第43回日本アカデミー賞で最優秀作品賞・最優秀主演女優賞・最優秀主演男優賞の3部門を獲得するという快挙を成し遂げた藤井道人監督の『新聞記者』が、7月19日(日)夜9時にWOWOWシネマで、いよいよテレビ初放送される。

【写真を見る】新潟から藤井道人監督を応援!「市民映画館シネ・ウインド」と「新潟藤井組」にリモートインタビュー

昨年6月に劇場公開されるや大きな話題を集め、各地で異例のロングランヒットを記録した本作だが、そのなかでもひときわ大きな応援をしていたのが、新潟県新潟市にある「市民映画館シネ・ウインド」と、同館をホームに活動する「新潟藤井組」の人々だ。

このたびシネ・ウインドの井上経久支配人と、新潟藤井組の発起人である清野明日香にオンライン取材を行い、『新聞記者』と藤井監督の魅力について熱く語ってもらった。

■「『新聞記者』には、お客様から『日本映画に希望を持てた』と声がありました」」(井上)

1985年新潟市内にあった名画座が閉館したことをきっかけに、有志で募金を集めてオープンした「シネ・ウインド」。その特徴は“市民映画館”という名のとおり、運営から上映作品の選定に至るまでを市民会員が行う、全国でも珍しい市民参加型の映画館であるということ。会員数はいまや2000人を超え、新潟市民だけでなく北海道や九州など全国から集まっているのだとか。

また上映ラインナップもドキュメンタリー映画やインディペンデント作品など幅広く、井上は「会員の方からのリクエストはもちろん、この映画を新潟の人々に届けたいか、ということを考えながら選んでおります」と、劇場としてのポリシーを語る。

そんなシネ・ウインドと藤井監督との出会いは、2018年に公開された『青の帰り道』だったという。

清野は「元々は出演者の横浜流星くんのファンで、新潟でも上映したいと思ってリクエストしたのが始まりでした。地元に残った者と上京した者の対比が描かれた映画なので、やはり地元で観るということにこだわりたかった」と、井上に直接会ってその強い想いを伝えたのだという。

その後、念願かなって上映が実現し、公開初日には藤井監督が舞台挨拶に登壇することに。そして清野をはじめ、上映のために奔走した有志の人々が藤井監督の人柄や作品に感銘を受け、『青の帰り道』以降も藤井監督を応援していこうと考えたことから“新潟藤井組”の発足に至ったとのこと。

昨年11月にはシネ・ウインドで特集上映「藤井道人ムービーセレクションvol.1」が開催されることになった。そこでは『新聞記者』と『青の帰り道』に加え、『7s セブンス』(15)や『光と血』(17)といった初期作品を含めた4作品が上映。そのなかでも『新聞記者』の反響はあまりにも大きかったようで、井上は「ほかの上映作品と比較してもずば抜けた動員を記録しました」と振り返り、「お客様からは『日本映画でもこのような社会派作品ができたんだね』、『日本映画に希望を持てた』といった声がありました」と嬉しそうに振り返った。

■「この映画がテレビ放送されること自体、すごいこと」(清野)

その『新聞記者』が、7月19日(日)にWOWOWシネマの名物プログラム「W座からの招待状」でテレビ初放送を迎える。

作家性を重視し、良質な作品を届ける“仮想映画館”としてのコンセプトを持つ同番組で放送されることについて、井上は「なによりも多くの人に観てもらいたい映画ですし、この機会に初めて藤井監督の作品に触れる方も多いでしょう。とても嬉しいです」と顔をほころばせ、「『W座』は本当にいいラインナップばかりで、私からもお客さんに勧めたい映画ばかりです」と、7月9日(木)放送の『泣き虫しょったんの奇跡』や、7月12日(日)放送の『さらば愛しきアウトロー』、7月26日(日)放送の『よこがお』などに思い入れがあることを明かし、通好みのラインナップに太鼓判を押す。

一方で清野も「テレビ放送されると伺って、正直驚きました。いろいろなしがらみがあると思うけれど、この映画がテレビで放送されるのはすごいこと。個人的にはラストの松坂桃李さんの演技に注目してほしいですね」と語った。

■「映画の力に触れて、元気をもらっていただきたい」(井上)

今年の上半期には新型コロナウイルスの影響で映画業界は大きな打撃を受けることに。市民の力強いエネルギーによって支えられているシネ・ウインドにも例外なく影響があったとのことで、同館は4月22日から5月6日まで約半月間の休館を余儀なくされていた。その後、会員限定で再開し、一時的な座席指定制から従来の自由席制に戻したり、上映回数を増やしたりと、徐々に緩和に向けた取り組みが行われているのだと井上は明かす。

そうしたなかシネ・ウインドでは現在、「シネ・ウインド明日のため募金」という寄付を呼びかけている。「ミニシアターエイドや署名活動など、映画館を救う機運が高まるなかで、当館としてもその声に応える形でなにかをしないといけないという思いがありました。それを考えたときに、35年前、まだ作られてもいない映画館のためにお金を出してくれた方々の気持ちを考え、原点に立ち返るように寄付を呼びかけることにしました」と、存続への決意を新たにする。この募金は一口5000円で、7月末日まで受け付けているとのことだ。

また新潟藤井組もシネ・ウインドを支援するため、藤井監督とのコラボTシャツを6月末日まで販売していたそうだ。このコラボレーションについて、「Tシャツを作ることで、シネ・ウインドの会員の方々が藤井監督を知るきっかけにもなるし、藤井監督の作品の良さをより多くの人に知ってほしいという思いもありました」と明かす清野。「これからも新潟から、藤井組として藤井監督はもちろん、シネ・ウインドを応援していきたいし、定期的になにかおもしろいことができないか考えていきたいと思っています。また、監督の新作である『宇宙でいちばんあかるい屋根』も上映できるよう取り組んでいきたいです」。

最後に井上は「まだ『観にきてください!』と力強くは言いにくい状況がつづいていますが、映画館でお客様と一緒に映画を観るという体験は、やはり何物にも代えがたい非日常の体験だと思います。もし可能であるならば映画館に足を運んでいただきたいと思いますし、映画そのものが人の心になんらかのアクションを加えてくれるものです。もし映画館に来ることが難しい状況であっても、『W座からの招待状』やWOWOWさんなどを通して映画の力に触れて、元気をもらっていただけたら嬉しいです」と、日本中の映画ファンに向けて呼びかけた。

取材・文/久保田 和馬

松坂桃李、迫真の演技から目が離せない『新聞記者』/ [c]2019『新聞記者』フィルムパートナーズ