同僚や上司、取引先の担当者が突然、カラダを触ってきたり抱きついてきたりしたら、あなたならどうしますか? 実際にセクハラを受けたとき、筆者は少しの間、何が起きたのか理解できませんでした。

しばらくはショックを引きずっていましたが、”そのこと”を振り返ることができるようになった今、セクハラをされてどんな気持ちになり、どう対処したか、またその後の考え方の変化についてまとめてみました。万が一、セクハラが起きたときに応用してもらえるのであれば嬉しく思います。

セクハラが起きたときの感情

筆者はこのとき、イベントや講義などを開催するためのスポンサーを募る営業活動をしていました。A氏には何度かスポンサーをしてもらったことがあり、その日も、いつも通りの打ち合わせのはずでした。

いつもと違ったのは場所が飲食店の店舗スペースではなく、セクハラ行為をしたA氏が経営する店の2階にある、打ち合わせや会議用のスペースだったことです。

スタッフに案内され、先にそのスペースに到着して待っていたところ、少ししてからA氏が現れて座るよう言いました。軽く会釈をしてイスに座った途端、うしろから、ものすごい勢いで抱きつかれたのです。

息が苦しくなり、逃れられないほどの強い力でうしろから抱きしめられ、「松原さんの頑張ってる姿を見てると、すごくいとおしく思ってしまう…」A氏がそう言葉を発すると、耳たぶに唇があたるんじゃないかと思うぐらい、生あたたかい息がぐわっとかかりました。

少しの間、状況がのみこめず固まっていましたが、徐々に「自分はセクハラされている」と認識していきました。すると両手の指の先がピリピリとしびれが切れたときのようにおかしな感覚になり、胸の上を強く抱きしめてくるその太い腕の感触に吐き気をもよおしたのを覚えています。

自分がセクハラの対象になっていると感じた瞬間、嫌悪感と憎悪がふつふつと湧いてきて、それまでA氏に抱いていた信頼感や尊敬の念が一気に打ち砕かれました。そして、「何? この小汚い、キモいオッサン…」としか思えなくなったのです。

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悲鳴を抑えこまれる弱者

1階は店舗になっているので、そこで働いているスタッフだけでなく一般のお客さんも来店するというのに、抱きしめてくるという暴挙に出たA氏。

それでも、悲鳴を上げるという選択肢が頭になかったのは、1階まで声が届くかどうかわからないというだけでなく、A氏との取引のことがまだ頭の片隅にあったことは否めません。

部下や新入社員、そして筆者のように取引きしてもらう側など弱い立場にある人間は、セクハラ被害に遭っても簡単に声を上げられないことを実感しました。

そのとき、どう対処したか

「悲鳴をあげれば大騒ぎになる。でも、このキモいおやじにされるがままになるのだけは絶対にイヤ!」そう思った瞬間、自然とA氏の心理を分析し始めた自分がいました。そして、「うしろから抱きついてきたのは、後ろめたい気持ちがある」と踏み、できるだけ冷静に対処することにしたのです。

しばらく固まったままで反応のなかった筆者を、A氏はさらに強く抱きしめ、今度は頭をもたれかけながら、「松原さんがいとおしい…」と繰り返してきました。

そこで、「へぇ、そうなんですか。それはどうもありがとうございます。ところで、今日の打ち合わせの内容なんですけど…」と、できるだけ低い声でハッキリ聞こえるようゆっくりとした口調で言ったところ、A氏の腕の力がするすると緩んでいくのを感じたのです。

トボトボとうなだれた様子で目の前に座り、最初は下を向いていたA氏ですが、少し経つと何事もなかったようにこちらを見つめてきました。

まるで、こちらのほうが何か悪いことをしているような複雑な気持ちになりながらも、筆者もずっとA氏から目をそらさず、その日は打ち合わせを終えたのです。

A氏とのその後

打ち合わせを終えるときには、こちらからまた連絡することを告げました。ただ、今後はA氏と2人きりで会うのは危険だと考え、打ち合わせのときには従業員に事情を話して付き添ってもらう予定を立てていました。

…が、何度A氏に電話をかけても「ただいま電話に出ることができません」のまま。店舗に電話してスタッフに伝言しても、A氏から連絡をもらえることはなく、仕事の話もそのまま頓挫しました。

当時は、あれほどA氏との取引がなくなることを恐れていたものの、しばらくして振り返ってみるとたいした取引ではなく、むしろどうしてあんなに固執していたのか不思議です。

おわりに

セクハラ行為に遭った後、自分自身の言動、服装、ふるまいなど、自分自身に非があったのではないかと自分を責める日々が続きました。

周囲からすれば「ただ抱きつかれただけ」の行為ですが、「セクハラ対象とならない容姿にならなければ」という考えにとりつかれ、病的に暴飲暴食するようになってしまったのです。

今は落ち着きましたが、ちょっとしたセクハラでも被害者からすれば人間不信にもなりますし、トラウマになるものです。

自分自身が雇われている立場や部下の立場、取引をしてもらう側などの弱い立場のときにセクハラを受けると、どうしても声を上げづらいというのが実情です。けれど、自分の精神をすり減らしながら理不尽なセクハラを我慢していると、心身ともに大きなダメージを受け続けていくことになります。

安定した給料、今後の生活…。目先のことを考えると、理不尽なことにも「嫌だ」と言えないことも多い世の中ですが、後から考えてみれば自分を傷つけてまで我慢するほどのことではなかった、ということもあるでしょう。

もし今、セクハラで悩んでいる方がいたら、現在の生活や立場を守ることを最優先にしつつ、上層部にかけあったり弁護士に相談したり、さまざまな方法を模索してみてほしいと思います。