米国ジョンズ・ホプキンス大学によると、世界の感染者は約1,065万人、死者は約51万人(日本時間7月2日午前9時時点累計)と、収束にはほど遠い新型コロナウイルス感染症COVID-19)。昨年12月末に中国で最初に発生以降、まさにパンデミックとして全世界に広がり、現在も各地で社会経済活動に多大な影響を及ぼし続けています。こうした中、ネットを中心に話題を集めた『パンデミック新時代 人類の進化とウイルスの謎に迫る(原題:Viral Storm―The dawn of a new pandemic age)』(NHK出版、2012年発行)が、この7月に緊急復刊です。

 著者のネイサン・ウルフは、ウイルスハンターと呼ばれる生物学者です。アフリカチンパンジーの野外研究をしていたところ、霊長類のかかる感染症に興味を持ち、感染症を専門とするウイルス学者となりました。その理由を、「科学者が霊長類の新種を探そうとしたら、生涯をかけても見つけられないだろうが、ウイルスの新種ならば毎年見つかっている。またウイルスは寿命がとても短く、その進化のさまをリアルタイムで見られるので、進化のプロセスを知りたいと望む者には理想的な研究対象だ。若い科学者にとってもっとも魅力的な点はおそらく、この分野では、自分たちでも重要ですぐ利用できる結果を出せることだろう。ウイルスの中には人間を殺すものもあるので、新種の発見は自然への理解を深めるだけでなく、人間の疾病をコントロールすることに大きく貢献できるかもしれないのだ」と語ります。

 第一部の『たれこめる暗雲』では、自身の研究の主役である微生物を紹介し、人間とのかかわりの歴史を掘り下げます。第二部の『大きな嵐』では、現在の人類がどれだけパンデミックに脆弱になっているかを説明し、パンデミックを引き起こす感染症の未来図を見通します。第三部の『予測』では、パンデミックの予防という魅力あふれる新世界について話し、感染症が世界的な悪夢となる前に防ぐべく、地球規模のバーチャルな免疫機構を構築しようと奮闘する科学者の新しい集団について紹介します。
 また、最新の遺伝子解析ツールが新種のウイルスを発見する方法を変えることや、IT企業がアウトブレイクの発生を見つけるための監視方法を変える可能性、日本の公衆衛生エチケットとして病気の時に人前でマスクをつける習慣は病原微生物の拡散を抑える効果があると、執筆時に言及しています。

 最新のウイルス研究のため、自らアフリカの奥地や東南アジアの市場などのフィールドから、この数カ月よく見聞きする米国疾病予防管理センター(CDC)、世界保健機関(WHO)の疾病アウトブレイク管理センターの研究所にまで出向く目的は、“新たなパンデミックが生まれる瞬間を正確に見つけ、それが世界に広まる前にその性質を把握し防止すること”と言います。この試みは新型コロナウイルスが社会生活に大きなダメージを与えてしまった2020年現在から振り返ってみると、実に大きな示唆を与えてくれていたことに気づきます。本書を通し、感染症について、パンデミックについて、その予防や防止への取り組みについて深く知ってみてはいかがでしょうか。

【著者】
ネイサン・ウルフ
ハーバード大学で免疫学と感染症について博士号取得。スタンフォード大学ヒト生物学教授。1997年フルブライト・フェローシップを受け、2005年にNIH Director’s Pioneer Awardを、2009年にはナショナル・ジオグラフィックの新進探検家賞を受賞。また、『ローリングストーン』誌の「変化をもたらす100人」(2009年)の一人に、『ポピュラーサイエンス』誌では「輝く人(Brilliant)10」(2005年)に選ばれる。さらに、TEDカンファレンスの映像は10万人の視聴者を集めるなど、多くのメディアから注目されている科学者。現在、世界ウイルス予測(GVF)を設立。責任者として、動物からヒトへと感染するウイルスの拡散を監視し、パンデミックを早期に警告するシステムを構築中。


■『パンデミック新時代 人類の進化とウイルスの謎に迫る』構成

はじめに
なぜウイルスを追いかけるのか/致死性と感染力/ウイルスの嵐

第一部 たれこめる暗雲
 第一章 ウイルスに満ちた星
 目に見えない生命たち/微生物の多様性/宿主を移り渡る微生物/ウイルスの感染手段/ウイルスの遺伝子戦略
 第二章 狩りをする類人猿
 私たちの共通祖先/狩りをするチンパンジー/微生物濃縮/HIVの起源/獲物の解体と微生物/微生物レパートリー
 第三章 微生物の大規模なボトルネック
 絶滅の危機と「微生物浄化」/微生物レパートリーの減少/類人猿とマラリア
 第四章 ウイルスを攪拌する
 動植物の飼育・栽培/栽培するアリ/家畜と人間の微生物交換/飼育・栽培革命とアウトブレイク

第二部 大きな嵐
 第五章 最初のパンデミック
 パンデミックとは何か/種の壁を越える感染因子/カテゴリー2 ヘルペスウイルス/カテゴリー3 エボラウイルス/カテゴリーサル痘ウイルス/カテゴリー5
 第六章 ひとつの世界
 移動する人類/ウォーレス線を越えた旅/海路と通路/HIVの拡散
 第七章 親密な種
 悪名高いサル腺移植/医療技術と微生物/輸血/臓器移植/異種移植/タトゥー、注射/ワクチンのリスク
 第八章 ウイルスの襲撃
 バイオテロバイオハッカー/新種の殺人ウイルス/アフリカの感染経路/免疫不全と感染リスク/工場畜産/BSE/輸入されるペット/遺伝子を組み換えるウイルス

第三部 予測
 第九章 ウイルスハンター
 ウイルスのおしゃべりを監視する/カメルーンの奥地へ/HIVの多様性を探る/ハンターと野生動物
 第一〇章 微生物予測
 発生源をつきとめる/遺伝子情報を特定する/ウイルスの進化を予測する/携帯電話アウトブレイクグーグルソーシャルメディア
 第一一章 やさしいウイルス
 協力的なウイルス/微生物と感染症/精神疾病とウイルス/ウイルス療法/人間のマイクロビオームを解析する
 第一二章 最後の疫病
 感染リスクをどう減らすか/リスク・リテラシーパンデミック予防の最前線と未来

謝辞
訳者あとがき


■商品情報

出版社:NHK出版
発売日:2012年11月28日
定価:2,420円(本体2,200円)
判型:四六判
ページ数:312ページ
ISBN:978-4-14-081582-3
URL:https://www.amazon.co.jp/dp/4140815825
https://www.nhk-book.co.jp/detail/000000815822012.html

配信元企業:株式会社NHK出版

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