リードなしで散歩させている大型犬の接近に気を取られ、車の一部が破損してしまったので、飼い主に修理代を請求したいーー。弁護士ドットコムにこんな相談が寄せられた。

相談者によると、幅の狭い道路へ右折しようとしたときに、その犬が「ノーリード」だと気づいたそうだ。「急に車に向かって走って来られたらイヤだな」と犬の方に注意が向いてしまったその瞬間、路肩に乗り上げ、車の一部を破損してしまったという。

飼い主は「うちの犬がノーリードだったからですよね」と謝ってくれたそうだが、相談者としては、車の修理代も弁償してもらいたいと考えているようだ。

ノーリードの大型犬が近くを歩いていたら、不安になる運転者もいるかもしれない。もっとも、飼い主や犬が直接車を壊したわけではない。それでも飼い主が責任を負わなければならないのだろうか。ペットを巡る法律問題に詳しい石井一旭弁護士に聞いた。

●「状況次第で、賠償責任が発生する可能性ある」

ーー飼い主の責任について、法律ではどうなっていますか

「動物が事故を起こした場合の飼い主の責任については、『動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う』(民法718条本文)と規定されています」

ーー今回のケースでも、飼い主は賠償責任を負うことになりますか

「軽々に判断することが難しいですが、大型犬が単に道を歩いていただけなのであれば、『犬が損害を与えた』とは評価できず、相当因果関係がないものとして、飼い主に責任が及ぶことはないと思われます。

ただし、犬の歩行位置・速度であるとか、犬が今にも飛び出してきそうな素振りを見せていたとか、その他道路・交通の状況、彼我の距離など『犬が損害を与えた』と評価できるような状況次第では、飼い主に賠償責任を問える可能性もあります。

とはいえ、その場合でも、基本的には運転者の運転ミスによる事故であり、過失相殺がされるでしょう」

●ノーリードでの散歩は法令違反

ーー今回のようにノーリードで散歩することについて、何か規制はありますか

動物愛護管理法7条1項は、動物の所有者・占有者(所有者等)に対して、適正な飼養の努力義務を規定しています。さらに、同条7項に基づき、環境大臣が飼養に関して依るべき具体的な基準(家庭動物等の飼養及び保管に関する基準、平成14年5月28日環境省告示第37号)を定めています。

その基準において、犬の所有者等は、犬を道路等屋外で運動させる場合にリードによる制御をすることが求められています(第4の5(1))。ノーリードでの散歩は、当該基準に抵触し、法に違反するものです。

また、これとは別に、動物の飼い方については条例により規制されていることが多いです。

たとえば、東京都では『東京都動物の愛護及び管理に関する条例』でノーリードでの散歩を禁じ、違反者は拘留又は科料に処す旨規定していますし、私が執務している京都府でも、『動物の飼養管理と愛護に関する条例』により、違反者には科料の罰則が定められています」

ーーノーリードでの散歩は法令違反なのですね。今回のケースへの影響はどうでしょうか

「飼い主に自損事故の責任を追及できる場合は、飼い主が条例違反行為を行っていたことが過失の判断にも多少影響すると思われます」

●リードは「事故を起こさないため、そして犬自身の安全のため」

ーー第三者がノーリードの犬を見かけたら、少なからず警戒しそうです

「『犬が単に歩いていただけ』といえるかどうかは非常に微妙な話ですし、ノーリードの犬はいざという時に制御できません。もしそのために事故が発生すれば、相当の注意を果たしていなかった飼い主は多額の賠償責任を負う可能性もあります。

法令の規制ももちろんですが、事故を起こさないため、そして犬自身の安全のためにも、犬を散歩する際は、リードを必ず付けておくようにしましょう」

【取材協力弁護士】
石井 一旭(いしい・かずあき)弁護士
京都大学法学部、京都大学法科大学院卒業。司法書士有資格者。交通事故・相続・不動産問題等を多く手がける。ペット法学会・ペットの法と政策研究会に所属し、ペットを巡る法律問題についても多くの相談を受けている。
事務所名:あさひ法律事務所
事務所URL:https://asahilawfirm.com

「ノーリード」の大型犬に気を取られ、運転ミスで車破損 飼い主の責任は?