◆三峡ダムが決壊すれば3億~6億人に被害!?

 世界最大のダムとは、もちろん中国「三峡ダム」のことだ。今年の雨の時期、中国ではすでにいくつかのダムが決壊、もしくは「放流」が行われている。そのせいで、すでに宜昌などの地域の水害被災者は数千万人に上った。避難指示が出されている人々の数は1600万人に上る。これだけでもすごい数だが、万が一ダムが決壊したなら下流域の3億~6億人に被害が及ぶという。

 日本の総人口の、最大5倍の人々が被災するのだ。しかもこのダムは大河「長江(日本ではなぜか支流の一つの「揚子江」と呼んでいる)」の中流にあり、下流には武漢や南京、上海などの大都市があり、中国経済の中枢がある。

長江下流、上海の様子

 しかもダムに流れ込む水域には人口3000万人の重慶があり、工業排水や生活排水などの汚染水を川に流し込んでいる。したがって、決壊して流れ出る洪水はきれいなものではなく、ヘドロや有害物質を含んだ汚水なのだ。それが1000kmも離れている下流の上海まで流れる。

 この三峡ダムは最上流にあるわけではなく、中流域に位置する。これが決壊すれば下流域の3億~6億人に被害を出し、そのままにしておくとダムの上流に被害を及ぼす。どちらにしても最悪の結果をもたらすものだ。だから下流の人たちはダムから放流するのに反対し、上流の人たちは早く流すことを望んでいる。

◆ダムの上流に堆積した土砂が洪水を引き起こしている

 「10年と持たないだろう」しかも三峡ダムは無理に早く作られたので、設計・施工とも欠陥建設である可能性が高い。その証拠に、このダムを建設したがっていた人たちは、竣工式には顔を出していない。建設時にすでに数千か所のひび割れが起きていたからだ。顔を出すことでその後の責任を追及されたら困ると考えたのだろう。

 中国の水文学・河川工学者で清華大学水利系教授だった故・黄万里(こう・ばんり)氏は、三峡ダム建設時からと述べていた。

 ダムは1993年に着工、2009年に完成したのだから10年は持った。しかしそれから先はどうなるのだろうか。どうも早急に造ったせいで、コンクリートに溜まる熱を十分に冷やすことができていなくて、ひび割れたのではないだろうか。

 このダムはものすごい大きさで、ダム堤から水の溜り始める位置まで約500kmある。東京から500kmと言えば京都の手前まで、もしくは東北新幹線なら東京から新花巻駅付近までになる。そこまでがダムのバックウォーターの範囲になるのだ。貯水容量は222億トン(日本最大容量の奥只見ダムの37倍)もある。

土砂に埋まってしまった長野県の美和ダム

 そして考えてもらいたいのが、ダムのために溜まる土砂はどこに溜まるかということだ。たいてい土砂は流れが止まったところに溜まるから、ダム堤の反対側500km先に堆積する。その堆積した土砂を取り除くのも大変だ。しかし、たいていの世界中のダムはそんなことは考えてもいない。

 日本では毎年、いつの間にか地図からダムのマークが消されていく。それは壊されもせずに堆積した土砂とわずかな水たまりとなって、ただの滝になった場所としてダムは忘れられていくのだ。

土砂で埋まってしまった北海道の二風谷ダム

 しかし三峡ダムの場合はバックウォーターの距離が遠すぎて、人知れずダムよりはるか上流に土砂が堆積していく。これがダムの上流地域に洪水を起こしている理由だ。川が合流する地点では土砂が堆積して、上流からの水を流さずに洪水を起こすのだ。

◆三峡ダムがこのまま土砂を貯め続ければ、取り返しのつかないことになる

 現在の時点で、ダム貯水湖に堆積している土砂は19億トンと推定されている。大河である長江の水流は、今ならこれらを海まで運ぶ力を持っている。しかしこのままダムが土砂を貯め続ければ、30年後には土砂の堆積量は40億トンを超えるとみられる。

 そうなれば、無理に土砂を海へ流そうとしても堆積して流れず、取り壊すことすらできなくなってしまう。今のうちにダムが壊れて3億~6億人の人が被災するほうがマシとすら思えるほど、どうにもならないものになっていくのだ。

 もちろんそれは中国の被害だけでは終わらない。濁流は長江から南に向かう海流に押されて日本にすぐに届くだろう。すでに長江に棲んでいた淡水イルカは絶滅したとみられ、これと同じことが海に起こるかもしれない。

 三峡ダムの形が変形していることは、2019年7月より言われ始めた。これはグーグルマップの衛星画像を示して「歪んでいる」と指摘されたものだ。中国政府はこれに対し、グーグルマップアルゴリズムのせいであって、何の問題もない」と反応。さらに設計上は何の問題もない範囲だとしている。

