(政策コンサルタント:原 英史)

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 コロナ対策の「専門家会議」が「分科会」に改組された。専門家会議を巡っては、「政府と専門家の関係」がさんざん問題になった。

 本来、専門家の役割は、状況の分析、対策の提案。これに対し、政府の役割は、提案のどれを取り入れるか決断し、対策を決定することだ。

 ところが、これまでの役割分担は不分明で、専門家が対策決定を行っているようにみえることがあった。そのために専門家が批判の矢面に立たされることも生じた。問題は、専門家が「前のめり」に出すぎた真似をしたわけではなく、政府が明確に責任を負う姿勢を示さなかったこと、悪くいえば、専門家に責任を押しつけたことだったと思う。

大臣が状況分析、専門家が対策提言を説明するちぐはぐぶり

 分科会への改組は、こうした反省に基づき行われたのかと思っていた。だが、7月6日の分科会初会合後の会見をみると、どうやら思い違いだったようだ。

(外部リンク:分科会初会合後の記者会見[ニコニコ生放送])https://live2.nicovideo.jp/watch/lv326871448

 会見は、西村康稔担当大臣と尾身茂分科会会長が共同で行った。私がまず注目したのは、首都圏の感染状況について、専門家がどう分析したかだ。従来の専門家会議では毎回、「状況分析・提言」ペーパーがまとめられ、会議後には専門家が会見を行った。ここでの詳細な説明には相当の信頼感があり、毎回注目していた。

(外部リンク:厚労省新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の見解等)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00093.html

 ところが、6日会見では、状況分析は西村大臣が「若年層が多い」「重症者は少ない」などと簡単に説明したのみ。尾身会長は専ら、対策提言の説明を担った。これは分担が逆だ。状況分析の説明こそ、専門家にしてもらうべきだったと思う。

「若年層が多い」「重症者は少ない」程度のことは、報道などで皆わかっている。問題は、そうはいっても、接触経路不明者が4割程度を占める中で、

市中感染が今後急激に拡大する可能性をどう評価するのか、
・3月下旬に急拡大した局面とはどこがどう違うのか、
・新宿・池袋以外でどれぐらい広がりつつあるのか、

 など。こうした点の精緻な分析を専門家にしっかり説明してもらいたかった。

 結論は「緊急事態宣言時ほどの心配はない」ということなのだろうし、それを特に疑うわけでもない。だが、分析内容を一定程度説明してもらわないと、正しく状況を理解し、何に注意すべきかを判断することもできない。

 説明不足は結果として、東京都は「他県への移動自粛を要請」、国は「制限不要」といった不整合も招き、都民・国民の混乱を深めていると思う。正しい認識を欠く混乱は、一方で過剰な自粛、他方で無謀な無対策、の両極をもたらしてしまう。

 対策決定を誰が担うのかも、混乱したままだ。

「了解いただいた」発言にみえる危うさ

 会見で尾身会長が対策提言の説明をしたことは、まあよい。決定前の段階だが、議論過程をオープンにするのは悪いことではない。次のステップで今度は西村大臣が、提言を受け、どう対策決定したのか説明すればよいことだ。

 それより気になったのは、会見の中で西村大臣が、7月10日からの県をまたぐ移動制限緩和や、東京都の感染対策につき、「(分科会に)了解いただいた」と説明したことだ。

 これは平時の審議会運営でのやり方だ。一般に政府の審議会では、最初のうちは委員に自由に意見を言ってもらい、ある段階で政府が方針を示し、最後は委員の了解をもらい“お墨付き”を得る。その際、一部委員から異論があると“お墨付き“にならないので、事前に根回ししてコンセンサスを作り、予定調和で運営する。こうして、誰も決定責任は負わず、「みんなで合意した」との体裁を作るのが日本政府の伝統的な決定方式だ。

 だが、緊急時には、この「予定調和コンセンサス」方式は機能しない。時間をかけてコンセンサス形成する余裕はないからだ。無理にこの方式で運営すれば、本来明らかにすべき大事な異論を封殺せざるを得なくなり、リスクを高めてしまう。だから、緊急時には、専門家はさまざまな意見を出し、政府がどれを採用するかを決断し、自らの責任で決定する、との分担にすべきなのだ。

「了解いただいた」発言は、言葉尻にみえるかもしれないが、基本的な役割分担の未整理を露呈してしまったように思う。

 県をまたぐ移動制限緩和に関しては、本当に専門家から異論はなかったのだろうか。緊急事態宣言解除時に「人口10万人あたり0.5人」を求めた専門家たちが、この局面で誰一人異論を唱えなかったとしたら、むしろ不自然だと思う。また、本当に異論がなかったなら、そんな偏ったメンバー構成で大丈夫なのかとさえ思う(念のためだが、私自身、県をまたぐ移動制限緩和に全く反対ではない)。

 もし本当は異論があったなら、「・・・との異論があった。しかし、政府として・・・と判断し、移動制限緩和を決めた」と説明してもらえばいい。そのほうが、「みんな合意した」と上っ面の説明をされるより、よほど信頼できるし、リスクを正しく認識できる。

コロナ対策に「コンセンサス」は不要

 政府のコンセンサス尊重に毒されたのか、尾身会長からも「国民的コンセンサスを作る必要がある」との発言があった。検査戦略に関する提言(資料4-1)に関し、無症状のリスクの低い人たちに対する検査を巡ってだ。

(外部リンク:第1回分科会資料)https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/corona1.pdf

 これもおかしな話だ。憲法改正でもあるまいし、国民的コンセンサスを形成する理由も手段もなかろう。

 尾身会長が留意事項として強調したのは、仮に1万人に100人の感染者がいるグループで一斉検査を行った場合、現在の検査精度では、

感染者100人のうち30人は「陰性」と判定され(=偽陰性)、
・99人は感染していないにもかかわらず「陽性」と判定される(=偽陽性)、

 ことだ。

 そんな検査なら、私はとても受ける気にならないし、感染者の3人に1人は見落とされるのだから「検査を受けた人たちと一緒なら安心」とも思わない。だが、それでも検査したい人や企業はあるのだろうし、そうした人たちは自費で検査を受けたらいい。

 ただし、その際、

1)医療関係者らに負担をかけない方式にすべきであり、
2)また、「感染していないのに隔離を求められるリスクがあること」、「陰性と判定されても感染している可能性があること」を十分注意喚起しておけばよいだけだと思う。

 別にコンセンサスは必要ない。政府が自らの責任で方針決定し、それを国民に説明し、必要な注意喚起などを徹底したらよいことだ。

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