浦和は2014年3月に制裁を受けた際以来となる無観客でのゲームを戦う

 浦和レッズは4日のJ1再開初戦で、横浜F・マリノスと対戦。埼玉スタジアムでの“リモートマッチ”の光景は、6年前に同じスタジアムで行われた無観客試合とはまったく違うものだった。

 J1は2月末に今季開幕戦を行ったが、その後に新型コロナウイルスの感染拡大により中断。緊急事態宣言の発令にも至った社会情勢の中で再開は決まったものの、人の密集を避けることが予防策として重要であるという観点から、再開初戦は無観客のスタジアムで開催された。入場が可能なスタッフやチーム関係者の数が制限され、メディアの人数なども大きく減らされた中での試合になった。

 浦和がスタジアムに観客がいない状態でホームゲームを戦うのは、初めてではない。約6年前となった2014年3月、サガン鳥栖を迎えたホームゲームでゴール裏スタンド入り口ゲートに「JAPANESE ONLY」の文字が書かれた横断幕が出され、事態を重く見たJリーグは制裁措置として1試合の無観客試合を決定。同月末の清水エスパルス戦が日本サッカー史上初の無観客で行われた。

 その試合は1-1で引き分けたが、当時の浦和に所属した日本代表MF原口元気ハノーファー)は、「どれだけサポーターの声で自分のスイッチが入っていたか分かった」と胸中を明かし、MF鈴木啓太(2015年限りで引退)は「とても悲しかったし、清水にも申し訳ない」と語った。制裁の一環であるから、当然ながらクラブが何か手を加えることが許されない無機質な椅子がむき出しに並んだスタジアムで、静寂のなかで行われるゲームはあまりにも寂しかった。

 ところが、この日の無観客は社会情勢によるものであって、何かの罰ではない。浦和はクラブスタッフやボランティア、下部組織のコーチなどが数日間に分かれて全座席にクラブカラーである赤、白、黒のビニールをかけて装飾。ゴール裏にはJリーグチャンピオンシャーレと、逆サイドには「WE STAND BESIDE YOU」のメッセージが象られた。

タオルマフラー合計5629本、フラッグ508本がスタンドに掲げられたなかでプレー

 また、浦和のオンラインショップで販売し、日付の入ったこの試合に向けたタオルマフラー合計5629本、フラッグ508本がスタンドに掲げられた。これは、試合後に回収され購入者の手に渡るという。サポーターから寄贈されたものも含むこうしたメッセージやクラブカラーの演出は、同じ無観客でも6年前のスタジアムとはまったく違うものだった。

 試合前には両クラブの選手たちと審判団が医療従事者への感謝を込めて拍手を送ってスタートした試合は、0-0で引き分け。それでも、2014年の清水戦にも出場していて、今季から主将を務めるGK西川周作は、このスタジアムの環境に感動して涙も込み上げ、「サポーターからのバトンをスタッフが受け継いで、一枚一枚ビニールを貼って頂いた。2014年の無観客とはまったく違う雰囲気で、その感謝の気持ちを持ち続けてプレーしたい」と話した。

 西川は試合終了まで15分を切ってから、横浜FMのFW仲川輝人との1対1のセーブやFWエジガル・ジュニオのシュートが目の前のDFに当たったものを弾き出すなどファインセーブを連発。普段は大サポーターが背中を押す北サイドスタンド側のゴールで、価値ある引き分けをもぎ取るセーブを見せた。そこには、声はなくとも確かな思いを受け継いだスタンドからの後押しがあったのかもしれない。
(轡田哲朗 / Tetsuro Kutsuwada)

浦和はクラブ史上2度目となる無観客で試合に臨んだ(写真は2014年のもの)【写真:Getty Images】