宇宙飛行士

宇宙服なしで宇宙に行くとどうなる? / Pixabay

 一般人が宇宙に行ける時代はそう遠くない未来にやってくる。さて、あなたは念願かなってついに夢の宇宙に出ることができた。

 宇宙での暮らしは、多少の狭さが気になるものの概ね充実している――そんなある日、事故で宇宙ステーションのハッチが開き、普段着のまま宇宙空間へ放り出されてしまった!

 さあ大変だ。体はどうなってしまうのか?

 様々なSF映画には、宇宙服なしで宇宙空間に投げ出された人の末路が描かれている。中には体が沸騰し、ドロドロに溶けて爆発していく描写もある。だが、実際はどうなのだろう?

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血液が沸騰して体が爆発するようなことはない

 まず最初に、一部のSF映画で描写されているように、血液が沸騰して体が爆発するようなことはない。宇宙はそこまで過酷、というか過激な世界ではない。

 地上では気圧が人体を押しつぶそうとする。その反対に、人体の内圧もまたそれを押し返そうとする。それがうまくバランスしているのが今の体だ。

 しかしほぼ真空である宇宙では、普段は自分が守られていることに気づきもしない人であっても、急激な減圧を経験する。

 繰り返すが、爆発はしない。皮膚は、人体の中で最大の機関であり、すばらしく柔軟で丈夫だ。だから膨張はするだろうが、”中身”がこぼれることはない。


映画「トータルリコール」でアーノルドシュワルツェネッガーが火星の薄い雰囲気にさらされたときのシーン

減圧症の恐怖

 真空では人体はおよそ2倍に膨れ上がる。組織に含まれている水分が蒸発してしまうからだ。

 こうした作用は内臓も押しつぶそうとする。たとえば腸が膨張して、横隔膜と心臓を圧迫する。肺からは空気が急激に排出されるために、肺から気道にかけてのデリケートな組織が損傷を受けることもあるだろう。

 圧力が急激に失われると、筋肉や骨の中で窒素の気泡が生じることによる「減圧症」や酸素不足による「低酸素症」になる。ちなみに、宇宙空間に放り出されたあなたが命を落とす第一の死因は、この酸欠だ。

 だからといって、水中に潜るが如く、息を止めたりしてはいけない。そんなことをしたら、気泡が血管に流れ込み、いずれは脳に達して脳梗塞を引き起こす。また外は真空だというのに肺の中には気圧が残ってしまうので、肺が破裂する可能性が高い。


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意識を保てるのは15秒、死亡まで2分

 しかし息を止めなかったからといって、状況が大きく好転するわけでもない。生身で真空に出れば、15秒もすると酸欠になった脳がエネルギーを温存するために一種の”セーフモード”に切り替わる。こうして意識を失う。

 そして2分も経過すれば、脳以外の臓器も酸欠に耐えられなくって死にいたる。

 人が真空で酸欠に陥った事例は案外ある。たとえば1982年、ある技師が真空槽の検査を行っていたところ、あやまって海面気圧の3.5%という極端な低気圧の中に入ってしまった。

 1分後に救助されたが、皮膚は青ざめ、口から泡を吹き、肺からは出血していた。その人物はまもなく回復したものの、それほど運に恵まれず命を落とした人たちもいる。

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凍死の心配はひとまずない


 国際宇宙ステーションが太陽の光を浴びているとき、外部の気温は121度くらいになる。逆に太陽が地球の影に隠れてしまえば、今度はマイナス157度にまで下がる。

 灼熱地獄と凍結地獄が繰り返しているかのようだが、じつはその温度は額面ほどではない。地上とは熱の伝わり方が違うからだ。

 宇宙には空気がないために、熱が「伝導」(物体内部を熱が伝わること)することも「伝達」(個体や液体などの間での熱のやり取り)することもない。この状況では、宇宙空間と人体との熱のやり取りは「放射」しかない。

 じつは宇宙空間で人体が放射する熱はわずか100ワットで、白熱灯くらいにしかならない。人体の質量を考えると、体が凍えるまでには結構な時間がかかる。だからひとまず凍死の心配をする必要はない。その前に、他の原因で死んでしまうからだ。

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Pixabay

真空では助けを呼ぶ声も届かない、ではどうすれば?


 ここまで、宇宙に生身で放り出されたからといって、映画の演出のように体が爆発したりも、一瞬で沸騰したりもしないことはわかった。また息を止めてはいけないことも学んだ。

 意識を失うまでに15秒ある。しかし悲しいことに、助けてと叫んでも真空の宇宙では、声が仲間に届くことはない。

 限られた時間の中で、助かるために何ができるだろうか?

 もし運よくウェアラブルデバイスを腕に装着しているのなら、これが命綱になるかもしれない。15秒以内に大急ぎで、パパッと操作して救助信号を送信するのだ。

 その後失神するかもしれないが、2分以内に運よく仲間が駆けつけてくれ措置を施してくれれば生き残れる可能性がある。

 ただし、仲間の声が聞こえて、ゆっくりと目を開ける時にも危険を伴う。目の水分が蒸発して、眼球を損傷する恐れがあるからだ。

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 ここで得られる教訓は、ただ一つ。宇宙服なしで宇宙空間に放り出されることのないよう用心することだ。備えあれば憂いなしなのだ。

References:What would happen to humans exposed to the vacuum of space without a spacesuit?/ written by hiroching / edited by parumo

全文をカラパイアで読む:
http://karapaia.com/archives/52292047.html
 

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