「(藤春廣輝のクロスを受けて)最初はトラップしてから打とうと思ったんですけど、DFも必死にコース消しに来たので、右に持って行きながら自分でシュートコースを見つけて。あとはしっかり逆サイドに打てたのが良かったと思います。右に(井手口)陽介が待っていたけど、『自分が』と。途中から出たからには『自分が決めてやる』っていう思いはありましたし、ペナルティーエリアの中だったので、自分で打って行こうと考えてました」

 新型コロナウイルス感染症による中断を経て、ようやく有観客試合が戻ってきた7月12日の静岡・IAIスタジアム。清水エスパルスガンバ大阪戦は拮抗した展開で1-1のまま終盤を迎えていた。

 試合が動いたのは89分。74分からピッチに立った33歳のベテランFW渡邉千真がチームに再開後初勝利をもたらす殊勲の決勝弾を叩き出したのだ。渡邉は8日に行われた前節の名古屋グランパス戦でも終了間際に値千金の同点ゴールを奪っていた。そして中3日で迎えたこの日もジョーカーとして目覚ましい働きを見せ、ガンバに漂っていた停滞感を打ち破ったのである。

チームには『試合を始める選手』と『試合を終わらせる選手がいる』という話をしている中で、(クローザーの)千真が点を取ってくれた。いいメッセージを残してくれたと思っている」と宮本恒靖監督も満足そうに語ったように、ガンバには短期間でも結果を出せる職人が何人かいる。40歳のJ1最多出場記録保持者・遠藤保仁はまさにその筆頭だが、渡邉千真も「ベテラン力」を遺憾なく発揮できる百戦錬磨の点取屋。その存在をチーム全体が心強く感じていることだろう。

 そもそも渡邉千真は国見高校時代から異彩を放っていたFWだ。高校3年生だった2004年には2005年ワールドユース(オランダ)出場権の懸かるAFCU-19選手権(マレーシア)に参戦。一つ年上の平山相太(現仙台大コーチ)と定位置争いを繰り広げるほどの逸材だった。早稲田大学を経由して横浜F・マリノスへ加入した分、同じ86年生まれの本田圭佑岡崎慎司長友佑都より表舞台に出るのは遅れたものの、若手だけで挑んだ2010年1月の2011年アジアカップ最終予選・イエメン戦(サヌア)で国際Aマッチデビュー日本代表定着への期待も大いに高まった。

 しかし、2010年木村和司監督が横浜FMの指揮官に就任すると出番が減少。代表定着は叶わず、苦しい時間が続いた。心機一転、2012年に赴いたFC東京では、2013年J1で17ゴールと目覚ましい数字を残したものの、2014年には武藤嘉紀の台頭によって地位を脅かされてしまう。こうした逆境を跳ね返すべく、2015年にはヴィッセル神戸へ移籍。2年連続リーグ戦2ケタゴールマークする。とりわけネルシーニョ監督体制の2016年は大きな信頼を勝ち取り、安定したパフォーマンスを披露。クラブから年間MVP表彰を受けるなど、本人も大いに自信をつけた。

 このまま神戸で成功をつかむかと思われたが、ここでも監督交代を機に出番が減少。2018年夏にガンバに新天地を求めることになった。当時、J2降格危機に瀕していたガンバでは要所要所で貢献していたが、ファン・ウィジョやアデミウソンら外国人FWのサブ的な位置づけに甘んじる状況が続いた。数字的にも2018年が3点、2019年が2点と本来のポテンシャルから考えると到底満足できない数字だったに違いない。「ケガもあってコンディションが思うように上がらない」と語っていたこともあり、彼自身も30代の壁に苦しみつつあったのかもしれない。

 けれども、今季J1再開後は切れ味鋭い動きを取り戻している。清水戦でも前線でターゲットになるだけでなく、パトリックと息の合った連係を見せたり、自ら強引にドリブルでゴール前まで切れ込むなど、明らかプレーの幅が広がっている。得点シーンも前節はパトリックの落としに反応する形だったが、今回は相手DFと駆け引きしながら空いたコースに蹴り込むという難易度の高いシュートFC東京や神戸で2ケタ得点を挙げていた頃に戻ったような印象さえある。

「中断期間に特別なことはやっていないですけど、普段の練習からしっかり意識を高く取り組むことを心がけています。特に今年はコンディションが大事なのでそこには気を付けています。再開後はパトリックと後半から出ることが多いですけど、彼にロングボールが入った後のセカンドボールを狙ったり、2人でカウンターを成立させたりと、パトリックの特徴を生かしながら、自分も攻撃の幅を広げられたらいいと思いながらやってます」と渡邉は一つひとつの練習やプレーにこだわりを持ちながらピッチに立っている。

「得点以外のプレーを見て、特別に調子がいいとは感じないけど、やっぱり一発を持っているし、ペナ近くで持った時の雰囲気があるので、途中から出てこられるのは相手にとっても嫌だと思います。監督としても切り札として彼を置いておけるのは大きいでしょうね」とJリーガーの先輩でもある実兄・渡邉大剛(品川CC横浜)もジョーカーとしての存在価値に太鼓判を押している。頼もしい男が宇佐美貴史やアデミウソンとは違った色合いと攻撃の迫力をチームに与えているのは、特筆すべき点と言っていい。

 ただ、「先発で出たい気持ちがムチャクチャある」と語気を強めたように、本人はこのままサブに留まっているつもりはない。宮本監督も「今はパワーを持ったフィジカルが強く、ペナルティエリアの中で強さを発揮する千真とパトリックを途中から投入するケースが多い。ただ、それぞれ調子がいいので、この先の連戦でその順番が変わったり、パト・千真のスタメン、パト・アデがスタメンなど組み合わせを変えながら戦うことも考えられる。その都度、ベストな組み合わせを探していけたらいい」と近い将来、渡邉をスタメン起用する可能性を口にした。

 それが現実となった時、彼はどんな仕事をしてくれるのか。間もなく34歳になろうという経験豊富な大型FWには、持てる力のすべてを強く押し出し、ガンバ急浮上のけん引役になってほしいものである。

決勝ゴールを挙げた渡邉千真 [写真]=J.LEAGUE