もはや国民食であるラーメン。その店舗数は3万軒にのぼるとも言われていて、現代では「使われていない食材はない」とまでされるほど裾野は広がっている。その中で、味やサービスで差別化を図るのは当然だが、「店名」で差別化をはかっている店もある。そうした店名の裏には、どんな思いがあるのだろう。店主に話を聞いてみた。

ラーメンの街さっぽろで個性を放つ“ポエム”な店名

 日本三大ラーメン地のひとつでもある札幌で、個性を光らせ人気を呼んでいる「雨は、やさしく」。文学的で古い映画のような印象のある店名だが、この店名について取材に答えてくれた専務取締役の高橋さんは「オーナーが家庭菜園をしているなかで、感じたことのようです。野菜は、天候によってダメになったりしますが、その時に雨に対して感じたことですね」と教えてくれた。

 この店名で困ったことは「ラーメン屋だってことも書いてないので、開店当初はいろいろ大変だったみたいですね」と同氏。ただ、個性的ラーメン店として、札幌で名が轟(とどろ)くようになった現在では「この名前が、お客さんの印象に残ってくれているのでよかったです」と語る。

 そんな「雨は、やさしく」の看板メニューは白肝煮干(味噌)。まず、うず高く積まれた具材が目から楽しませてくれる。それらはラーメンには珍しいゴボウや大葉といった食材。その中心にあるのが鶏のレバーペーストで、動物系ではないあっさり系の煮干スープながら、このレバーペーストを少しづつ溶かして食べることで味が変化していくのが楽しめる。

◆「バカみたいに愛してた」。店名に意味はない?

 千葉県松戸市にある珍名ラーメン店は、これまたポエムな「バカみたいに愛してた」。この名前を聞いて、ケツメイシRYOJIが歌手TEEとのコラボで歌った曲を思い出す人もいるだろう。

 しかし、店名の由来についてオーナーの伊藤隆さんは「適当につけました。3つくらい候補を出して、その中から奥さんが選んだんですよ」と言う。なんと、ケツメイシとは全くの無関係だというのだ。ネタ元をバラすのが格好悪いからそう言っているだけかとも勘ぐったが、ボツになった候補も聞くと「宇宙がなんとかみたいな、いや、忘れちゃいましたね」と笑う。本当に適当につけたようだ。

 お客さんから「ケツメイシ、お好きなんですね」と言われて困惑したこともあったようだが、開店当初、店の前の道路が大きな工事をしているにもかかわらず「この店名のおかげで多くの人が足を止めてくれましたよ」と、利点が大きかったことを教えてくれた。



 珍しい店名で困ったことを聞くと「ラーメン好きの中では“変わった名前の店はマズい”という風潮があるらしくて、最初の3年くらいはお客さんが来ませんでした」とのこと。それでも今ではガッツリした二郎系のラーメンが若い人たちを中心に人気を呼んでいる。特に「豚入りラーメン」は小でも圧巻の量だ。なお、隣にも珍名ステーキ店「バカ愛2号店 歯ごたえあるあるステーキ」を出していたが、コロナの影響で現在は休業中とのこと。オーナーが出演するYouTubeチャンネルもあり、面白い取り組みをしているお店だ。

 ポエム店名は他にも、「俺の生きる道」(東京・文京区、旧店名は「夢を語れ」)、「世界が麺で満ちる時」(大阪市)、「ラーメン荘 地球規模で考えろ」(京都市他)など、各地にあるようだ。

◆業者も困る!?珍名ラーメン

 ラーメン激戦区のひとつ、中野。昨年秋、ここに異彩を放つラーメン店が誕生した。その名も「ただいま、変身中」。ポエムではないが変わった名前で、これだけでは何屋なのかさえサッパリ分からないが、この店名は総料理長の坂さんがフランス料理出身であることに由来する。

 坂さんは「ラーメンフランス料理にガラッと変身させたい」と語る。たしかに同店の看板メニューである「牡蠣ラーメン」は、クリームソースのような白いスープに、バケットが乗った見た目もラーメンの域を超えている。味もフレンチのノウハウが詰まっており、かえしにまで牡蠣のエキスを濃縮させて使った濃厚な味わい。

 たしかに、従来のラーメンから変身を遂げている。しかしなぜ「変身“中”」なのだろう。この点について坂さんは「決まった形にこだわらず、状況に合わせて味付けや麺を変化させている」という。常に高みを求める姿勢が、店名に込められているのだ。しかし、開業時にあったこんなエピソードも教えてくれた。「丼などを発注するときに、店名を聞かれて『ただいま、変身中です』というと、『じゃあ、お店の名前が決まってから連絡してくださいね』っていう業者さんとのやりとりが結構ありました(笑)」。

◆普通っぽい名前にも込められた想いが

 珍名であれば、名前に強い意志があるのは透けて見える。一方で、普通っぽいが解読できない店名にはどんな思いが込められているのだろう。高円寺に店を構える「じゃぐら」の千代田英司さんに話を聞いた。

「“じゃぐら”って言うのは、曲芸師やピエロのことなんですけど、彼らって大変な芸をしているのに、顔ではいつも楽しそうにしてますよね。だから俺らも、どんなに仕事が辛くてもお客様を喜ばせようと思って」とのこと。



 ラーメン屋の仕事で辛い部分については「うちは、10時スープを炊き続けるんですよ。重い棒で豚骨をずっと叩き続けないといけない。特に夏なんかは、暑さでさらに本当の地獄ですね」と語ってくれた。

 またこの名前にしてよかったこととして「スロットの“ジャグラー”を作っている北電子さんから正式なコラボオファーが来て、全国のパチンコ屋さんにラーメンを置けたりしました」と、店名が大きな仕事を呼ぶケースもあるようだ。終わりに同氏は「ピエロ云々は表向きの由来で、裏の理由はスロットジャグラーが好きなんです(笑)」と、こっそり教えてくれた。辛い思いで10時間炊いた濃厚な豚骨スープを味わいに言ってみてはいかがだろう。

 こうして見てみると、珍しい名前には思いを込めるにせよ込めないにせよ、それぞれの店のスタンスがしっかりと現れていることがわかった。ラーメンを味だけではなく店名まで楽しむのも、また一興かもしれない。<取材・文/Mr.tsubaking>

Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。

画像:「雨は、やさしく」facebook