地場産品ではない食料品やAmazonギフト券といった豪華な返礼品で、多額のふるさと納税を全国からかき集めた泉佐野市。2019年にふるさと納税の対象自治体から外され、国を提訴する事態となりました。そして最終的には何と泉佐野市最高裁で勝訴する結果となっています。

かつて財政健全化団体に転落した苦い経験もある泉佐野市は”果敢に戦う”自治体であり、国を相手の争いでは関空橋の通行税新設に続き2連勝となりました。

ふるさと納税裁判、泉佐野市が最高裁で勝訴

地元の特産品ではない食品やAmazonギフト券を返礼品にして注目を浴びた泉佐野市は、2018年度のふるさと納税で全国トップの497億円を集めています。2位は静岡県小山町の250億円ですから、ダントツの1位だったわけです。

しかし、返礼品をめぐる自治体間の競争過熱を問題視した総務省は、2019年6月の法改正で「事前審査制度」を導入。総務省の基準に従わない自治体はふるさと納税制度から除外するという措置をとり、泉佐野市など4市町が除外されました。

それに対し、泉佐野市は「総務省は実質的に法的規制を過去にさかのぼって適用しており、裁量権を逸脱・乱用している」と主張して提訴。国と人口約10万人の大阪の地方都市が争う異例の裁判は最高裁までもつれ込みました。その結果は何と泉佐野市勝訴となり、泉佐野市ふるさと納税制度に復帰することが決定しています。

ただし最高裁では補足意見として、ふるさと納税の返礼品としてのAmazonギフト券の交付については、社会通念上の節度を欠いているとクギを刺しています。

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国相手のケンカに強い? 関空橋を巡る争いでも主張を通す

泉佐野市は大阪南部にある人口約10万人の地方都市です。名前を聞いてもあまりピンとこないかもしれませんが、関西国際空港(関空)の対岸にある自治体と言えば、地理的なイメージが湧くでしょう。

その泉佐野市は国とのケンカに強い自治体として、今回改めて名を知られることになりましたが、同市はかつて関空橋を巡る国との争いでも主張を押し通しています。

関空と泉佐野市を結ぶ関西国際空港連絡橋(関空橋)は、もともと関西国際空港会社が所有していましたが、2009年に国有化されています。国有化に伴い、関空橋からの固定資産税の減少に直面した泉佐野市は関空橋の利用税新設を計画。

当初は国が難色を示し実現困難と思われていた利用税ですが、関空橋の出入り口を人質に取っている泉佐野市に強く反対できず、2012年4月に川端総務相(当時)が利用税の導入に同意。そして、2013年3月30日から徴収が始まり、2018年3月30日に5年間期間延長となって現在に至っています。

財政的に地獄を見た泉佐野市

ただし泉佐野市も、懐事情を考えると強気に出ざるを得ない理由があったのです。

関空開設の際、関空の対岸で“りんくうタウン”と名付けられた都市開発が行われました。りんくうタウンは当初こそ大手企業の進出もありましたが、その後は撤退が相次ぎ開発を主導した大阪府第三セクターは2005年に経営破綻しています。

泉佐野市はりんくうタウンの開発に相当額を投じた結果、財政状態が大幅に悪化し、平成20年度(2008年度)決算で財政健全化団体に転落しました(財政健全化団体としては北海道夕張市が知られています)。

その後財政再建に取り組み、平成25年度(2013年度)決算で財政健全化団体からの脱却を果たしています。上述のように、関空橋利用税の徴収開始は2013年3月であり、利用税は同市の財政再建に一役買う形となっています。

ちなみに、泉佐野市は2012年3月に市の名前の命名権(ネーミングライツ)を売り出したことでも話題になりました。結果的に市の命名権への応募はありませんでしたが、市施設のネーミングライツは地元企業を巻き込む形で複数採用されています。

このように、財政健全化団体への転落経験からくる危機感が、”節度を欠く”と最高裁に言わせるほどの寄付金集めを行った原動力になったのではないでしょうか。

おわりに

泉佐野市ふるさと納税を巡る裁判だけではなく、関空橋の利用税を巡っても自説を国に対し押し通しており、国を相手にした争いで連勝している国内でも希有な自治体です。

ただし、ふるさと納税裁判は勝訴したものの、返戻品については「やりすぎ」という批判も受けています。泉佐野市ふるさと納税制度への復帰後、どのような返礼品を用意するのか、その判断が注目されます。

【参考資料】
ふるさと納税の寄付額、最高5127億円 泉佐野がトップ」(日本経済新聞、2019年8月2日付)
2005年(平成17年)4月度こうして倒産した・・・」(東京商工リサーチ)
大阪府泉佐野市:財政健全化団体からの脱却」(月刊『地方財務』2015年5月号掲載、キヤノングローバル戦略研究所 主任研究員・税理士 柏木恵)