4月7日の緊急事態宣言の発令の前に、あるステートメントが多くの音楽関係者に勇気を与えた。origami PRODUCTIONSによる無償楽曲提供「origami Home Session」そして同代表の対馬芳昭氏が設立した基金「White Teeth Donation」だ。
【画像ギャラリー】アジカン後藤氏×origami PRODUCTIONS対馬氏ロング対談
そこに素早く反応したのが、Gotchだった。アーティストとして、レーベル/マネージメント代表として、それぞれのやり方を貫いて交差した“音楽への思い”を語る、スペシャル・セッション。(前編)に続く(中編)です。
無償楽曲提供はイーブンな「支援」
── 対馬さんは、アーティスト支援として、4月1日に「origami Home Sessions」を立ち上げました。
これは、ご自身が主宰されるorigami PRODUCTIONSに所属するクリエーターが作ったトラックをオープンソースにして、アーティストが楽曲発表を行えるようにし、そこで得られた収益はすべてアーティストに提供する、というものですが、改めてこの支援形態に至った経緯を教えていただけますか?
対馬 音楽業界全体が厳しいというのはもちろんあるんですけど、本当に困っている人は誰なんだと。みんながみんなしんどいけど、その中でも、どうにかやっていけそうな人とまったく仕事ができない人に、大きく分ければ分けられる。
僕らは、どうにかやっていける側にいるよなって思ったので、だとしたら仕事をしたくてもできない人たちをどうやって助けるか、というところに行かないとダメだなと思ったんです。
自分たちはギリギリセーフで良かったねっていうのは、ちょっとフェアじゃないって感じました。じゃあどうやって助けるかって考えた時に、作ったトラックを差し上げるっていうのが一番手っ取り早くてストレートにやれることだって、自然とそこに着地した感じですね。
やっぱり僕らのチームは、プロデューサーとかアレンジャーが多くいて、普段からアーティストの方々と一緒に音楽を作っていくのが当たり前なんですよね。だからその形で「支援」ができれば、すごくイーブンだと思ったんです。
── Gotchさんは、こうした一連の対馬さんのアクションに対して、アーティストとしてどのように感じられましたか?
Gotch これはもう単純にミュージシャンたちに対するエールだよなって思いましたよね。要は、作る手を止めるな!ってことですから。歩みを止めずに作り続けようぜってメッセージですから。
それで僕は、自分のバンドでも一緒にやっているmabanuaと、僕のフェスなんかでもベースを弾いてもらったことのあるShingo Suzukiのトラックを使わせていただきました。
最初に思ったのは、こんな信頼できる人たちのインディビジュアルなトラックをもらえるなんて、何それ!って喜びですよね(笑)。贅沢この上ないことなんですよ、はっきり言って。
そして彼らのプロジェクトに参加したいっていうミュージシャンとしての欲求はもちろんありつつ、そこにアジカンみたいにメジャーなバンドのやつが参加するのも面白いなって、ちょっと俯瞰した目線で思ったんですよね。
少しは話題になるだろうし、参加者が増えたり、こうした取り組みを知ってもらえるきっかけになればいいなと。だからとにかく諸手をあげて「最高!」って思いましたよ。
曲がとにかく素晴らしくて、聴いた時は涙が出た
── 僕が最高と思ったのは、GotchさんがOTOTOYの「Save Our Place」を通じて楽曲を発表されたっていうところです。支援先を「White Teeth Donation」に設定して収益を還元するという発想にすごく感銘を受けました。
要するに「White Teeth Donation」を「場所」として捉えてらっしゃることが斬新だなと。
Gotch まあ、場というか、コミュニティですよね。対馬さんを中心としたコミュニティがあって、こういう時だから繋がれるやり方がある。だったら繋がった方がいいじゃないですか。
そうすると、網の目みたいになっていくから。それ自体がセーフティネットにもなるだろうし。対馬さんたちからもらったエールに、僕は「イエス」って言う意味で「White Teeth Donation」に戻すのが理想的だなと思いました。
そしてOTOTOYから発表することで、彼らの取り組みも知って欲しいし、触れて欲しいなという気持ちもあったので。
── 「White Teeth Donation」を立ち上げる際の対馬さんのステートメントの中でとっても印象的だったのが、「皆さんの人生においてガードレールのような存在になる事が私の仕事です」(※編集部註:「皆さん」=ミュージシャンをはじめ音楽に関わる人たち)という一文です。
