(筆坂 秀世:元参議院議員、政治評論家)

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 この原稿を書いている時点で、東京での新型コロナウイルス感染者は4日連続で200人を超えている。収束の気配は一向に見えてこない。だが今のままの対応なら、残念ながら収束に向かっていくことはないだろう。

 東京都小池百合子知事などの発言を聞いていると「夜の街」「若い人」というキーワードが連発されているが、これは正しい情報の発信なのか疑問に思う。7月10日西村康稔担当相と小池百合子都知事、新宿区長、豊島区長が会談したのも「夜の街」対策のためだ。そこでは「3つの対策」として、「戦略的なPCR検査の実施」「メリハリのきいた感染防止対策」「保健所機能の強化」をあげている。

「戦略的」などという大仰な表現をしているが、要するに感染者を出したホストクラブなどのPCR検査を進めるというだけのことだ。「メリハリのきいた感染防止対策」などというのは言葉遊びにすぎない。そんなものがあれば、「夜の街」以外でも大いにやってほしいものだ。

 そもそも「夜の街」というくくり自体が実に漠然としたものだ。これでは居酒屋や寿司店、レストランなど夜営業の飲食店はすべて含まれることになってしまう。これらの業態の業者にとっては、迷惑な限りであろう。

 実際に多くの感染者を出し、クラスターになっているのは、新宿の歌舞伎町で言えば、多くの場合ホストクラブのはずだ。埼玉県の大宮での感染増もキャバクラホストクラブが中心だった。大量の感染者を出した鹿児島の「おだまLee男爵」という店はニューハーフのショーハウスというものらしい。

 問題は、なぜこういうところで多くの感染者が発生しているかである。同じクラブでも銀座の高級クラブでクラスターが発生したという報道はない。だとすればホストクラブキャバクラなどの接客のあり方に感染拡大の要因がある、ということになる。

 単に3密だけではないはずだ。感染者の数だけではなく、なぜこういう店舗で多くの感染者が出たのか。その原因を追求し、公表すべきである。

市中感染対策こそ重視すべき

 感染拡大が「夜の街」だけにはとどまっていないことこそ深刻である。ホストクラブなどで働く人々の多くは、若くて、無症状の人が多い。この人たちが街中で普通に生活をしているのだから、市中感染が拡大しても何の不思議もない。東京都内でも、その他の地域でも、感染者が増加しているのは「夜の街」だけではない。感染経路不明者が半分か、それ以上になっている。これは市中感染が始まっていると捉えるべきである。

 東京都内では、小学校の生徒や教師にも感染が拡大しつつある。文京区の保育園では、保育士2人、園児20人の感染も起こっている。家庭内や職場での感染の広がりも見られる。

 緊急事態宣言が解除され、多くの分野で日常が戻ってきている。人との接触の機会が宣言発動中に比べて飛躍的に増加している。経済を回していくためには、避けがたいことでもある。

 総務省6月30日に発表した5月の労働力調査によれば、完全失業者は198万人と前年同月から33万人も増えている。新型コロナウイルスの感染拡大によって、非正規社員の雇い止めなどが広がったためだ。4月以降、新型コロナウイルスに関連して約3万人が失業していると言われている。4月22日に学生団体「高等教育無償化プロジェクトFREE」が発表したコロナ禍による学生への影響を調査した中間報告によると退学を検討している大学生はおよそ5人に1人、20.3%にのぼることが分かっている。

 こうした国民生活の苦境を考えれば、経済を回していかなければならないことは自明である。だがこれには多くのリスクが伴うことも、また自明なのである。

 幸い若い人は、重症化することが少ないことが判明している。だが高齢者や基礎疾患を抱えている人は、そうはいかない。私自身もそうなのだが、COPD(慢性閉塞性肺疾患)の患者である。通院している呼吸器科の医師からは、「絶対に感染しないように」と忠告されている。私のことはさておいても、重症化のリスクの高い人たちの医療体制を逼迫させないことは、今後の重要な課題である。

当面は「Go To キャンペーン」から首都圏の除外を

 現状ではワクチンもなければ、特効薬もないうえに、国や都からは、感染者を減らしていくという対策が何も提示されていない。しかし政府は、「感染者は若い人が多く、医療体制が逼迫している状況ではない」として、イベント開催の制限を緩和し、1兆7000億円という巨費を投じて「Go To キャンペーン」を7月22日から開始する。

 こうした施策がイベント業界や飲食業界、観光業界を支援するために必要であることは理解できる。だが東京、神奈川、埼玉、千葉の首都圏感染者数は、日増しに増え続けている。この首都圏からの旅行者を地方の人々は歓迎するのだろうか。この時期に、前倒ししてまで「Go To キャンペーン」を実施する必要があるのか。少なくとも、しばらくは首都圏からの移動を極力抑えるために、首都圏は除外して実施するという選択肢もあるはずだ。

 イベント開催も慎重な取り組みが求められる。新宿の劇場「シアターモリエール」で集団感染が発生した。同劇場で行われていたのは「THE☆JINRO」という舞台で、出演者、スタッフ、観客合せて30人の感染者が出た。さらに増える可能性もある。主演者の中に体調不良の人が含まれていたうえに、最前列にフェイスシールドは準備されていたが、多くの観客は着けていなかったという。安易な取り組みが感染者を生み出してしまうということだ。どんな時でも気の緩みは怖いものだ。

やはりPCR検査の拡大が必要

 毎日、どのテレビ局も新たな感染者数を発表して、ああでもない、こうでもないと言っているが、検査件数がまったく報道されていない。これでは実相は分からない。どこで、何件検査したのか。もっと詳細を明らかにすべきである。小池都知事は、検査数が増えたから感染者数も増えたと説明しているが、感染率は検査数が少ない時よりも上がっていることこそ重視すべきなのである。

 報道によれば、東京都PCR検査能力は1日当たり約6000件だそうだ。だが多い日でも実施件数は3000件程度らしい。1400万都民を抱える東京都でこれはいかにも少ない。これを1日あたり万単位、数十万単位に増やしていくことを真剣に考えるべきである。

 結局、飛躍的にPCR検査数を増やして、陽性者を隔離し、治療に当たる。陰性者で経済を回していくということを徹底するしかないのだ。幸い若い人は、感染をしても無症状が多く、長い隔離は必要ない。街中に感染した無症状の人が普通に動き回っている限り、感染拡大が防げないことは誰でも分かることである。

 専門家会議を廃止し、新型コロナ対応の特別措置法に基づく新たな分科会が設置され、会長には地域医療機能推進機構の尾身茂理事長が就任した。尾身会長も分科会で「PCR検査の拡充は、多くの国民の一致した意見だと思うので、政府には、早急に議論を進め、実行に移してもらいたい」と語っている。ところが小池都知事からも、西村康稔経済再生担当相の話を聞いても、PCR検査数をどう増やすかという具体策がまったく出てこないのは、どうしたことか。

 プロ野球Jリーグが今月10日から、上限5000人までの観客を入れて開催されている。数万人収容のスタジアムにこの人数だと密になることはない。ましてや屋外なら、なおのこと感染リスクは低減される。野球の観戦風景をテレビで見ていると実に楽しそうである。結構なことである。プロ野球Jリーグは、定期的PCR検査をしている。今、安心して行動するには、やはりこれしかないのだ。

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