皆さん、こんな経験をしたり、噂を聞いたりしたことはないですか?
「入院しても2週間で退院させられる」
「同じ診察で同じ薬を貰っているのに前と値段が違う」
「看護師さんがとても忙しそう」
実は、すべて「診療報酬制度」という仕組みのせいなのです。日頃、病院の領収書や明細書を細かくチェックする人は少ないかもしれませんが、私たちが支払う医療費もこの診療報酬制度が決めています。今日はそんな診療報酬制度について解説しながら、医療現場の現状との関係についても触れていきたいと思います。
診療報酬制度とは?
「診療報酬」とは、簡単に説明すると医療機関や薬局が受け取る報酬です。国民が平等に医療を受けるために、保険適用される治療や医薬品の値段(病院や薬局の報酬)は国によって決められています。
診療報酬制度では、治療・診察・投薬などの項目が点数で表されており、1点の単価は10円となっています。私たちは診療報酬制度で決められた医療費の一部(1~3割)を支払い、医療機関側は残りの7~9割の報酬を保険者(保険協会や市区町村)から受け取ります。
「2週間で退院させられてしまう」理由
わたしたちの入院費用を決めているのも診療報酬制度です。ここで少し厄介なのが、「入院費用が入院している期間により変わってしまう」ことです。
高齢社会を迎え、医療費の増大は深刻な問題です。さらに、他の先進国に比べて日本の平均入院日数は長いという現状があります。そこで国は、医療費削減のためにも入院日数をできるだけ減らそうとしたわけです。在宅での医療や介護が推し進められているのも、こうした医療費の問題があります。
そんな背景から「入院日数が短いうちはボーナスポイントをあげよう!」と一般の病床では、入院日数が14日以内であれば450点、15~30日以内であれば192点加算されるようになりました。
ボーナスポイントといえば聞こえが良いですが、実際は入院日数が長引けば病院の儲けが少なくなってしまう、それを避けるためにも病院側は「2週間や1カ月で退院させなければ…」となってしまうわけです。
似たようなケースで、「3カ月以内に退院・転院してください」と言われた経験がある人はいませんか?この背景にも診療報酬制度のカラクリがあります。入院後90日を超えると、一般病棟の入院患者であっても、看護師などの配置人数が少ない療養病棟の診療報酬となってしまい、病院にとっては利益になりにくいからなのです。
「同じ薬なのに値段が違う」のはどうして?
こちらは、薬などを処方する際の薬剤の管理料や指導料を月に1回(や3カ月に1回)請求することが診療報酬制度により決められているからです。
薬局でお薬手帳を持っていけばお得になると聞いたことないですか?これも、「薬剤服用歴管理指導料」という項目によるもので、その点数の内訳は以下のようになっています。
つまり、お薬手帳を持参すると14点分140円お得になるのです。
「看護師さんが超多忙!の理由」も関係大
看護師をしている筆者が、診療報酬制度でとても不都合に感じている点があります。それは、看護師だけでなく医療スタッフの人員配置数も診療報酬制度で決められているということです。厳密に定員を決められているわけではないのですが、入院日数の長さによって入院料が変わるように、人員の配置数により報酬が変わってしまうのです。
分かりやすい例を出すと、看護師1人が7人の患者さんを受け持つ体制を「7対1看護」といいます。他にも「10対1看護」などがありますが、一番診療報酬が高いのが「7対1看護」となっています。そのため、「手厚く看護をしよう」「看護師の負担を減らそう」と、看護師の配置を増やし5対1看護をしたとしても、診療報酬は7対1看護の分しか貰えないのです。
こんな背景があり、看護師の増員は難しく、現場の負担は減ることがない状態に・・・。
まとめ
「入院しても2週間で退院させられる」「看護師さんが忙しそう」などの事情も、診療報酬制度の仕業だったんですね。高齢化が進み医療費が膨れ上がるなか、入院し続けたい患者さんの気持ちと懐具合、そして医療従事者にかかる負担、それぞれが難しいバランスの上に成り立っています。
診療報酬制度は定期的に改訂されています。コロナ禍で財政難となっている病院も少なくないなか、次回の改訂はどうなるかも気になりますね。
「医療従事者たちへ手厚い保障はしてほしいけど、医療費が高くなっても困る」と考えるのは自然なことです。これを機会に、ご自身の医療費明細をチェックされる際、診療報酬制度について少し気にかけておくのはアリかもしれませんよ。
【参考】
「医療費の仕組み」全日本病院協会
「令和2年度診療報酬改定について」厚生労働省
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