 このことも信じがたいが、さらに信じがたいのはこの三峡ダムが特に警報を伝えることもなく放水していることだ。確かにすでに上限水位を2m越えているというが、だからといって放水されたのでは、いつ何時洪水になってもおかしくない。

 日本の全人口の数倍という地域に、静かに放水されたのではたまらない。これが今現実に起きているのだ。今回は大丈夫であったとしても、次の雨の時期はだうなるだろうか。とんでもない爆弾を抱えることになってしまった。

◆中国・河南省で起きた「世界最大」のダム決壊事故

 近代からのダム建設はせいぜい100年程度しか歴史がない。しかもその歴史の中で、すでにたくさんのダム決壊の記録がある。アメリカフランシスダム、ティートンダムなどの決壊、イタリアバイオントダムの決壊(『世界最悪のダム事故』というイタリア製の映画にもなっている)など、枚挙に暇がないほどだ。

 現時点までの世界最大のダム事故は、1975年8月に中国で起きた河南省駐馬店の「板橋ダム」および「石漫攤ダム」の2基の大型ダムと、2基の中型ダム、さらに58か所の小型ダムが決壊したダム事故だろう。

 1975年8月4日、台風3号が台湾を経由して福建省に上陸した。普通は大陸に上陸した台風はすぐに衰退して消滅するが、この時は熱帯の気象が強烈で、上陸後にも速度が落ちたものの勢力は落ちず、長江(揚子江)に沿って大陸中央を通過した。

 8月4日から8日までの降雨量は1631mmに達し、8月5日から7日の3日だけで降雨量は1605mmを記録した。8月5日、板橋ダムの管理室が水に浸かって電話が使えなくなり、その後下流への危険信号が送れなくなっている。周辺の村は全体が60cmほど水に浸かり、民家の倒壊はすでに始まっていた。老人や子供の救出が始まり、警察は「関係書類」の保存に懸命となっていた。

 8月6日、駐馬店地方も洪水となり救援活動が始まった。ダムはゲートの放水を最大に切り替えたが、ダムの水位は上がる一方だった。ダム容壁を大砲で破壊し放水量を増加しようとしたが、近隣には大砲があっても玉がなかったのだ。

 16時頃から暴雨が11時間連続する事態となり、数度の緊急会議が開かれたが「ダム決壊」を予測する人は居なかった。唯一のダム批判者の陳星氏は「ダム容壁爆破」を提案していたが、この意見をダムへ送る通信手段が切断していた。

 7日21時頃から中型・小型の周辺ダム決壊が始まった。ダム周辺の水没した村の水位はさらに増加し、人々は恐怖に包まれていた。その後一瞬の雨上がりがあり、人々が「雨が止んだ」と歓喜する声が広がったとき、皮肉なことに巨大な「板橋ダム」が決壊。日本の最大ダムの徳山ダム(総貯水容量:6億6000万㎥)より大きい8億㎥の水が洪水となって周辺と下流域全体を襲った。

 おそらく数万人が洪水で直接死亡し、水没した土地に数百万人が残された。そして疫病が猛威を振るい、飢えと疾病で数万人が死亡した。ウイキペディアでは、直接の水害で2.6万人が死亡し、その後の食糧危機や感染病によって数十万人が死亡したとされる。報道が禁止されていたため、正確な数字は不明だ。

スリランカのダムは地域のためにある

 これが犠牲者数から見て、世界最大のダム事故だ。「ダムは安全」と誇れるような実績はない。スリランカには数千年前からの木造のダムがある。これは堆積した土砂を吐き出せるように、人工的に壊せるように造られている。ところがこの約100年の間に造られたダムは、壊せるように造られていない。しかし必ず寿命は来るのだ。

◆水深の深いダム湖が引き起こす「ダム誘発地震」

黒部ダム

 イタリアバイオントダムの事故は日本に示唆的だ。これは切り立った山を利用して建てられ、水位が400mを超すような深いダムだ。ところがダム湖に水を入れ始めると、地域に群発地震が起きた。

 施主の電力会社は政府や御用学者に相談したが、「水位とは関係ない」との答えだった。そのためさらに水を貯水していった。そして水位をさらに上げると、周囲の山が地滑りを起こし、湖面に崩れ落ちた。落ちた山は「山津波」を起こし、山津波はダム堤を150mも高く超え、麓の村を人口約2000人以上とともにすべて流し去った。

