(舛添 要一:国際政治学者)

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 このところ、東京都新型コロナウイルス感染者が増えている。7月3日には124人となった。6月29日が58人、30日が54人、7月1日が67人、2日が107人である。29日、30日、1日、2日について、それぞれ、神奈川県6人、31人、8人、11人、千葉県4人、7人、6人、11人、埼玉県13人、10人、14人、19人となっており、首都圏全体で感染が拡大している。

 職場が東京都で住居が埼玉、千葉、神奈川県という人も多いので、これは当然である。また、1日には新宿よりも池袋のほうが新規感染者が増えている。

「東京アラート」は事実上の廃止

 とくに「夜の歓楽街」関係者、そして若者に多い。「東京アラート」を再発令し、休業を要請する水準だが、都はそれをせず、新たな基準を設定した。

 感染状況については、(1)新規感染者数、(2)東京消防庁の救急相談センターへの発熱などの相談件数、(3)感染経路不明数と増加比、また医療提供体制については、(4)検査の陽性率、(5)救急患者の搬送先を見つけるのが困難だった件数、(6)入院患者数、(7)重症患者数の7指標である。(1)から(5)は1週間の平均値をとる。

 要するに「東京アラート」は廃止というわけである。どうも分かりにくいし、朝令暮改の感が否めず、横文字言葉を使い、レインボーブリッジを赤く染めるという小池都知事のいつものパフォーマンスだけだったのかと思わざるをえない。ニューヨークロンドンで基準が適当に変わるようなことはありえないし、先進諸国の政府レベルでもそうである。

 日本でも厚労省が休業再要請の指標を作成している。それは、直近1週間の人口10万人当たりの感染者数が2.5人以上というものである。東京都内では、6月29日以降、2.6人超となっており、厚労省の基準を超えているのである。

 いずれにしても、都民が分かりやすい数値を基準にしないと、かえって不安を煽ることになる。経済活動とのバランスを考慮したからであろうが、都知事選の真っ只中であり、小池都知事の再選に有利な環境を作るというような配慮を働かせてはならない。

 国レベルでは、1日に菅官房長官は、感染者が急増した場合には、再び緊急事態宣言を出すことも示唆している。世界でも、アメリカ南部のテキサス州やフロリダ州では、経済社会活動が再開されるとともに感染者がまた急増しており、外出自粛や休業を再要請することも検討されている。そのため、第一波が収束しつつあるニューヨーク市では、レストランの室内営業再開を延期することを決めている。

 世界では、感染者数は1087万人、死者は52万人を超えている。7月3日現在で、感染者数の上位5カ国は、(1)アメリカ273万人、(2)ブラジルが149万人、(3)ロシアが66万人、(4)インドが62万人、(5)ペルーが29万人となっている。

 6月29日アメリカの新たな感染者は4万1556人にのぼったが、感染症対策に当たっているファウチ博士は、30日に議会で証言し、事態をコントロールできておらず、新規感染者が1日当たり10万人に増えてもおかしくないと述べている。テキサスやフロリダから送られてくる映像を見ても、町中やビーチなど混雑する場所でマスクも装着せずに人々が自由奔放に動き回っている様子がみてとれる。その結果、両州を含め35の州で感染者が増加しているのである。

 このような状況に、トランプ大統領もやっとマスク装着支持に転向したが、国として指示を出す気はなく、州や都市の自主性に任せるとしている。マスクをしないことが、アメリカの自由の象徴だとする政治的メッセージとなっているので、厄介である。

政府は専門家会議を解散し、分科会を設置

 首都圏のみならず、関西や北海道でも感染者が増えているが、夜の歓楽街や昼のカラオケなどでの感染が目立っている。人々が狭い空間で密着する状況では、感染防止に努めても、限界があるということなのであろう。最近の感染の増加を見ていると、秋以降に来ると言われている第二波、第三波への備えが必要だということを再認識させられる。

 国や都は、これまでの対策を振り返り、問題点を浮き彫りにして、一つ一つ改善していかねばならない。ところが、政府は専門家会議を解散し、あらたな組織「新型コロナウイルス感染症対策分科会」を設置することを決めている。これで、第二波に対応できると思ったら間違いである。これまで一貫して主張してきた私の具体策を以下に記す。

都民全員の検査を

 第一は、PCR検査、抗原検査、抗体検査の徹底である。十分な検査をしないで実態が掴めるはずがない。東京で感染者が最近増えているのは、新宿や池袋の夜の繁華街で営業するナイトクラブなどで、従業員に対する検査を徹底しているからだという。無症状の若者が多く、検査をしなければ感染しているのが分からなかったはずである。

