巨大な変光星の消失

巨星が跡形もなく消えるミステリー image by:ESO

 謎に満ちた宇宙でまたも新たなミステリーが観測されたようだ。太陽の250万倍も明るかった巨大な星が、忽然として姿を消してしまったのだ。

 『Monthly Notices of the Royal Astronomical Society』(6月30日付)に掲載された研究では、この失踪事件の謎について推理が展開されている。

 はっきりしたことは分からない。だが可能性の1つとして、その星が死んだとき、超新星になることなくブラックホールになってしまったという線が考えられるそうだ。

 仮にこれが正しいのだとすれば、「このようにして生涯を終えた怪物のような星の姿を初めて直接検出した」事例になると、アンドリューアラン氏(アイルランド、ダブリン大学トリニティ・カレッジ)は声明の中で述べている。

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高光度の青色変光星が忽然と消え去る

 問題の星は、地球から7500万光年離れたみずがめ座方向にある矮小銀河「PHL 293B(キンマン矮小銀河)」に位置している。一生の終わりに近く、明るさが気まぐれに変化する巨大な恒星で、いわゆる「高光度青色変光星(LBV)」と呼ばれる変光星の仲間だ。

 2019年、アラン氏らは、高光度青色変光星の格好の事例であるこの星をさらに研究するべく、ヨーロッパ南天天文台の超巨大望遠鏡VLTを覗いてみた。すると、そこにあったはずの場所から忽然と姿を消していたのだ——。

 通常、太陽よりもずっと大きな星が死ぬとき、大爆発を起こして「超新星」になる。超新星が起きると、数光年の範囲にイオン化ガスや強烈な放射線が残るので、見つけるのは簡単だ。

 また爆発の後には、高密度のコアが崩壊してブラックホールや中性子星になったりすることもある。

 ところが、その星はそうした痕跡を残すこともなく、跡形もなく姿を消してしまっていたのだ。これほど巨大な恒星が、超新星爆発を起こさずに姿を消すのは非常に珍しいことだという。

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PHL 293Bの高光度青色変光星予想図 image by:ESO

急激な増光現象「アウトバースト」が起きていた


 この謎を解くために、アラン氏らは2002年から2009年にかけての観測で得られたデータを再度分析してみることにした。

 すると、この期間に通常よりかなり速いペースで大量の恒星物質を放出していたことが明らかになった。

 研究によると、歳をとって気難しくなった高光度青色変光星は、天体の急激な増光現象「アウトバースト」を引き起こすことがあり、それによって普通よりも明るく輝くようになるという。失踪した星がやたらと明るかったのも、これが理由だと考えられる。

 この星のアウトバーストは2011年以降に終わった可能性が高い。だが、それで忽然と姿を消してしまった理由までは説明できない。

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2011年ににハッブル宇宙望遠鏡が撮影した矮小銀河 PHL 293B
image credit:NASA / ESA / Hubble / J. Andrews, University of Arizona.

超新星爆発を起こさずにブラックホールが形成された可能性


 消えた星はどこにいってしまったのだろう?

 1つの可能性としては、アウトバーストが終わって薄暗くなってしまった上に、分厚い宇宙塵で覆い隠されてしまったという線が考えられるという。だとすれば、この先、星がまた顔を覗かせることもあるかもしれない。

 もっとワクワクするもう1つの可能性は、アウトバーストから回復することなく、超新星を引き起こさないまま崩壊してブラックホールになってしまったというものだ。

 星の質量から推定するなら、誕生したブラックホールは太陽の85~120倍はあると考えられるという。

 こうした現象が珍しいものであろうことは研究チームも認めており、実際にどのようにして視認できる超新星にならないままブラックホール化するのか、具体的なプロセスはまだ分かっていない。

 失踪事件の解明には、まだまだ宇宙の捜査が必要であるようだ。

References:A Cosmic Mystery: ESO Telescope Captures the Disappearance of a Massive Star | ESO/ written by hiroching / edited by parumo

全文をカラパイアで読む:
http://karapaia.com/archives/52292404.html
 

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