赤い光が視力低下を改善

視力低下に赤い光が効果 /iStock

 私は小学校時代から超のつくド近眼だったのだが、40を過ぎて老眼という魔の手が迫っている。近眼の人は老眼にならないという都市伝説むなしく、加齢による視力低下は否応なしにやってくるようだ。

 だが加齢による視力低下に関していえば、改善される可能性があるという。『Journals of Gerontology』(6月29日付)に掲載された研究によれば、ごくシンプルな方法で視力を回復できるかもしれないそうだ。

 その方法とは1日3数分間赤い光を放つLEDライトを見つめること、ただそれだけだ。目をつぶっていてもOKだという。

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歳をとると目が悪くなる理由

 人間の網膜には、「桿体(かんたい)細胞」と「錐体(すいたい)細胞」という2種類の視細胞が備わっている。

 桿体細胞(棒状であるためにこう呼ばれる)は光の明暗を認識する。色自体は認識しないが、その代わり暗いところでも機能することができる。一方、錐体(円錐状であるためにこう呼ばれる)は、色を見るための細胞だ。

 どちらも大量にエネルギーを必要とするのだが、それを供給してくれるのが細胞内のミトコンドリアだ。ミトコンドリアは「アデノシン三リン酸ATP)」という化合物を生産する。これが桿体と錐体にとってのエネルギーとなる。

 ところが、年を追うごとに、だんだんとミトコンドリアのエネルギー生産力が衰えてくる。すると桿体と錐体は十分なエネルギーを補給できなくなってしまい、目の調節力が弱まってきて、結果として視力が低下することになる。

 これが「老眼」と呼ばれるやつだ。実は、目の調節力の低下は10代から始まっていて、年を追うことに衰えているのだが、日常生活の中で気づきやすくなるのが40歳を過ぎた頃だという(個人差あり)。

老眼

iStock

赤い光でミトコンドリアに充電することで視力回復


 じつは650~1000ナノメートルの波長を持つ赤い光は、ミトコンドリアを元気にすることが知られていた。

 ならばこれを利用して、スマホの電池のようにミトコンドリアを充電してやれば、視力を回復できるのでは? と考えたのがユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンイギリス)の研究チームだ。

 研究チームはこの仮説を検証するため、健康な目を持つ24名(28~72歳)を対象に、例の赤い光を見つめるという実験を行なった。

 具体的には、2週間の間、LEDから照射される波長670ナノメートルの赤い光を1日3分見つめてもらう。尚、まぶたはこの赤い光を遮ることができないので、目をつぶっていても有効だそうだ。

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赤いLEDライトを2週間、1日3分見つめることで視力回復効果(目をつぶっていても有効)
image by:UCL

赤いLEDライトで22%が錐体機能回復


 この結果、40歳以上の参加者は錐体の機能が平均22%回復していたとのこと。特に青い光に対する感度が回復していたという。

 青に対する感度はミトコンドリアの衰えの影響を強く受けることが知られていたために、これは予想通りだったそうだ。

 もちろん桿体の機能も回復した。ただし、こちらはややインパクトに欠けるようだ。錐体と違って、桿体はエネルギーが足りないと死んでしまう(70歳では3割が死ぬ)ことが原因と思われるらしい。

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Pixabay

近い将来、視力回復システムが市販されるかも


 赤い光を放つLEDライトなら、うちの猫じゃらし用のがあるから、ちょっと試してみようとも思ったけれど、「波長670ナノメートル」なのかどうかもわからないので、やめておいたほうがよさそうだ。

 今の時点では、安全な利用方法や副作用の有無などはっきりとしたことは分からないので、自分で自作したり、家にあるLEDライトて試したりするのはやめておいた方がよさそうだ。

 この赤い光を使った視力回復システムは、近い将来に安価で市販される可能性もあるというので、それを待つことにしよう。

Optically improved mitochondrial function redeems aged human visual decline | The Journals of Gerontology: Series A | Oxford Academic
https://academic.oup.com/biomedgerontology/article-abstract/doi/10.1093/gerona/glaa155/5863431?redirectedFrom=fulltext

References:ucl/ written by hiroching / edited by parumo

全文をカラパイアで読む:
http://karapaia.com/archives/52292483.html
 

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