 最近北京で100人以上の感染者が出たため、当局は関係箇所の封鎖措置や毎日40万人という徹底した検査を実施している。すでに300万人以上が検査を受けている。体制が異なるとはいえ、日本でも、それくらいの検査を迅速にできる体制を整備しなければならない。

 安倍首相は1日に2万件実施と約束したが、実際には今でも7000〜8000件のみである。感染研の資料独占体制、脆弱な保健所態勢などが問題であり、早急に改善する必要がある。感染が下火になると、この課題を世間は忘れてしまっている。様々な政府の約束で実行されていないものは、きちんと指摘する必要があるが、マスコミはその役割を果たしていない。

 第二に、専門家会議を単に廃止し、改組するのではなく、複数のチームを作ることである。2009年、私が厚労相として新型インフルエンザの対応に当たったとき、官邸に置かれた専門家会議の提言に納得がいかなかったので、厚労大臣の私的諮問会議を設置した。現場で患者の治療に当たっていた神戸大学岩田健太郎教授など、若手を中心としたチームBである。その貴重な提言を活かすことによって、新型インフルの早期収束に成功したのである。

 御用学者の集団では、政府に対して堂々と反論できない。大学や研究機関には、人事と予算で政府が手を突っ込むことができるからである。今回も、政府と専門家会議の関係が理想的なものではなかったことは、専門家会議自らが述懐している通りである。アメリカのファウチ博士のように、トランプ大統領にさえ苦言を呈することができるような骨のあるメンバーは、日本の専門家会議にはいない。

 第三は、司令塔の一元化である。国会が閉会すると、加藤厚労大臣の姿が消えた。西村経済再生相が全てを取り仕切っている。こんな国は世界にはない。保健大臣(厚労大臣)が感染症の指揮をすべきで、日本の感染症法もそういう組み立てになっている。

 厚労大臣は担当分野が広いので多忙だが、その前提で人事をすべきなのである。西村大臣のほうが国会答弁が上手いという理由で、安倍首相は二頭立てにしたが、世界の笑いものになっている。加藤大臣がよほど無能なのか。安倍首相にとっての忠実な側近(いわゆる「茶坊主」)という点では、両者は互角である。

 ウイルスとの戦争で、実働部隊を持つのは厚労大臣であり、西村大臣には兵隊はいない。どうやって戦闘をするつもりなのか。外国人の空軍大将が突然パラシュートで降下してきて、陸軍の指揮を執るようなもので、成功するはずはない。

 私が厚労大臣のときは、感染症法の規定通りに、厚労大臣に権限を集中し、たたえ文科省が反対しても、感染症対策として休校や学級閉鎖の措置を講じた。当時大阪府知事だった橋下徹氏からは、今でもそのときのことを感謝される。

 私は二頭体制には反対だが、百歩譲って、その体制で動かすにしても、感染症対策は加藤、経済対策は西村と明確に担当分野を分けるべきであり、両者を統合して安倍首相が政策を決めるべきなのである。しかし、専門家会議に丸投げしたように、安倍首相は二人の大臣を調整する機能を放棄してしまっている。もはや政権を担当する気力も能力も失っているようである。

休業要請しないのは補償金の給付をしたくないから

 第四は、医療提供体制と院内感染の防止である。前者は大分改善されたが、発熱外来など最初の段階でコロナ患者をきちんと隔離する態勢が十分ではない。アベノマスクの話はすっかり笑い話になってしまったが、マスクや防護服などの感染防止対策が不十分であった。1日に、43人の死者を出した永寿総合病院の院長が会見したが、院内感染対策が不十分だったことを認めている。

 東京都についても、同じようなことが指摘できるが、小池都知事の会見のときに、厚労省クラスター対策班の西浦教授が同席していた。これだと、西浦理論以外の提言には耳を閉ざすことになってしまう。

 感染者が増えても、新たな措置を講じないのは、たとえばキャバクラやナイトクラブなどに休業を要請すれば、また補償金を払わねばならないからである。9500億円あった貯金(財政調整金)も、ほぼ使い切ってしまっている。もはや財源がないのである。

 都知事選後には、どのようにして財政再建を行うかが大きな課題となる。法人住民税と法人事業税に全税収の35%を頼る歪な構造が東京都の財政の特色であるが、コロナ不況で法人二税の税収は激減する。深刻な事態となろう。

 さらには、東京五輪を来年開催するにしろ、止めるにしろ、これまた莫大な出費となる。延長の為の経費は数千億円と見積もられているし、中止になればなったで、また巨額の賠償金や補償金の支払いが必要となる。

 そのようなこともしっかりと議論されないまま、7月5日都知事選の投票が行われる。日本国の未来も、東京都の将来も明るくない。

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