画期的リンゲル液「リンティー」
7月、夏になった。新型コロナウイルス感染症のせいで外に出るにはマスク着用が必須である。炎天下の中マスクを着けて歩くと、夏バテしそうになる。
そこで、最近、韓国で売れているある飲料をご紹介しよう。
この飲料は、2017年6月国防部(日本の防衛省に該当)の「スタートアップチャレンジ」で1位を獲得し、陸軍参謀総長賞を受賞した。
また、「チャレンジ!K-スタートアップ」では、国防部長官賞も受賞した。
さらには、韓国のクラウドファンディングサイト・ワイズで1億6000万ウォン(約1600万円)の投資を受け、2018年1月から市販を始めた。
さて、飲料の中身は、何と病院で打ってもらう点滴と同じ成分だという。
点滴はリンゲル液ともいい、無機塩類組成・水素イオン濃度を調整した体液の代用液だ。
1882年に英国の医師、シドニー・リンガーが開発した輸液で、注射による投与方法は開発当時から今まで変わらない。
しかし、それを経口用に変えてしまったということだ。
この画期的な飲料は、韓国軍が開発したことでも有名である。しかし、職業軍人ではなく、兵役として勤めていた軍医が国防部のスタートアップ・チャレンジとして開発した。
現在、軍を除隊したイ・ウォンチョル氏は医師の道をあきらめ、「リンガーウォーター」社を起業した。
自ら開発した飲料「リンティ」を売り出している。
「飲むリンゲル液」、疲労回復、二日酔い防止効果に卓越しているとSNS上で有名になり、昨年夏には、1日の売上高が前月の同じ日と比べて1000%もの成長を記録した。
2019年だけで700万包を売り上げるなど、上々の成果を上げた。製品は韓国だけでなく世界各国に特許が出願されている。
2019年7月には、総合デジタルマーケティンググループのフューチャー・ストリーム・ネットワークス(以下、FSN)に買収され、ベンチャーとしてエグジットを果たした。
しかし、「リンティ」製品化までの道のりは決して順風満帆だったわけではない。
2019年の夏に大ヒットした「リンティ」は、11月に食品医薬品安全処(日本の消費者庁に相当)から虚偽誇張広告を指摘された。
製品のパッケージやチラシ、SNSで「飲むリンゲル液」と謳ったのがいけなかった。消費者が医薬品と認識する可能性があるということで、全量廃棄された。
今年3月になって検察が最終的に「嫌疑なし」との判断を下した。
輸液治療の効果に関しては、医師の意見は半々だという。
リンティを開発したイ・ウォンチョル氏も輸液の効用については半信半疑であったという。
しかし、医療の現場でパーキンソン病や脊髄損傷患者の場合、低血圧ショックになることが多いが、彼らに輸液した場合、低血圧ショックになりにくいことを知ったという。
また、輸液治療は民間よりも軍隊でよく使われた。だが、輸液1リットル、注射針、固定道具などを含めると、重さが約1.2キロほどになってしまう。
兵士が背負う軍嚢は、下着の数を減らすのはもちろん、歯ブラシの柄まで切り取って重さを減らす。過酷な訓練を乗り切るにはたとえ1グラムでも背中の荷物を軽くしたいのだ。
そうした際に、もし輸液を粉末にして水に溶かして飲めるようにすれば、背中を軽くできるうえに血管に注射針を刺す必要もなくなる。
軍の特殊な状況の下で発生する熱中症や脱水症状を解決する糸口になるとの確信があったという。
彼の話を聞いた軍医訓練所の同期数人が研究に加わり、具体的な開発に入った。
飲む輸液を開発しながら直接飲用した後、軍医同士で互いに血液検査などをしながら開発していった。
輸液の効果は分かっているので、実験結果が良いのは予想できた。
しかし、「味」が問題だった。あまりにもまずいのだ。
いくら薬だといっても、まずければ飲めない人もいる。だからといって味のために成分を変えるわけにもいかない。成分の構成を変えずに美味しさを追求した。
そこで、商用化のために民間人チームが全国の飲料会社や専門家と相談して解決策を求めた。
同じ成分でもどの会社の原料かによって吐き気がしたり、下痢をするなど、副作用がある場合もある。
それだけ「完成されたレシピ」を求める過程は困難であった。
現在、発売されているリンティは、インドネシア産のレモンの皮から抽出した香りを使っている。
虚偽広告というレッテルを貼られ、苦労を強いられたが、リンティは新しいテレビCMキャンペーンを始め、活路を見出した。
CMは、計13本となっており「リンティ、知りたいですか」というテーマでサラリーマンや学生の保護者、タクシードライバー、ピラティス・インストラクターなど、様々な実際の顧客の経験談をもとに構成されている。
このCMが放送されてから、売り上げは5倍以上上昇したという。
消費者の感想としては、スポーツドリンクとしては高すぎるが、確実に体に良いというビタミン飲料なのでそこを買って飲むならよしと思える。
開発者のリ・ウォンチョル氏は、これまでは薬は病院や製薬会社を中心に開発されたが、医療現場では「なぜ、こういう製品がないのか、不思議に思うことがよくある」という。
医師を目指した者として「本当に消費者が求める製品」を作りたいという。
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