長崎市の長崎みなとメディカルセンターに勤務していた男性医師(当時33)が2014年12月に亡くなったのは過重労働が原因だとして、遺族が病院を運営する市立病院機構に約4億1000万円の損害賠償などを求めた訴訟で、病院側が過労死と認め約1億6700万円の賠償金を支払うことで和解した。和解は7月10日付。

病院側は、約1億6700万円を遺族に支払うよう命じた長崎地裁判決を不服として控訴していた。病院側は遺族に謝罪し、今後働き方改革のための特別委員会を設置する。

これまで過労死と認めて来なかった病院側だったが、4月に新しい理事長と病院長が就任し、対応が大きく変わったという。

7月10日に東京・霞が関厚労省記者クラブで会見を開いた医師ユニオンの植山直人代表は「意識の高い人が病院管理者になれば、これだけの変化が起きる。画期的な和解だ」と評価した。

●「異常な長時間労働が男性の死亡の原因であることは明らか」

訴状などによると、男性は2014年4月から、長崎みなとメディカルセンターで心臓血管内科医として勤務。12月に自宅で心肺停止状態で発見され、亡くなった。発症前1カ月の時間外労働は159時間で、亡くなるまでの半年間の月平均残業時間は約177時間だった。7月末から10月中旬には84日連続で働いていた。

和解合意書で、病院側は「事件を精査したところ、異常な長時間労働が男性の死亡の原因であることは明らかであり、過労死として取り扱うべきと判断した。その上で、率直な謝罪を行うべきと結論した」と和解申し入れに至った経緯を記載し、遺族に謝罪した。

和解内容は記者会見を開いて説明し、HPには会見での公表内容を遺族のコメントと共に掲載。今後働き方改革のための特別委員会を設置し、遺族に対し取り組みや成果について年次報告するとした。

●「人の考えが変われば、組織も変わることを証明して」

男性の妻は文書でコメントを発表。「病院が主人の仕事を認めて敬意をはらい、遺族に少しでも寄り添う姿勢をみせていたら私は民事訴訟までおこしていませんでした。やっと主人のことを認めてもらえることが何より嬉しかったです」と以前の病院側の対応を振り返った。

今後については「病院は和解をしたことですべてが解決したと思わないでほしいです。人の考えが変われば、組織も変わることを証明してください」と労働環境の改善を求めた。

裁判を支援してきた植山直人代表は「今までに例がないほど、病院側としては誠意ある対応を取っている」と評価。

「私たちが和解時に求める事実認定や遺族への謝罪、損害賠償、再発防止、過労死事実の公表などの条項がすべて盛り込まれており、今後病院で過労死がおきた場合、この和解合意書と比べられることになるだろう」と話した。

病院側は和解合意書で「事件を真摯に向き合い反省の意を内外に示すことによってこそ、就労環境の改革に大きく歩を踏み出すことができる」と記載している。

過労死遺族の中原のり子さんは「トップが変わることがすごく大切。変えられないトップはすぐに交代していただきたい。今回のように誠意ある和解合意書を出していただくのが基本だと思う」と話した。

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