大量硬貨取扱手数料導入

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かつては生活に密着し、親近感があった銀行

私たちの生活に密着している金融機関で、まず真っ先に思い浮かべるのが銀行でしょう。主に郵便局信用金庫を利用している人も少なくないと思いますが、支店の店舗数やATMの設置台数などから見ても、銀行の利便性が高いことは確かです。

そして、この利便性の高さが銀行への親近感を高め、必然的に銀行への預入資金量が増大し、銀行そのものが大規模化してきました。それでも、銀行の取り扱うビジネスが右肩上がりの時は全く問題ではなかったと思われます。

むしろ、従前は取り扱っていなかった領域(証券業や保険業など)への進出のために人手不足となったことで、長年にわたって大量の新卒採用や中途採用を行ってきました。

メガバンクですら大規模リストラに踏み切る

しかしながら、平成の約30年間において、銀行を取り巻く環境が大きく変化してきたのはご存知の通りです。最大の収益源であった事業会社への貸付ビジネスは大幅に減少し、一連の低金利政策(日銀が導入したマイナス金利含む)によって収益力低下を余儀なくされました。

慌てて個人向けの貸付を拡大した結果、スルガ銀行の「シェアハウス事件」に代表される過剰不正融資が相次ぎ、金融庁からの規制強化を受けて縮小を強いられています。

これにネットバンキングの普及とAI(人工知能)の進化が追い打ちをかけた結果、銀行は資産(店舗やATM台数)でも人員面でも余剰感が急激に増しており、メガバンクですら中期的な大規模リストラに踏み切っています。また、地方銀行はさらに厳しい状況に追い込まれているのが実情です。

若年層の銀行を見る目は年々厳しくなるばかり

こうした銀行業界を見る若者の目は厳しそうです。今年は、コロナ禍で例年とは様変わりした就職活動ですが、いくつかの就活人気企業ランキングを見ると、その上位に銀行の名前を見ることはほとんどできません。

「昭和」はもちろんのこと、「平成」という時代が始まって10年間くらいまでは、上位10社のうち半分が銀行(主に当時の都市銀行)だったことも珍しくありませんでした。

現在は、銀行もリストラの一環で新卒採用を大きく絞り込んでいることに加え、学生側も銀行の将来性の低下を敏感に感じ取っているものと思われます。少なくとも、銀行が花形企業でなくなったことは間違いないようです。

銀行に求められるのは初心に帰った地域社会への密接なサービスだが…

こうした状況で「もう(従来の)銀行なんか不要だ」という意見が、とりわけ、若年世代を中心に増大してきました。背景には、ネットバンキングの普及や、いわゆるキャッシュレス時代の到来もあるのでしょう。

しかしながら、こんな状況に陥っても、銀行が社会経済活動に一定の大きな役割を果たしていることは事実であり、即座に別の何かに取って代わられるものではないと考えられます。

銀行が今後取るべき行動は、大企業向けサービスの強化ではなく、個人・中小企業や地域社会に対して密接なサービスを行い、初心に帰ることではないでしょうか。ネットが普及しても、初めて接する金融機関が銀行となるケースは今後も続く可能性が高いと思われます。

4月1日から導入された「大量硬貨取扱手数料」

ところが、今年4月1日から、こうした原点回帰とは真逆とも言えるような手数料が一斉に開始されました。

それは、「大量硬貨取扱手数料」です(注:銀行によって呼称が違う場合あり)。コロナ禍のピーク時に開始されたため、あまり大々的には報道されなかったようですから、ご存知でない方もいるかもしれません。

これは、ザックリ言うと、大量の硬貨を受け入れる際に(硬貨を数える)手数料を徴収するというものです。対象は現金入金と現金振り込みで、ATM取引は対象外。4月1日以降、どの銀行もほぼ一律で以下のようになっています。

  • ~100枚まで:無料

  • 101~500枚:550円

  • 501~1,000枚:1,100円

  • 1,001枚~:1,650円、以降500枚ごとに550円を加算

注:金額は消費税込み

銀行は、手を変え品を変え様々な手数料を設定していますから、これも別に驚くようなものではないかもしれません。しかし、この手数料は、子供たちの貯金に対するモチベーションを削ぐと言ったら、言い過ぎでしょうか。

銀行の貯金箱に小銭を貯めるのは過去の遺物?

筆者が子供だった昭和の時代、銀行は口座開設や新規預金の際、“景品”として貯金箱を配布したものでした。

特に、キャラクター型の貯金箱は子供たちに人気で、それにコツコツと小銭を貯金して、一杯になると銀行に預けに行くというパターンだったような気がします。経験のある方も多いのではないでしょうか?

そこで物心がつき始めた子供と銀行に、初めての接点が生まれたものでした。しかし、今回開始となった「大量硬貨取扱手数料」は、100枚まで無料とはいえ、子供たちがコツコツと貯めた貯金から手数料を徴収するということです。

しかも、窓口の銀行員が数えるのではなく、どうせ機械で数えているにもかかわらずです。

銀行と地域社会とのギャップは広がるばかり

こう書くと、“ATMで預入すれば無料だからいいじゃないか”、“今時の子供は小銭なんか貯めないよ”という意見があるでしょう。確かに、そうかもしれません。しかし、原点回帰で個人顧客との繋がりが求められている銀行が、ここまで手数料に固執する必要があるのか疑問が残ります。

銀行からもらった貯金箱に一生懸命貯めた小銭を、窓口で預けた時の湧き上がる感動はもう遠い昔の話なのでしょうか。私たちの生活に密着した金融機関には遠く及ばないと感じずにはいられません。