【阿部勇樹インタビュー|第4回】2人の“先輩”平川と坪井から学んだ「浦和で戦う意味」

 2月の開幕戦を戦った後、約4カ月にわたって中断していたJ1リーグがいよいよ再開の時を迎える。新型コロナウイルスの影響により、無観客の“リモートマッチ”での開催となるが、サッカーのある日常が戻ってくることに心躍らせる人は多いはずだ。

 再開を前に、Football ZONE webも参加している「DAZN Jリーグ推進委員会」では、J1からJ3までの全56クラブを対象に「THIS IS MY CLUB – FOR RESTART WITH LOVE -」と題したインタビュー企画を実施。浦和レッズからは在籍通算13年目、チーム最年長選手となった元日本代表MF阿部勇樹に登場してもらい、愛するクラブやリーグ再開への思いを語ってもらった。最後となる4回目のテーマは、浦和の次代を担う若手への期待、そして熱きサポーターへの「責任と覚悟」について言葉を紡いだ。

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 浦和レッズは昨季、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)で準優勝を果たしたものの、リーグ戦では最終節まで残留が確定しない大苦戦を強いられた。現役選手たちのなかで最も在籍年数の長いMF阿部勇樹は、「このチームでやっていく覚悟、背負っているものを投げ出さないで戦うこと」と、強い気概を持ってプレーすることが浦和の選手には求められていると話す。

 阿部は2007年にジェフユナイテッド千葉から浦和へ加入すると、その年にACL制覇を経験。その後、10年夏にイングランドレスターへ移籍したが、12年から再び浦和でプレーしている。在籍通算13年目は現所属選手のなかでは最長で、年齢的にも最年長だ。12年から務めたキャプテンは17年を最後に引き継いだが、その存在の大きさは誰もが認めるところだ。

「僕が来た時は上の選手が多くいて、なかでも一緒に長く戦った今はコーチの平川(忠亮)さん、坪井(慶介)さんは二つ上で、影響を受けた先輩ですね」と、阿部は浦和への加入当初からの関係を振り返る。そして「2人は大学からプロ入りがレッズで、歴史を見てきてすべてを経験していますからね。浦和というクラブがどんな存在なのかを、自然と当たり前に表現していたと思う。彼らだけではないけど、一緒にやった選手で言えば先輩だと2人が印象的ですね」と話した。

 阿部の言う「浦和というクラブがどんな存在なのかを表現する」という部分は、どういう意味なのか。そこには、国内最大規模のサポーターの存在をベースにした責任があるのだと、阿部は話す。そして、下の世代の浦和を背負っていくべき選手たちに対して、穏やかな口調ながら重みのあるメッセージも送った。

未来の浦和を担う若手へのメッセージ 「満足したら終わってしまう」

「浦和でプレーする以上、いろいろなものを背負ってじゃないけど、大勢のサポーターの気持ちも背負って戦わないといけない。責任と、あとは覚悟。このチームでやっていく覚悟、背負っているものを投げ出さないでチームのために戦うことですよね。その覚悟が数試合あったとしても、1年間を通じてその気持ちで浦和のために戦えるかで言えば、まだの選手もいると思う。そういうことは少しずつ話をして、『だから浦和レッズというのはこうなんだよ』と伝えていかないといけないのかな。

 プロになって試合に出るようになれば周りの目が変わって、状況が変わると思う。それをどう感じるのか、ですよね。当たり前にそうなったのではなくて、頑張ったからそうなったのだから、満足したら終わってしまう。その選手の目標がそこなら良いんですけど、レッズにいる選手はそこが目標じゃないはずだと思っているから。現状に満足しないこと。活躍して海外を目指す選手もいるはずだから、追い込んでモチベーションを持っていくことも必要だと思う。そういう気持ちのコントロールもできるようになってほしい。最初からできるとは思わないけど、1日1日、普通ではなく、いろいろなものを発見してほしい」

 こうして現在の在籍選手たちに対して、少し厳しさもある言葉を残す阿部だが、その一方でかけている期待も大きなものだ。

 例えば、今季開幕前に沖縄県で行われたトレーニングキャンプでは、一次キャンプで浦和ユース所属で2種登録されたGK鈴木彩艶、二次キャンプ青森山田高校から加入のMF武田英寿と同部屋だった。9月に39歳の誕生日を迎える阿部から見れば、親子でもおかしくない年齢の2人について「普段通りにしてと言っていたけど、気を遣っていましたね」とほほ笑んだ。そして、彼らを含む次世代の浦和を支えていくべき存在、期待する存在として名前を挙げたのだが、そこには「僕はそうなっていったほうが良いと思うので」と話す共通点があった。

「多くいますよ。橋岡(大樹)、荻原(拓也)、武田、彩艶、石井(僚)、柴戸(海)、岩武(克弥)、伊藤(涼太郎)と。いっぱいですよ」

 その共通点こそ「みんなプロのキャリアをレッズで始めた若い選手ですね。こういう選手たちがガムシャラにやるからこそ、チームの上の世代の選手に刺激を与えて競争が生まれて、チームが大きくなりますから」ということ。阿部は千葉から移籍加入し、今では浦和の選手というイメージが非常に強くなっているが、影響を受けた先輩として挙げた平川、坪井の両者が浦和の“生え抜き”であることを考えれば、そうした選手の存在がいかにクラブにとって重要なのかを感じ取ってきたと言えるのかもしれない。

世代交代が必要な時期、阿部が背中で伝えていくもの

 この新型コロナウイルスの感染拡大により公式戦が中断して、7月4日に再開するリーグ戦は夏場の過密日程。5人の交代枠を含め、多くの選手に出場のチャンスがある。それは、阿部が名前を挙げた若手たちにも当てはまる。

 外から見る限り、多くの言葉を発するタイプではない阿部だが、浦和でプレーするために必要なことを若手に伝えていく気持ちを持っている。そうした意味でも、阿部の背中を見て若手が「責任と覚悟」を受け継いでどう育っていくのかが、今季を見るうえで楽しみな点の一つと言えるはずだ。
(轡田哲朗 / Tetsuro Kutsuwada)

浦和レッズMF阿部勇樹【写真:Getty Images】