老友新聞2020年7月号に掲載された短歌入選作品をご紹介いたします。(編集部)

一 席

紫陽花の小さき莟があまた付くわたしが住まねば誰もいぬ家

山岸 とし子

紫陽花の描写と、一人で暮らす家を並列する事で、家への、ひいては自分への慈しみをさり気なく表現しました。

二 席

夕暮れは好きなひととき一面の菜の花畑のおぼろおぼろに

飛田 芳野

夕暮れは好きなひととき」ときっぱりと言い切った潔さ。三句以降の表現が春の気分を十分に伝えます。

三 席

陸橋を渡る和服の婦人ありふわりふわりと日傘浮かせて

王田 佗介

「陸橋」という設定が効いています。下から見上げている事で、和服の婦人の姿が一枚の絵のように映りました。

佳作秀歌

木仏の秘めし謎をば語りゆく僧の声染むる達身寺の堂

岸 慶子

その仏様にはどんな謎があったのでしょう。読者も思わずひきこまれます。

浅草の境内で遊びし幼き日瓢箪池も月も朧に

倉澤 登美子

今は朧になってしまった子供の頃の浅草。「朧」という言葉が春の気分と共に読者の郷愁を誘います。

夕光(ゆうかげ)にひと時華やぐ桜花静かに闇がせまりて包む

荻野 徳俊

夕方の薄闇の中の桜の妖しさを伝えて秀逸です

「紫陽花の小さき莟があまた付くわたしが住まねば誰もいぬ家」2020年7月入選作品|老友歌壇