今回、対馬さんが起こされたアクションはまさにそうしたことですし、アーティストやクリエイターの方たちが曲やトラックを作るというのは、まさに道を作ることなんだ、というのが目に見えるようでした。
対馬 そうなんですよ。僕、これは言いたいのですが、Gotchさんの曲がとにかく素晴らしくて、聴いた時は涙が出ました。
mabanuaのトラックで作られた『Stay Inside』は、Gotchさんが先ほど、「創作する手を止めない」「歩みを止めない」っておっしゃいましたけど、まさにそれなんですよね。
僕の勝手な感じ方かもしれないけれど、あの曲って歩いてる感じがするんですよ。ラップのような譜割りの言葉の置き方で、どこまでもてくてく歩いている。力んで走っているんじゃなくて、自分のペースで歩いている。
このままゆっくりでもいいから続けて行こうっていう気持ちにさせてくれるんです。ご指摘いただいたガードレールの話もそうですけど、あの文章の中でボブ・マーリーの『One Love』に触れていて、そこから感じ取ったものがちゃんとリリックに入ったりしている。
こんなにもサッと来られると、スッと心に入っちゃうんですよね(笑)。音楽のすごさに改めて感動しました。すごいな!って。
毎日あの曲を最初に聴いて、「さあ今日も始めるぞ」っていう気持ちに自分がなった時に、ああ音楽ってこういうことなんだなって思ったんですよ。
たしかに音楽でお腹がいっぱいになったり、病気が治ったりはしないけど、前に進もうっていう気持ちにさせてくれる、そんなきっかけというかスイッチというか、ファンファーレみたいな役割を果たすものなんだっていうのを教えてもらいました。
そしてみんなにとって、音楽がそういうものになってくれるといいなって思いましたね。あと、「White Teeth Donation」に収益を戻してくれたことも、個人的には自分のお金だったので、そんなふうに集まっちゃうと「実はプラスにして儲かってるんじゃないか?」みたいに思われかねないので(笑)、基本的にドネーションに対する支援は全部お断りしていたんですよ。
でも、origamiの音源を使ってやったものなので循環させたいっていうお話を聞いた時に、こんなに理にかなった形で戻してもらえるのであれば、断る理由がないと思ったんですよね。
Gotchさんのやっていること──活動もそうですし、考え方とか行動とか──すべての筋が通っていますよね。そしてそれを押し付けたりすることなく、隙間からスッと入って来る感じ(笑)。もう受けるしかない!と。
── 『Stay Inside』を作るにあたって、イメージされたことは何ですか?
Gotch 最初にあったのは、対馬さんのステートメントを読みながら、その思いに沿うような歌詞を自分の場所から書いてみたいなっていうことですね。
やっぱり『One Love』の一節は絶対に入れたいよね、とか(笑)。そしたらボブ・マーリーのことなんかを調べて曲を聴く子たちが増えるかもしれないし。
あと根本にあったのは、ウイルスっていうものを社会的に受容していくしかないし、きちんと共存していける日はいつか必ず来るんだっていうことを、希望を持って歌いたいなっていう思いがあったんですよね。
まだ、実際どうしたらいいのかわからない状況ではあるんだけど……なんて言ったらいいんだろ、希望の道標がないとやっていけないところってあるじゃないですか、人間って。
せめて表現はね、それができるから。俺たちはどこかでもう一度会えるんだっていう言葉は書けるわけで。そういう言葉に現実が追いついて来ることってたくさんあると思うから。
そのポジティブさをできるだけ自然に、言ってしまえば、ゆるく表現する方がいいなっていうのはありましたね。
■各回更新!
いち早く動いたふたりが、それぞれのやり方を貫いて交差した“音楽への思い”を語る、アジカン後藤正文×対馬芳昭(origami PRODUCTIONS)スペシャル対談(前編)
「多様性」とこれからの「音楽シーン」について語る、アジカン後藤正文×対馬芳昭(origami PRODUCTIONS)スペシャル対談(後編)
Gotchの『Stay Inside feat. Mabanua』『Mirai Mirai feat. Shingo Suzuki』は、「OTOTOY」から購入できます。
そのほかリリース情報はGotch(ASIAN KUNG-FU GENERATION)公式サイトをご覧ください。
対馬芳昭(origami PRODUCTIONS)が立ち上げた「White Teeth Donation」の詳細はorigami PRODUCTIONSや、noteをご覧ください。
コメント