(池田 信夫:経済学者、アゴラ研究所代表取締役所長)

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 7月1日からスーパーやコンビニのレジ袋が有料化され、買い物のたびに「レジ袋お使いになりますか?」ときかれるようになった。「使います」と答えるのはちょっと罪悪感があるが、これは何のためにやるのだろうか。

 よくいわれるのは「プラスチックは分解しないから海のごみになる」という話だが、海のプラスチックごみのうち、ポリ袋は0.3%しかない。さらにプラスチックに使うのは石油の2.7%だ。それが分解しないというのも誤解である。プラスチックの成分は石油と同じだから、燃やせば分解できるのだ。

プラスチックは「燃えないごみ」なのか

 この背景には海洋ごみの問題がある。「このままでは2050年には世界の海のプラスチックは魚の総重量を超える」と騒がれ、環境団体は「2050年では遅すぎる」とプラスチックごみゼロを求めている。

 2019年6月のG20サミットでは、2050年までに新たな海洋プラごみ汚染をゼロにする「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」が合意され、日本政府は「2030年までに使い捨てプラスチックの排出を25%抑制する」などとするプラスチック資源循環戦略をまとめた。今回のレジ袋有料化はその戦略の一環である。

 日本は国民一人当たりのプラスチックの容器や包装のごみの量が世界第2位で、レジ袋も1日1枚は使っているといわれる。これをなくす「意識変革」をしてもらおうというのが政府のねらいだ。

 プラスチックごみは、廃棄物処理の最大の問題だった。1960年代からプラスチックの消費量が増えたが、当時のごみ焼却炉ではプラスチックを燃やすと高温になって焼却炉がいたむので「燃えないごみ」として分別することが義務づけられた。

 燃えないごみは産業廃棄物でも深刻な問題になった。ごみ焼却場があふれて処理できなくなり、不法投棄する業者が後を絶たなかった。不法投棄には刑事罰が課されたため、プラスチックごみは中国に輸出されるようになった。しかし2018年に中国がプラスチックごみの輸入を禁止したため、プラスチックごみ処理が行き詰まった。

 しかしこの話は、よく考えるとおかしい。高校でも習うように、プラスチックのような有機化合物は炭素と水素でできているので、燃やすと酸素と結合してCO2と水に分解するはずだ。なぜプラスチックは燃えないごみとして分別するのだろうか。

「ポリ袋は実はエコなんです」

 この疑問に、包装資材メーカー、清水化学工業のウェブサイトは「ポリ袋は実はエコなんです」と答える。

・ポリエチレンは理論上、発生するのはCO2と水、そして熱。
・石油精製時に(ポリ)エチレンは必然的にできるので、ポリエチレンを使用する方が資源の無駄がなく、エコ。
・自治体によってはサーマルリサイクルし、ごみ焼却燃料になり、重油燃料の使用量がその分減少し、無駄とならない。

 ポリエチレンのようなプラスチックは、石油を精製するときできるナフサを原料にしているので、ごみ焼却炉で完全燃焼すると、CO2と水に分解する。残るのはわずかの灰だけだから、体積は大幅に減る。これがプラスチックを減量するもっとも合理的な方法なのだ。

 1960年代には、こういう処理はできなかった。プラスチックを燃やすと300~500℃の熱が出るので、当時のごみ焼却炉では耐えられず、プラスチックを分別する必要があった。

 しかしその後の技術進歩で、プラスチックも燃やせるようになった。さらに微量のダイオキシンが出るという理由で、1999年からごみ焼却炉の温度が800℃以上に規制されたので、今の焼却炉はすべてプラスチックを燃やせるのだ。

 だから今は、東京23区は基本的にごみの分別をしていない。空き缶は分別収集している(アルミ缶は再利用するのが合理的)が、ペットボトルは燃えるごみと一緒に捨ててもかまわない。それではリサイクルできないと思うかもしれないが、実はペットボトルは100%リサイクルできるのだ。

プラスチックは燃やせば再利用できる

 日本のプラスチックごみの23%は、分別回収して細かい粉にして新たに成形する「マテリアルリサイクル」だが、56%は燃やして発電などでエネルギーを回収する「サーマル・リサイクル」である。それを含めると、日本のプラスチック廃棄物の84%は再利用されている。

「燃やすのはリサイクルではない」と環境団体は批判するが、これは誤りである。プラスチックを燃やす分だけ火力発電所で使う重油が減るので、資源の節約になる。CO2の排出量も減る。

 マテリアルリサイクルにはリサイクル工場で粉にして合成繊維などの材料にする多くの工程が必要で、コストが高い。そういうライフサイクル全体を考えると、マテリアルリサイクルよりサーマル・リサイクルのほうがエネルギー削減効果が3倍以上高く、CO2削減効果も大きい。

 つまりプラスチックごみは、燃やして熱で資源を再利用するのがもっとも効率的で環境負荷も小さいのだ。海洋ごみはプラスチックごみを海に捨てることが問題なので、生ごみと一緒にごみ収集して焼却すればいい。

「プラスチックを燃やすとダイオキシンなどの有毒物質が出る」というのは昔の話で、今は800℃以上で燃やすので安全上の問題はない。むしろ生ごみだけでは発電の温度が上がらないので、プラスチックごみを燃えるごみとして認めるようになり、それでも足りないので重油を助燃剤として加えている。

 レジ袋は問題の始まりにすぎない。次は「ペットボトルを禁止しろ」という話になるだろう。すでに東京都庁では昨年、会議でペットボトルを禁止した。企業でもソニーなど「エコ」を標榜する企業でペットボトル追放の動きが始まっているが、これは錯覚である。

 海洋汚染の原因はプラスチックではなく、そのリサイクルにコストがかかりすぎることなのだ。このため産業廃棄物の処理も困難で、海への不法投棄が絶えない。こういう不合理な規制をやめ、産業廃棄物も自治体が有料で引き取り、燃やせばいいのだ。

 ところがこういう改革には、国も自治体も及び腰だ。ごみ問題には環境団体がうるさいだけでなく、リサイクル業者などの既得権がからんでいるからだ。そういうしがらみを断ち切れば、プラスチックごみ問題の解決はむずかしくない。

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(写真はイメージです/Pixabay)