蚊に悩まされる季節になりました。蚊取り線香や虫よけスプレーで対策をする人も多いと思いますが、人と一緒に暮らす犬や猫も蚊に刺されることがあるのでしょうか。また、刺されると人間のようにかゆみを感じたり、刺された場所をかいてしまったりするのでしょうか。獣医師の増田国充さんに聞きました。

フィラリア症で循環不全も

Q.犬も蚊に刺されることがあるのでしょうか。刺されるとかゆみを感じたり、刺された場所をかいたりするのですか。

増田さん「犬も蚊に刺されます。日本では、アカイエカ、トウゴウヤブカ、ヒトスジシマカといった蚊が多く存在しますが、これらは犬の血も吸います。

人間は蚊に刺されるとかゆみを感じますが、これは吸血する際、血液凝固を抑制する物質を蚊が注入し、その物質がかゆみを生む原因となっています。蚊が吸血するメカニズムは犬でも同様のため、犬もかゆみを感じると考えられています。しかし、人間ほどには強いかゆみは感じないようで、頻繁に皮膚をかくことは少ないようです。

ただし、犬によっては蚊の吸血に対して強いアレルギーが発生する場合があります」

Q.蚊に刺されたことによって病気になることがあるのでしょうか。

増田さん「蚊が関連する疾患の代表として、『犬糸状虫(いぬしじょうちゅう)症(フィラリア症)』があります。

蚊が『犬糸状虫』という寄生虫にすでに寄生を許している犬の血を吸うと、蚊の体内に犬糸状虫の幼虫が入り、その蚊が他の犬を吸血すると、その幼虫が犬に寄生します。幼虫は皮膚から血管に入り込んで数カ月かけて育ち、最終的に心臓や肺動脈に成虫が寄生します。

犬はこの虫に寄生されると、血液循環が悪くなる『循環不全』や、腹水がたまるといった症状が出ます。治療をしても寄生される前と同じ状態には戻らないので、とにかく寄生させないための予防が重要です。

犬用のフィラリア予防薬がありますが、これは蚊に刺されることを予防する薬ではなく、蚊に刺された際、体内に侵入した幼虫を若いうちに駆除するものです。適切な時期に適切な用量の薬を使って、犬糸状虫症にならないよう気を配ってあげましょう」

Q.刺されやすい犬のタイプや生活環境はありますか。

増田さん「人間の場合、蚊に刺されやすい要素といわれているものは、二酸化炭素の排出量の多さや体温の高さ、発汗量の多さなどがあるといわれます。

犬は人間と異なり、大量の汗をかける部分は限られていますが、皮膚呼吸はしているので二酸化炭素を排出しており、二酸化炭素の排出が多ければ、それに合わせて蚊が寄ってくることが考えられます。なお、犬種による差異はあまりないと考えられています。

屋外にいる時間が長いほど、蚊に刺されやすくなるほか、水辺や草木の多い場所には蚊が多く存在するので、そのような場所が散歩コースに含まれると刺されやすくなるでしょう」

Q.蚊に刺されないための対策は。人間用の蚊取り線香や虫よけスプレーは使えるのでしょうか。

増田さん「人間用の蚊よけとして、昔から蚊取り線香が使われてきました。蚊取り線香の中には、ピレスロイドといわれる殺虫成分が含まれています。人間や犬にとって、ピレスロイドは強い有毒成分ではありませんが、ごくまれに蚊取り線香アレルギー反応を生じるケースがあります。その場合は使用を控える必要があります。

一般の虫よけスプレーは人間に使用することを目的としており、犬に直接スプレーすることを想定していません。近年は動物用の虫よけスプレーが販売されており、自然由来のハーブを主体とした成分で安心して使えるよう考慮されています」

猫は激しい毛づくろいも…

Q.猫についてもお聞きします。猫も蚊に刺されることがあるのでしょうか。

増田さん「猫も蚊に刺されることがありますが、人間のように、皮膚が赤くなってかゆみを伴う状態になることはあまりありません。かゆみが発生するメカニズムは人間や犬と同じで、かゆみが全く発生しないわけではないのですが、人間ほどかゆみを強く感じにくいと考えられています。

猫においても、蚊の吸血に対して強いアレルギーが発生する場合があります。かゆみが強いと、蚊に刺された部分を引っかく行為が見られるほか、皮膚がただれるほど毛づくろいをすることがあります」

Q.蚊に刺されたことによって、病気になることはありますか。

増田さん「猫も犬と同様、フィラリア症にかかる可能性があります。犬の場合は、犬糸状虫症(フィラリア症)に対する認知度が高いため、予防率が高いのですが、猫のフィラリア症はあまり知られていないためか、予防をしている飼い主は少ないです。

猫のフィラリア症は、せきやぜんそくに似た症状がみられます。診断が犬よりも難しく、呼吸器系の他の病気との判別が難しいなど、猫独特の問題があります。基本的には、予防が最も重要です。猫用のノミ駆除剤の一部にフィラリアを予防できるものがあるので、それらを活用するのがおすすめです」

Q.蚊に刺されやすい猫のタイプや生活環境はありますか。

増田さん「こちらも犬と同様、猫の品種によって明確な差があるわけではないようです。また、被毛の長さが蚊に刺されやすくなる要因になることもないと考えられています。生活環境については、例えば完全室内飼育と比べ、頻繁に屋外に出る猫は蚊に刺されることが多いことは考えられます」

Q.蚊に刺されないための対策を教えてください。

増田さん「基本的な注意点は、犬と一緒と考えてよいでしょう。蚊取り線香に強い毒性があるわけではありませんが、使用して不調をきたすようなら使用を控えた方がよいです。体調に問題がない場合でも、猫が頻繁に行き来する場に蚊取り線香を置くことは、やけどや火のトラブルに発展する可能性がありますので、管理には十分注意が必要です。

虫よけスプレーは犬と同様、ペット用のものを使用しましょう」

オトナンサー編集部

犬や猫も蚊に刺される?