岡田オーナーが表明した「1年でのJ2昇格」

「1年目からJ2昇格を狙います」

 2019年12月8日愛媛県今治市の今治国際ホテルで行われたFC今治のJ3昇格を祝う「祝昇会」の最後に登壇した岡田武史オーナーは、800人を超える参加者の前でこう力強く決意を表明した。

 JFLからの昇格初年度という状況を考えれば、無謀な発言と取れなくもない。しかし、元日本代表監督として2度のワールドカップ(W杯)で指揮を執り、2010年南アフリカ大会では低評価を覆すベスト16入り。Jリーグでもコンサドーレ札幌をJ1復帰、横浜F・マリノスを2度のJ1王者に導き、そして「造船と今治タオルとしまなみ海道のまち」今治にスポーツ文化の種を蒔いただだけなく、16歳までに修得すべきサッカーの型「岡田メソッド」を構築した岡田オーナーの発言とあれば、話は現実味を伴ったものへと変わってくる。

 さらに、岡田オーナーは2020年の指揮官には、10代後半から育成組織を皮切りに2016年のグラナダ暫定監督を含めた各カテゴリーでの豊富な指導経験を持つスペイン人のリュイス・プラナグマ・ラモス監督を招聘。「どんなチームにも、どんな試合にも勝ちたい」と表明し続け、「レギュラーも控えもないことを植え付けている」コンペティティブ(=競争力)をチームコンセプトとして掲げる39歳・熱血漢の意思は、「相手より1点でも多く点を取って勝つために、ゴールを奪い勝つ」岡田メソッドの大原則と見事なまでに符合するものだ。

 J3開幕戦でゴールこそ奪えなかったものの、攻守に闘争心を90分間失うことなく前年J2のFC岐阜引き分けたことで、リモートマッチ(無観客試合)でのホーム初戦・ロアッソ熊本戦でのJ初勝利への期待はさらに高まった。

 しかし、ここで立ちはだかったのは「岡田メソッド」を肌で知る男。2006年W杯では岡田監督の右腕としてコーチを務め、2015年から約2年間は今治のアドバイザーとして「岡田メソッド」構築にも関わった熊本の大木武監督である。

Jリーグホーム初戦、熊本に敗戦も「相手を越える」プレーで光明

 この試合、熊本は「岡田メソッド」の特性をよく理解した戦いを敷いてきた。立ち上がりこそ押し込まれる場面も目立ったものの、「前半は上手くいった」と先制点を決めたFW髙橋利樹も振り返ったように10分以降は、DFラインやすべての面におけるコントロールタワーである元日本代表MF橋本英郎からの縦パスを入れさせない立ち位置で、今治の推進力を遮断する。

 これに対し、今治も公開された試合2日前のトレーニングでリュイス監督も「相手はプレッシングをかけてくる。遠くを見よう」と指示を送るなど敵の戦術は理解済であったものの、結果は0-1で敗戦。なかでも前半のシュート数は「1」とアグレッシブさとは程遠い課題が残る内容に、「相手にはがされてラインも下がってしまった」とこの試合ではFW桑嶋良汰と2トップを組んだFW有間潤も後悔を口にした。

 ただその一方で、シュート数も9本を放った後半の内容は決して悲観するものではない。特に目を引いたのは、後半からピッチに立った新加入の24歳FW林誠道だ。

 相手を背負ったポストプレーにとどまらず、ターンや突破などで「岡田メソッド」の柱の一つである「相手を越える」プレーができる背番号11のプレーは、縦へのスピードを強調するためにDF原田亘、MF福田翔生といったドリブラーを投入したベンチワークとも良好な化学反応を示し、「岡田メソッド」完成系の片鱗を示した。

「完全な形」のホームで狙うJ2昇格への第一歩

 かくして課題と光明が45分を境にくっきりと浮かび上がった今治のホーム初戦。そんな彼らには日程的なアシストもある。

 リュイス監督も「サッカーは観客が入ってこそ完全な形」と語るサポーターを入れての次節(11日)はホームの鹿児島ユナイテッド戦。中3日のアウェーも今治市から100キロ足らずのカマタマーレ讃岐戦(15日)。その後、再び中3日で臨むホームのセレッソ大阪U-23戦へ向けて心身を整える時間が十分取れることは、ハードワークを基盤とする彼らにとってプラスの要素に働くのは間違いないだろう。

 そして開幕戦でキャプテンマークを巻き、橋本とのダブルボランチで攻守に奮闘したMF楠美圭史は、過密日程を強いられる日程を極めてポジティブに捉えつつ、こう語る。

「自分たちより明らかに力が上のチームであってもコンデションを整え、自分たちが目指しているサッカーができていれば、単純な力の差以外の部分で勝利することが可能だと思っている。全員がいい準備をしておくことが大事。そして、昇格した時の街の雰囲気や笑顔は今でも心に残っている。自分たちがピッチで躍動することで、このコロナ禍の状況でも夢や希望を与えられるよう頑張っていきたい」

 J3で戦える一定の手応えと、「岡田メソッド」を駆使したJ2昇格への指針はこの2試合で十分に積まれた。先日、2022年1月着工・2023年春完成与予定の「里山スタジアム」計画を条件に2021年のJ2ライセンスも申請した今治は、J2昇格への第一歩を観衆が見つめる「ありがとうサービス・夢スタジアム®」で踏みしめる。(寺下友徳 / Terashita Tomonori)

プレーだけでなく的確な指示でチームをけん引する今治MF橋本英郎【写真:寺下友徳】