 ダム湖の深さが100mを超えると、湖底には11気圧を超える圧力がかかる。それによって地震を引き起こしたり、逆に水の接着効果で安定させたりする。このような地震のことを「ダム誘発地震」と言い、国際的には常識になっている。

 しかし、日本でだけはさまざまな「ダム誘発地震」を認めていない。他国と比べると超巨大な貯水量を持つダムが少なく、他の地震の要因もあり区別が明瞭でなく、他の要因の地震と区別しにくい点もあってごまかしたままだ。

 意外なのは、日本でダム誘発地震の可能性が高いのが「黒部ダム」で起きた群発地震であることだ。黒部ダム1963年に完成した総貯水量2億トン、高さ186mあるダムだが、2016年8月末から400回を超える群発地震を起こした。

 ダムと地震との関係では、深さが100mを超えるダムで水深を上下させた時に起こることが多く、ダム湖底の地盤につながる浅い地層で起こることが多い。総貯水量よりも水の気圧に大きく関係するのが水深であり、大きなダムであることよりも水深の深いダムであることが影響する。

 中国で起きた8万人の犠牲者を出した四川大地震もまた、「紫坪鋪(しへいほ)ダム」により地震が誘発されたのではないかと疑われている。位置的に長江に近い。そして紫坪鋪ダムの堤高は堤高156mで、三峡ダムは146mとなっている。地質も変わりなく、同様のダム誘発地震の危険がある。

◆地震によって、八ッ場ダムが貯めた大量の水が都心部へと流れ落ちる!?

八ッ場ダム

 バイオントダムのような事故は日本でも起こり得る。例えば八ッ場ダムの周囲は同じ高さの山に囲まれている。これは浅間山の噴火による土砂が積もった地域を、長年の間に水が渓谷を刻んだからだ。

黒川第一発電所周辺の地層。黒川第一発電所の復旧可能性に関する評価委員会「黒川第一発電所の復旧可能性に関する評価委員会報告書」(2019年10月)より

 その場合、地層は火山灰と火山堆積物のミルフィーユのような構造になる。火山灰の粘土質は水を通さないが、他の火山堆積は水をよく通す。すると、水位がダムから上に登って、粘土層に入り込むとその上だけを滑らせる。これは九州の阿蘇山も同じで、2016年に阿蘇大橋が崩落したが、その時も同じ仕組みで起きている。

 ただしその時は事前に大雨は降っていない。そこには九州電力が持つ百年前からの黒川第一発電所の水路が通っていて、地震で即座に断裂して20万トンもの水を流出させていた。地層はミルフィーユ状になっていて、この水を通したり通さなかったりする地層の間を、20万トンの水が滑っていったのだろう。
 この時は熊本の地震が引き金となったが、八ッ場ダムでも同様のことを心配して観測井(かんそくせい)を掘って常に水位の程度を確認している。ここに水が入れば、阿蘇大橋の時のように山を斜面ごと滑らせてしまうからだ。残念なことに八ッ場ダムの貯水量は多く、それはそのまま都心部へと流れ落ちる位置にある。

完成前の八ッ場ダムに立てられていた看板

 もうダムは解体すべき時期だと思う。三峡ダムばかりでなく、建設を止めて解体を始めているアメリカに学び、もはやダムに頼らない社会にすべきだ。しかし困ったことに、日本では必要性のないダムを中国同様“利権のため”に建設している。

石木ダムが造られようとしている石木川

 特に馬鹿げているのは、長崎県に未だに作られようとしている「石木ダム」だ。佐世保市に水を引くため」と言うが、佐世保市はとっくに人口減少していて水消費量も減り続けている。「川の増水を防ぐ」と言うが、ダムが造られようとしているのは川棚川の支流で、この下流域には人口集積地はない。せいぜい川の堤防を強化すれば足りるのだ。

 これを見ていると中国を笑うこともできない。私たちは愚かさのせいで知らず知らずのうちに危険を抱え、無駄なダムさえ止められずにいる。
 
「ダムは無駄」なのだ。

【「第三の道」はあるか 第4回】
<文/田中優 写真/横田一>

【田中優】
1957年東京都生まれ。地域での脱原発やリサイクルの運動を出発点に、環境、経済、平和などの、さまざまなNGO活動に関わる。現在「未来バンク事業組合」「天然住宅バンク」理事長、「日本国ボランティアセンター」 「足温ネット」理事、「ap bank」監事、「一般社団 天然住宅」共同代表を務める。現在、立教大学大学院和光大学大学院横浜市立大学の 非常勤講師。 著書(共著含む)に『放射能下の日本で暮らすには? 食の安全対策から、がれき処理問題まで』(筑摩書房)『地宝論 地球を救う地域の知恵』(子どもの未来社)など多数