都内近郊に声優を目指す若者たちが集まるシェアハウスがある。先月、鹿児島から上京したばかりの松元せろ里さんは声優を目指し、養成所に通っている1人だ。

「大体は声優さんだが、そういう声を使う仕事を目指す人が居住している。はじめて声優を目指して上京するという中で、心配、寂しいっていう部分もあった。同じ夢を目指して一緒にできるっていうのは、ここを選ぶ大きな理由になった」(松元せろ里さん)

・【映像】「女の子には賞味期限があるからって…」“9割が食べていけない”声優業界の現実

 声優を目指す人が集まる場所だけあって、全ての部屋に加湿器があったり、台本の読み合わせができるスペースがあったり、至れり尽くせりだ。松元さんは「明るい番組でも真面目な番組でもこなせるナレーター、声優になりたい。あと歌を歌って踊って、小さな子供からおじいちゃんおばあちゃんまで幅広くこなすことができるマルチな声優になりたい」と語る。

 声優と一言でいっても、アニメゲームキャラクターの声、映画やドラマ吹き替え、交通機関の車内アナウンスなど、活動は多岐にわたっている。ニュース番組『ABEMA Prime』でも榎本温子ナレーションを担当しており、アニメアフレコだけでなく、ナレーターも声優の仕事の1つだ。

 最近では顔を出してテレビに出たり、歌やダンスをはじめとしたアイドル的な活動を行うなど、声優の活躍の場も増えた。その影響もあってか、声優を目指す若者は30万人以上もいる。

 そこで『ABEMA Prime』では、声優志望者の現実に迫った。

 30万人以上に志望者が増えた結果、近年は「声優増えすぎ問題」が浮上。声優を紹介する『声優名鑑』に掲載されている人数はここ20年で4倍以上に増加した。しかし、現実には『声優名鑑』に載らない、売れていない声優は1万人以上いる。

 竹本和弘さん(34歳)も『声優名鑑』に載らない声優の1人だ。元々は自動車部品の製造業の会社員で、安定したサラリーマン生活を捨て、28歳で声優の道に足を踏み入れた。

「まずは事務所に入るため、事務所が経営している養成所に入った。3年間通ったが採用されなかった」

 養成所を経て、事務所に採用され、プロとして仕事をもらう。そんな王道とも言える声優への道が閉ざされた。フリーランスとして声優活動を始めるが、1年以上仕事がなく、アルバイト漬けの日々を送る。

 その後、竹本さんは自らホームページを作り、営業活動を続け、ようやく塾の教材VTRナレーションネット広告のセリフ読みなど月に2、3本の仕事が入ってくるようになったという。

 「どれくらいの金額でオファーが?」と聞くと、竹本さんは「5分くらいの動画で1万5000円~2万円の価格になる」と回答。月10万円以上稼ぐことは難しく、まだまだ声優1本で食べていけるには遠い状況だ。それでもなぜ声優を続けるのか。竹本さんは「声優として出たい番組や全国のテレビナレーションをしたいという夢があるからこそやっていける」と語る。

 夢を追い続ける人がいれば、一方で夢を諦めた人もいる。2月に投稿された「底辺声優の所感」というnote。そこには「声優を辞めた」「疲れた。疲れた。もう、疲れたのだ」「まるで大量生産の既製品を使い捨てるように、次から次へと若い能力を求めては乗り換える。これは搾取ではないだろうか」「私はいつしか『夢を追う人』から『夢に追われる人』になっていた」とつづられていた。

 このnoteが投稿されると、すぐに話題になり、90万PVを超えた。これを書いた今年1月に声優を辞めたみちるさん(24歳)は「私みたいな感じで辞めていく人はすごく多い。今後将来、私たちみたいに辞めていく人がいたら不安なんじゃないかなって。指針を示したくって文章という形で残そうと思って書いた」と語った。

