「職住近接」を目指し、京阪奈にまたがるエリアで整備が進む学研都市は、鉄道の新規建設計画がいくつかあります。既存の近鉄けいはんな線延伸のほか、北陸新幹線リニア中央新幹線の新駅など、誘致合戦も見られます。

北陸新幹線は京都から南回りに 新駅「松井山手」はどんなところ?

京都、大阪、奈良の3府県にまたがる関西文化学術研究都市学研都市)は、1987(昭和62)年に施行された関西文化学術研究都市建設促進法に基づき、整備が進められている国家プロジェクトです。関東では「つくばみらい学術研究都市」がありますが、学研都市は学術研究施設や大学教育機関、公共施設、住宅施設などを一体的に整備することを目的として動いており、2020年4月1日の時点で学研都市区域内は人口25万の規模となっています。

現行の鉄道線としては、JR学研都市線片町線)をはじめ近鉄京都線けいはんな線があります。しかし学研都市中心部への鉄道網は未達な部分が多くあり、学研都市が本来目指す「職住近接」の構図よりも、大阪、京都中心部のベッドタウンとしての役割が強くなっています。そんな学研都市には2020年現在も、新線、新駅計画がいくつか存在していますが、それはどのようなものでしょうか。おもなものを見ていきます。

2046年ごろに新大阪駅までの延伸開業を目指す北陸新幹線は、計画前倒しの話も挙がっています。2017年には「南回り」ルートが決定し、途中の新駅は京都府京田辺市の松井山手に内定しました。

ここは学研都市北部に位置し、近年は新興住宅地として注目されています。正確には、学研都市として定められているエリアからはやや外れますが、北陸新幹線のルート決定が将来の学研都市に大きな影響を与えることに間違いありません。

京阪が関わる松井山手 近鉄が関わる学研奈良登美ヶ丘

松井山手は人気急上昇のエリアです。JR学研都市線の駅には快速が停車し、大阪の中心部まで約35分と、アクセスも良好です。

同駅周辺はマンションやホテルなども建ち並びますが、実はこのエリアの仕掛け人は、沿線外の京阪グループなのです。もともと同駅は、「京阪東ローズタウン」の開発に際しての京阪からの請願駅でした。

2020年現在も宅地開発は進められており、京阪の主要駅である大阪府内の樟葉駅までの直通バス、さらには京都駅関西空港までの直行バスが走るなど、沿線ではないものの、京阪が力を入れているエリアです。そんな松井山手に新幹線駅が建設されれば、学研都市でもより存在感が増してくるものと考えられます。

しかし、JR学研都市線の松井山手~木津間がいまだに単線なので、学研都市の主要エリアに近い祝園駅(京都府精華町)方面へのアプローチを充実させるには、複線化も必要となるでしょう。

学研都市南部に位置する学研奈良登美ヶ丘を見てみます。2006(平成18)年にけいはんな線の生駒~学研奈良登美ヶ丘間が開業し、現在は大阪メトロとの相互直通運転により、中央線を経由して大阪市中心部と直結。こちらは近鉄不動産によって、2020年現在も開発が進められています。

そんな学研奈良登美ヶ丘駅の終端を見ると、線路が先に延びようとする形で止まっているのがわかります。延伸計画がありますが、実はふたつのエリアで誘致を争っています。

近鉄けいはんな線の延伸先 新祝園vs高の原

ひとつ目は高の原(奈良県奈良市)です。こちらは「平城ニュータウン」の中心駅でもあり、近鉄京都線の一部の特急列車が停車。近隣には大きなショピングモールもあるなどにぎわいを見せています。

ふたつ目は新祝園(しんほうその、京都府精華町)です。同じく京都線の急行停車駅であることに加えて、先述のように学研都市線の祝園駅も隣接しているので、延伸した暁には各線との乗り換えの利便性も期待できます。しかし新祝園駅周辺は高の原駅に比べて閑散としており、また建設費用面も高の原ルートの方が延伸距離が短いため、奈良市街地へのアプローチも考えれば、現状では高の原駅が優位に思えます。

ただ、そもそも路線名が「けいはんな(京阪奈)」なのに路線が京都府内を通っていないことも不思議です。精華町は2019年に新祝園駅への延伸要望を決議し、誘致の声を強くしています。

現状で鉄道網がない学研都市中心部へのアクセス、さらには先述の北陸新幹線松井山手駅が実現すれば、祝園駅と新祝園駅を結節点としても一貫性が出るでしょう。2024年度には大阪万博に合わせ、直通する大阪メトロ中央線の延伸も決まっており、けいはんな線の存在感がより増すなかで、どちらに決定するのかも注目です。

リニア中央新幹線の新駅「奈良市附近」 今後もインパクトを持つ学研都市

2027年の開業を目指して東京~名古屋間の建設が進むリニア中央新幹線は、2040年には名古屋新大阪間の延伸も計画されています。

中央新幹線は現在、「1県1駅」を基本として計画されており、その新駅の場所も注目されています。候補である「奈良市附近」には、奈良市以外の大和郡山市生駒市といった近隣の自治体も名乗りを上げていますが、京都府知事は京都もそれに含まれると言及。同じ学研都市エリアで、京都府奈良県けいはんな線に続き、こちらも誘致合戦となっています。当然、リニア新駅が学研都市エリアに建設されれば、さらなる発展につながるでしょう。

ただ、これらはあくまで計画で、人口減少の影響を受けてこのまま利用客が増えないと見込まれれば、新線、新駅計画自体が頓挫することもあります。実際、学研都市は計画人口を下回っています。

とはいえ新駅計画が実現すれば、関西エリアにとって学研都市の重要性がさらに増してくるはずです。たとえば、街と鉄道を一体的に整備したつくばエクスプレスにおいて、路線開業後に沿線人口が増加した例を見るに、学研都市の鉄道新線計画が大きなインパクトを与えることは間違いないでしょう。近い将来、新たな可能性を感じさせる学研都市エリアの今後の動きに目が離せません。

近鉄けいはんな線の7000系電車。大阪メトロ中央線に乗り入れる(画像:写真AC)。