高高度核爆発

核実験「ティーク」による高高度核爆発 image by:public domain/wikimedia

 1958年8月1日、あと数分で真夜中になろうという時刻、強烈な白い閃光がいきなり夜空を切り裂き、太平洋の真ん中にある小さな環礁ジョンストン島周辺数マイルにもわたって、あらゆるものを眩く照らし出した。

 暗い空がまるで真昼のようになり、アメリカ空軍基地にいた職員は、思わずうずくまって身を守ろうとした。

 この光の正体は、「ハードタック」プロジェクトのもとで高高度で実施された2つの核実験のうちのひとつ、コードネーム「ティーク(TEAK)」によるものだ。

 この実験は、高層大気圏における核爆発の影響を調査し、弾道ミサイルに対抗する防衛戦略を研究するためのものだで、3.8メガトンというパワーは、ヒロシマの原爆の250倍に相当する。

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昼を夜に変えるほどの光を放った「ティーク」の高高度爆発

 「ティーク」の核実験による上空76キロという高高度爆発の閃光は遠くからでも見ることができた。ジョンストン島から1500キロ離れたハワイでも、驚いた多くの住民が奇妙な光を見たと次々に警察に通報した。真っ暗な空が黄色からオレンジ、そして赤に変わったという。

赤い色が、まるで水平線の大部分を飲み込むように半円形に広がったんだ。半円の中心からとても大きな雲があがってくるのがはっきりと見えた。30分くらい、そのまま見えていたよ

 ホノルルの目撃者は語った。

 この影響のせいか、軍と民間航空機の通信が数時間ダウンし、電離圏を通信に利用していた太平洋高周波通信ネットワークの多くが最大9時間も中断された。

 南に3200キロ離れた遠くの西サモアでは、この爆発のせいで艶やかなオーロラが見えた。アピア天文台の天文学者が、電磁パルス(EMP)の強さを測定したところ、太陽風が生み出すそれの4倍も強いことが判明した。


REDSTONE ROCKET, HARDTACK-TEAK TEST , AUGUST 1958

4年後に行われた高高度核実験「フィッシュボウル作戦」

 それから4年後、アメリカはまたしても高高度核実験を行った。今度は、地球の磁場での核爆発の影響を調べることが目的だった。

 「ティーク」実験のときに観察された影響、つまり爆風で生じたEMPや、爆発から数千キロも離れた場所で目撃された奇妙なオーロラ、最近発見されたヴァンアレン放射帯の性質などを、さらに理解しようとしたのだ。

 「フィッシュボウル作戦」として知られるこの実験は、衛星の軌道と同じくらいのさらに高層圏で行われた。

 最初の2回は、ロケットが壊れて失敗に終わったが、3度目の「スターフィッシュ・プライム」は、1962年7月8日、ジョンストン島から打ち上げられた。ソーロケットが搭載した核弾頭は、1.4メガトンだったという。


Starfish Prime Fishbowl films

 このロケットは、ジョンストン環礁の南西36キロの上空400キロ地点で爆発した。爆発の瞬間、ハワイの街灯が消え、無線も電話線も機能しなくなった。

 太平洋のほかの広範な地域でも、強力なEMPが急上昇したため、高周波通信システムが機能不全に陥った。

 爆発の数分後、空気分子のイオン化によって引き起こされた血のように赤いオーロラが水平線に広がった。こうした目に見える現象は強烈で、太平洋の広い範囲で目撃された。

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ホノルルからたれこめた雲を通して見えたスターフィッシュ・プライムの爆発による閃光

 スターフィッシュ・プライムの火球の一部が、大気光オーロラとなって地球の磁場に沿って延びているのが偵察機から確認された。

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高高度核爆発による影響

 高高度での核爆発は、地上に近いところでの爆発とは違った影響がある。

 地上に近いと、熱放射、高エネルギーX線、ガンマ線、高速中性子、核分裂性物質自体の電離残留物などの形で爆風が放出する膨大な爆発エネルギーを大気が吸収する。

 しかし、高層の宇宙空間では、爆発によって生じるエネルギーを減速・吸収する空気がないため、火球は急激に大きく成長する。

 高層大気圏でガンマ線と空気の分子が衝突すると、一過性の電場と電流が発生する高速で高エネルギーの電子が生まれ、強力なEMP(電磁パルス)ができる。この電場は数千ボルトにもなる可能性がある。

 研究者たちは、EMPの障害を予想したが、スターフィッシュ・プライムのEMPの爆風はあまりに強力であることが証明された。

 さらに、研究者が予測できなかった別の影響があった。

 多数の荷電粒子が地球に落下したり、散逸することなく、地球の磁場に閉じこめられて、何ヶ月も宇宙に漂い、地球の軌道衛星に搭載されていた電子機器を焼きつくしてしまったのだ。イギリスやソ連のものなど少なくとも6つの衛星が、スターフィッシュ・プライムのせいで失われた。

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 400キロの高高度におけるEMPのメカニズムとはこうだ。高度20~40キロ付近で、ガンマ線が大気に衝突すると、電子が放出され、それが地球の磁力線に沿ってらせん状に横へそれて移動する。

 このため、電子がEMPを広い範囲に放射する。アメリカ上空の地球の磁場の歪みのせいで、爆発の南では最大、北では最小のEMPが発生した。

ソ連(現ロシア)による高高度核実験

 ソ連(現ロシア)もまた、独自の高高度核実験を行っていて、同じように悲惨な結果になった。

 1962年10月22日290キロの高高度で、300キロトンの核弾頭を爆発させた。生じたEMPのせいで、570キロに渡る高架電話線に2500アンペアの電流が流れ、1000キロの埋設電源ケーブルがダウン、発電所が火災にみまわれた。

 ソ連が実験に使った兵器はアメリカのものよりも小さかったが、結果として発生したEMPによって引き起こされた損害は、かなり大きかった。これは実験が人口の多い地域の上空で行われ、磁場が大きかったせいだ。


Soviet first High-Altitude nuclear explosion ZUR-215

米ソによる高高度核実験禁止条約が締結

 翌年の1963年、両国とその他の多くの国は、部分的核実験禁止条約に署名し、大気および大気圏外での核実験は行わないことに合意した。

 1967年宇宙空間条約は、宇宙での核兵器の使用を禁止、1996年包括的核実験禁止条約は、上空、地下、水中、大気圏におけるあらゆる種類の核爆発を禁止している。

EMP(電磁パルス)兵器は脅威となりえるのか?

 EMP(電磁パルス)兵器は、もはや真の脅威ではないと、イギリスの防衛シンクタンク、王立防衛安全保障研究所の所長、エリザベス・キンタナは考えている。

 宇宙はすでに電磁的に非常に都合の悪い環境で、人間が手を下すまでもなく、衛星や宇宙船は太陽からの宇宙線と荷電粒子に絶えず爆撃されている。現代の衛星は放射線に対して強固にできていて、高高度核爆発のようなEMP兵器の影響は少ないのだそうだ。。

 もし敵国の通信システムや送電網を破壊したいのなら、EMP兵器などを使わずに、簡単に安価で実行する方法が他にあるという。

 軍事アナリストのシム・タックはVICE誌にこう語った。

EMP兵器が脅威ではないというのではない。影響が多大なのは確かだが、核攻撃は別として、それをやるメリットはない。だから、最大の脅威だとして煽るのは、必ずしも現実的ではないかもしれない

References:Turning Night Into Day: Nuclear Explosions in Space | Amusing Planet/ written by konohazuku / edited by parumo

全文をカラパイアで読む:
http://karapaia.com/archives/52292338.html
 

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