無観客にも慣れた。えーっ観客ゼロ、どうなるの!?……などと考える間もなく慣れた。大相撲大阪場所初日に「観客いなくても別に大丈夫」と気がついたし。

 もちろん「いつもとまったく同じ」わけはなくて、力士と力士のぶつかる音がこんなにクリアに聞こえたことはない。肉と肉のぶつかる音は知っている、でも、本割の無観客で聞くその音はまるでちがっていた。

「パーーーン!……」

 と、澄み渡った空気の中の柏手のような、美しい余韻とともに消えていく。なるほど相撲というのは神事だと実感できた。会場のエディオンアリーナ大阪プロレスの香り漂う体育館なのに。

 競馬も変わらなかった。スタートゴール前の歓声がなくてもレースはふつうに緊迫したレースだ。相撲も競馬も、無人の客席が映っても、思ってたほど違和感はない。すぐ慣れる。

 と、無観客中継は問題なし、と思っているうちにプロ野球開幕だ。スポーツ中継の真打登場! それ東京ドーム開幕戦、伝統の巨人-阪神戦だ!

 プロ野球無観客中継は多少ちがう方向性だった。まず、バッターがゴロで一塁アウト、みたいな局面で今まで聞いたことのない声が聞こえてくる。「ウェ~イ」「ウォ~ッス」「ウィィ~」「イャッシャ~」

 たぶんベンチにいる選手が景気づけに声出してるのが無観客で丸聞こえなんだが、この声が、力の抜けるような間抜けな声なんです。相撲にも競馬にもこんな間抜け声はなかった。

 でもまあそういう音というのは聞いてるうちに慣れる(慣れないけど目をつぶる)。いつまでも慣れなかったのは、バックネット裏の、等身大の客が映るLEDパネル。目立つ場所だし空席状態がイヤなのはわかるが、「ピッチャー振りかぶって」ってこっちも身を乗り出す時に目の端に映るその「笑顔で動かない写真」は非常に不自然。有り体にいって遺影に見える。ファンサービスの一環なのか。不吉である。ジャビットでも座らせといてくれ。中身はなくていいから。

 さらに驚いたのは、巨人が塁に出たりするといきなり鳴り出す声援と鳴り物。え。球場の歓声を録音合成した「バーチャル歓声」らしい。なぜそんなアホみたいなことを……。

 大相撲や競馬見たらわかるだろう。競技をいつも通り真剣にやってれば観客も歓声も無しでも気にならんし感動だってするというのに。なんでこんなチャチな演出するんだ。巨人軍は球界の盟主だからか。東京ドームでは以後この調子を続ける気だろうか。しかし何よりも私がしおれたのは阪神がきっちり開幕3連敗したからだよ。「上半身、火鉢の灰かぶった」ようなビジターユニフォームのイケてなさにもヘコみましたが。

INFORMATION

『巨人-阪神戦』
日本テレビ系
https://www.ntv.co.jp/baseball/schedule/

(青木 るえか/週刊文春 2020年7月9日号)

東京ドームに設置された「バーチャルバックネット裏シート」 ©共同通信社