンバーが顔を揃え、いつもと同じようにお伝えする、せめて最後は笑顔で「それではまた明日、お目にかかります」と締め括ることで少しでも落ち着いていただけるような作用を同時に提供できたらと思いました。

ですから、何より私が冷静でなければならないわけですが、VTRの後にコメントする際に憤りが思い切り顔に出てしまったこともあります。『週刊文春WOMAN』でキャスターの大先輩である国谷裕子さんと対談させていただいた際に(2019夏号)、「キャスターが感情を露わにすること」については慎重であることが大切とアドバイスを頂き、その通りだと思っていたのに、つい感情が顔に表れたり、それを言葉に載せてしまったりする。そんな自分の未熟さは情けない限りです。

 ショックだったのは、一昨年まで毎日仕事を共にしていた『報道ステーション』(テレビ朝日)の富川キャスタースタッフの方たち、そのご家族の感染です。一時重症化したディレクターは大変お世話になった方ですし、赤江珠緒さんは私が初めて担当した番組『サンデープロジェクト』の前任者で、番組の引き継ぎをしたときからご縁が始まっています。身近な方々の感染は心配でしたし、一市民としても伝え手としても、より引き締まるものがありました。 

 遠隔出演をしながら、伝え手としてどうやって私自身がリアルな“今”を捉えていくか。現場に出向いて取材することができないというもどかしさを覚えつつ、この間、飲食店の方、生活困窮者の支援をしている方、医療の最前線の方など、いろいろな立場の方に電話でじっくりお話を伺うことを日課にしてきました。

 現場の生の声を聴いてさまざまな側面からコロナ、そしてウィズコロナの問題を捉え、刻々と変わる「現在地」への理解を常にアップデートさせていくために、この電話取材は今後も地道に続けてまいります。 

このまま出演を続けていてよいのかと自問自答しながら

 感染予防を人一倍徹底しながらではありますが、こうした不安定な状況であるからこそ、報道番組のキャスターとしてできる限りお伝えし続けたいと思ってきました。一方で、妊娠中の私が仕事を続けることで、産休を取りづらい雰囲気を作ってしまっているというご批判の声をいただくこともあります。

 早く産休に入るべきなのか、このまま出演を続けていてよいのかと自問自答しながら放送に向き合い、産休についての方針を固めてきました。そうしたなか、視聴者の方々には多くの支えを頂きました。

 感染拡大が深刻だったとき、「毎日お腹の赤ちゃんと二人でお仕事をされて大変ですね。足りないという報道があったから」と、お便りとともに赤ちゃん用のガーゼを送ってくださった方がいました。殺伐とした中にあっても他の誰かを想う、カメラの向こうの温かな心に触れたとき、あらためて精いっぱいニュースを届け続けたいという気持ちを強くしました。

 辛いこともあります。発熱症状のある妊婦さんがコロナを疑われ、どこにも受け入れられずに流産してしまったというニュースがありました。発熱は流産の兆候を示すものだったのに。同じ妊婦としてあまりに辛く、お伝えするのに相当な覚悟を要しました。

 編集部のリクエストにお応えして、遠隔出演の舞台裏を少しご紹介しますと、人と人との接触を避け、最小限の人数で放送に対応するために、私にはスタイリストさんとメイクさんはついていません。顔のメイクは普段から自分で行っていますが、照明が計算し尽くされたスタジオと同じメイクを施してしまうと、強く映え過ぎてしまうのが悩みの種です。

 ヘアについては、私の髪はもともとヘアメイクさん泣かせで、まったくいうことを聞いてくれません。そのため残念なヘアのまま放送が始まってしまうこともあります。

 出産後にコロナを巡る状況がどうなっているのか、先が見えないなかではありますが、まずはこれから産休に入るまで、経済対策の中身はどうなのか、医療体制は整っているか、まだまだ疑問は残っていますし、今はコロナによって水面下に隠れている問題もこれから顕在化してくるでしょう。なるべく広い視野で目配りしつつ、愚直にお伝えしてまいります。

※このインタビュー2020年5月9日に行ったものです。

おがわあやか
1985年東京都生まれ。青山学院大学国際政治経済学部卒業後、テレビ朝日入社。2011年から「報道ステーション」のサブキャスターを7年半務める。19年4月にテレビ朝日を退社。同年6月、TBSNEWS23メインキャスターに。今夏に出産を控える。

こみね あつこ週刊文春WOMAN 2020夏号)

小川 彩佳(NEWS23キャスター)