全国各地に存在する廃虚や心霊スポット。若いころ、深夜に友人たちと訪れた経験のある人も多いのではないだろうか?

 筆者は今でこそ旅モノの記事が多いが、若手ライター時代には廃虚や心霊スポットなどの潜入ルポを雑誌に連載。全都道府県の有名無名スポットを訪れ、その数は300か所以上に及ぶ。

 ただし、筆者には霊感と呼ばれるものが備わってないようで、直接的な恐怖体験をしたことはほとんどない。それでもまったくないわけではなく、数える程度だが不思議な体験をしたことがある。

◆突然、カメラの電源が入らなくなった

 そこは山奥にあるかつての炭鉱街。訪れたのは今から15年以上も前のことだが、当時すでに住民は1人もいないゴーストタウン携帯電話も圏外。建物はほとんど取り壊されており、朽ちかけた木造の商店らしき廃虚など数棟がかろうじて残っている程度だった。

 でも、ここを訪れたのは廃虚や心霊スポットとしてではなく、昔ここであった殺人事件の記事用の撮影。この日は朝から長距離移動や取材が続いたハードスケジュールで、現地に到着したのは深夜12時編集者カメラマンの3人でのロケで、当時は立入禁止になっていなかったので車で炭鉱街があった場所を移動しながら撮影を行うつもりだった。

 ところが、ここでカメラマンが異変に気づく。自身の一眼レフカメラの電源が突然入らなくなったのだ。

 しかも、持っていたもう1台のカメラも作動せず、複数あった予備のバッテリーに交換しても動く気配はなかった。どれもフル充電されていたにもかかわらずだ。

 2台のカメラが同じタイミングで動かなくなることは通常まずありえない。万が一、偶然が重なったとしても普通はカメラ本体の故障を疑うだろう。困ったことになったと思いつつも筆者が持っていたコンパクトデジカメはちゃんと作動していたし、最初は単なる機材トラブルだと思っていた。

◆筆者たちに追いかけてくる謎の音の恐怖

 だが、このときまったく予期していなかった不可解な出来事が起きる。突然、どこからともなく「ピヨピヨピヨ……」って音が聞こえてきたらしいのだ。

 あえて「らしい」という言い方をしたのは、この音が聞こえたのは編集者カメラマンの2人だけ。実は、筆者の耳には最後まで聞こえなかったからだ。

 加齢に伴い高周波の音が聞こえにくくなるモスキート音というのがあるが、筆者もほかの2人も同年代。山奥なのでたむろする若者の撃退用にモスキート音発生装置を設置しているともの考えにくい。そもそも2人とも「モスキート音とは明らかに違った」と否定している。

 文字に起こすとヒヨコの鳴き声みたいでかわいらしく思えるが、「小鳥の鳴き声とはまったく違い、人工的な音だった」とカメラマンは証言している。

 ただ聞こえるだけならまだいいが謎の音は徐々に大きくなったそうで、怯える2人。対照的に状況を理解できずにポカーンとする筆者。慌てて車に乗って炭鉱街の別の場所に移動するも謎の音は自分たちのほうに向かって来ていたという。

心霊スポットではなかったのに……

 このまま撮影を諦めて引き揚げようという話になったが、カメラマンが「車のシガーソケットから電源を引っ張れるかも」と言い出し、ケーブルでつないでみると見事作動。それでも謎の音に対する怖さもあり、車から出ずに窓を開けて撮影を急いで済ませて逃げるように現場から立ち去った。

 炭鉱街から離れると聞こえなくなったが、「撮影を途中で切り上げたのは音源がすぐ近くまで迫ってきている気がしたから。これ以上、ここに留まるのは本能的にヤバイと思った」と編集者

 廃集落として一部の廃虚マニアのサイトなどでは紹介されていたが、心霊スポットとしての情報は皆無。ネット上にもここに関する怖い話などの噂は見当たらず……。

 謎の音の正体が何なのかは今でも見当もつかない。筆者自身には聞こえなかったことから現地ではそこまで怖いと思わなかったが、現場を離れた後に2人からの話を聞いて震え上がったのを今でも覚えている。

◆現在はダムの底に

 なお、問題のカメラはロケ終了後にメンテナンスに出したそうだが、ボディやバッテリーにも異常などは見当たらず。少なくとも故障ではなかったようだ。

 それまでは真夜中に心霊スポットを訪問しても怖いという感覚はなかったが、この一件で筆者を含めて全員すっかりビビリに。しばらくの間、日中のロケに切り替えていたのは言うまでもない。

 また、東京に戻った後、祟られたらどうしようと不安だったが、怖い話でありがちな原因不明の高熱にうなされることも事故などの不幸が重なることもなかった。

 しかし、カメラマンは後日、筆者が担当していない別の現場で霊媒師を撮影した際、「(霊が)憑いてますね」と言われたとか。その場で急きょお祓いを受けたそうだがロケから数年が経っており、あのときの不思議な体験が関係しているのか定かではない。

 現在、炭鉱街は周辺の地域を含めてほとんどが水没。一体、あれは何だったのか? 真相はダムの底に沈んだままだ。<TEXT/高島昌俊>

【高島昌俊】
フリーライター。鉄道や飛行機をはじめ、旅モノ全般に広く精通。世界一周(3周目)から帰国後も仕事やプライベートで国内外を飛び回っている。

半壊している元商店の廃虚