 養成所を経て事務所に所属、20歳でデビューと、声優としての王道コースを歩んだみちるさん。それでも売れることは難しかった。

「容姿がかわいいとかかっこいいとかも求められる。『SNSのフォロワーが多い子の方がいいだろう』や『楽器ができる子がいいだろう』とか、役者としてのお芝居の力というよりは、付加価値というか。ただ頑張っているだけでは報われない、掴み取れないところにあると思う。(売れるのは)すごく大変」

 とは言え、みちるさんはまだ24歳。諦めてしまうには早すぎる気もするが、実はその年齢こそ、声優を辞めた要因の1つだった。

「女性の年齢に対してはすごく言われる。『女の子は賞味期限があるから』とか『年齢は1歳でも若い方がいい』とか。年齢制限があるオーディションも多い。それで『私はもうあのオーディションを受けられないからダメだ』とか『もう価値がない』って年齢で悩んで諦めてしまう人もいる」

■声優・岩田光央「声優は技術職」 職人として必要な要素とは?

 大人気職業となった一方で、9割の人が食べていけないと言われる声優の夢と現実アニメ声優が出演するネットラジオ局「音泉(おんせん)」創業者のやまけんさんはこう話す。

「他の芸能人さんと比べて特別つらいわけではない。単純に(声優業界が)目指したいと思う華やかな世界になったのは間違いない。すごいイージーに言うと、日本語がちゃんと喋れれば声優は目指せる。楽器が弾けなくたって、顔が悪くたって、声を出せばいい。そうすると、ハードルが低く見えてしまう。だから、みんながやってみたくなる。芸人さんと似ていると思う。面白いか面白くないかに答えはない。目指しやすいから目指す人が増えている感じ」

 アニメAKIRA』の金田役で知られる声優の岩田光央は、そのリアルを著書『声優道 死ぬまで「声」で食う極意』で書き、声優を目指す若者に警鐘を鳴らした。岩田は声優という職業についてこう話す。

「まず大前提として、みなさんに声優という職業がどういうものか伝えておきたい。声優というのは個人事業主。そして技術職でもある。どちらかという職人に近いというか、いわゆるスペシャリスト。広い意味で技術に特化した人が活躍できる場だということを認識していただきたい。やまけんさんが少し言ってくださったが、イメージ的に『声優はなりやすそうだな』と勘違いしやすい職種なのかな、というところが大前提としてある」

 EXITのりんたろー。は「声優さんの友達も多いけれど、キラキラした人たちばっかり見ていた。芸人と一緒でこういう世界があるんだということも(VTRで)知った」と厳しい現実に驚き。また同じくEXITの兼近大樹は「やっぱり飽和状態になっているのが芸人も一緒だなって思う。芸人に置き換えて見てしまった。付加価値というのが、芸人は特にただ面白い人は無限にいて、勉強できる教材がメチャクチャあるから、面白さの実力が同じぐらいになる。じゃあ、さらに何を求められるのか。体を使った技術ができる、スポーツができる、料理ができるとか。いろいろな付加価値でみんなが出てくるので、すごい似ている」と感想を語る。

 その上で、兼近は「僕らって誰かに何かをしてもらったことがない。芸人って『こうしてください。あれやってくださいよ』とかで、仕事をもらえることがない。こっちからアクションを起こして『見てください。こんなことできます』で、やっとお仕事がもらえる。そういう意味では(声優と)違うのかもしれない」と投げかけた。

 岩田は「VTRでも紹介していただいたが、声優というだけでみなさんがイメージするのは、表に出ている“アニメ声優”に特化している話なのかなと思う。職業として(さまざまな)仕事がある。挫折した方も、アニメ声優としてのところで挫折したのかなと。そこは勘違いしないでいただきたいし、そういう特化した特別な部分は、年齢的なものは非常に影響することがあるという判断をしていただきたい」と語る。

 岩田は青二プロダクション所属で、主な出演歴には「AKIRA」(金田役)、「頭文字D」(武内 樹役)、「ONE PIECE」(エンポリオイワンコフ役)、「魔進戦隊キラメイジャー」(魔進ショベロー役)がある。

