1990(平成2)年の調達開始以来、約30年にわたって導入されている、そんな支援車両が陸上自衛隊にあります。戦闘でも災害派遣でも使えるロングセラーの陸上自衛隊装備について見てみます。

使いやすいサイズと汎用性を兼ね備えた陸自車両

2020年7月上旬、梅雨前線がもたらす大雨によって、日本各地で水害が発生しました。被災地では水が引いたあとに、がれきや土砂の撤去作業が行われていますが、そのなかにトラックのようなコンバインのような不思議な車両を見かけることがあります。

軽トラックのような荷台を備えながら、足回りはパワーショベルブルドーザーなどと同じ履帯、いわゆるキャタピラ式で、外観は戦車などとおなじく濃緑色や、迷彩塗装が施されているこの車両、名前は「資材運搬車」といい、陸上自衛隊が保有しています。

車体サイズは普通乗用車と同程度のため、油圧ショベルブルドーザーなどと比べると小さく、記念行事などで行進する姿は戦車や装甲車などと比較して可愛らしく見えるほどですが、この小ささが資材運搬車のポイントでもあります。

全長4.3m、全幅約2.1mの寸法は、大型トラックの荷台に乗るサイズです。これにより、ほかの大型重機のように運搬用トレーラーを用意する必要がなく、大型トラックで運ぶことが可能です。普通乗用車と同程度の大きさなので、大型トラックや油圧ショベルなどが入れない隘路も進むことができ、さらに狭小地でも活動できます。市街地や山間地でも活動できるのは災害派遣などでは有用です。

他方で、優れた多用途性も兼ね備えています。積載量約3トンの荷台は、ダンプトラックのように油圧シリンダーで後方に傾けることができ、車体中央に備えた吊り上げ能力約2トンのクレーンと合わせて使うことで、人力で運べない重量物でも、自力で撤去から運搬、廃棄まで行えます。

キャタピラゆえ「ハリボテ戦車」にも変身

資材運搬車は、陸上自衛隊においてすでに四半世紀以上にわたって調達が続いていますが、そのベースは市販されている民生用重機です。

もとになったのは株式会社諸岡が生産する「不整地運搬車」です。「キャリアダンプ」とも呼ばれるこの車両は、運転のしやすさと整備性の高さから、市井の道路工事現場や建築現場でも使われるベストセラー建機です。

資材運搬車は、乗車人数を2人に増やし、クレーンを取り付けるなど独自の改良を施しているものの、基本構造はそのままです。市販の重機がベースのため、価格も安く、安定した大量調達ができたのでしょう。

こうした特徴を持つ資材運搬車は全国の部隊に広く配備され、扱いやすいサイズと優れた多用途性から、災害派遣だけでなく、ときにはボディを真っ白く塗って、PKO活動などの国際貢献任務でも使われています。

なお、足回りがキャタピラなため、記念行事ではハリボテの「敵戦車」に姿を変えることも。そういう用途も含めて、陸上自衛隊の支援車両のなかでは屈指の汎用性を誇っているといえるでしょう。

2011年の東日本大震災で、がれき除去に用いられる資材運搬車(画像:陸上自衛隊)。