 たくさんいる“うまい人”の中で、生き残っていく人、売れる人は何が違うのだろうか。岩田は売れる人の要素についてこう述べる。

「いろいろな要素が絡みあう。1つの商品、僕も“岩田光央”という商品だが、要素が色々あると思う。声質がいい、滑舌がいい、表現力が豊か、個性的など、そういうもののいろいろな部分が大きかったり小さかったり、全部大きかったりというところで魅力になって、商品価値が出て、売れるということだと僕は思う。作品に恵まれるのも実力で得たものだから、それはチャンスを掴めたということ。確かに運も多分に影響する」

 声優業界の現状を見ていくと、声優“志望者”は約30万人、声優は1万人以上(自称声優を含めると数万人とも)、声優業だけで食べていける人は約300人となっている。声優名鑑に載っている人数は約1500人で、声優として有名になっても食べていけない人もいる。

 やまけんさんは「アイドルに似た活動をする声優さんがすごく増えている。歌を歌いたいというのは、今は声優さんと言われているが、元来の声優さんの仕事ではない。武道館に立ちたい、踊りたい。要は『アイドルになりたい』に声優さんが含まれてしまっている。これでは目指し方が変わってきてしまう。先ほどの方(VTRの人)は夢を諦めたと言っているが、なろうと思っている声優という単語(の意味)が違っている。元来の仕事ではないものをやろうとして、それには年齢制限があったというだけの話。演じることは何歳になってもできるはず。食えるか食えないかのハードルは高いが、また別だと思う」との見方を示した。

 岩田は、声優に求められる技術についてこう語る。

「声優は声だけだから簡単になれそうというイメージをお持ちだが、そうではなくて素養のある人たちが集まってくる。そこでふるいにかけられながら勝負して残っていく。よく切れる日本刀を作るには鉄じゃないとダメ。他の金属で、金には価値があるが、切れる日本刀は絶対に金で作れない。同じ金属でもふさわしい場所とか物があると僕は思う。僕の考えだと、声優は職人的なものが7で芸術的なものが3くらいの割合。職人的なものとは何かというと、マイクの前でセリフをしゃべることと、もっと大事なマイクワークといって、マイク以外のところでいろいろと気を使わないといけないことがいっぱいある。スタジオの中に入って出るまでの間にマイクワークの仕事が半分以上ある」

 慶應大学特任准教授でプロデューサー若新雄純氏は「そう考えると『9割食べていけない』は問題ではなくて正しい結果。職人的な仕事は、1割の人だけが食えるからこそ職人と言われる。会社に来て、工場に来て時間を守って働いた以上は稼げるというのは、一般化された仕事なので、誰でも代替できる。例えば、コンビニでレジの仕事をちゃんとやって食べていけないということであれば提供側が問題なわけだけど、1割しか食えないからこそ価値がある」と見方を示す。

 声優を目指す人が多いが、いつまで夢を追うべきなのだろうか。いつ見切りをつけるべきなのだろうか。

 岩田は「まず間違いなくやっちゃいけない辞め方は、他人のせいにしたり、環境のせいにしたりすること。絶対に他人のせいにしてはいけないと僕は思う。そうしないと一生、たらればがついて回る。『あのときああしていれば』とか。たらればの人生だけはさせたくないので、自分の中でとことん突き詰めて、諦められるまでやって欲しい。それが2年の人もいれば10年の人もいるかもしれない」と、声優を目指している人にメッセージ

 人気の職業となっている声優だが、食べていける人は全体から見ればほんの一握り。声優に憧れている人は業界の現実を知った上で、覚悟を持って目指す必要がある。
ABEMA/『ABEMA Prime』より)
岩田光央、声優は「職人で技術職」 “9割が食べていけない”業界の現実に「切れる刀を作るには鉄じゃないとダメ」