◆男の世界の中で、ずっと息苦しかった

遺影を手にインタビュ-に臨む赤木雅子さんと、それを迎える小川彩佳さんはすでに産休に入っていたが、自らインタビュアーを買って出た。インタビュー前の懇談から和やかな雰囲気で進み、インタビューは約2時間に及んだ。

「本のことですけど、女性に読んでいただきたいです。夫が亡くなって以来、ずーっと男の世界の中で息苦しかったです」

 これは6月20日、赤木雅子さん(49歳)から私に届いたLINEの言葉。森友学園への国有地の巨額値引きに関連する公文書の改ざんを上司に無理強いされ、それを苦に命を絶った財務省近畿財務局の職員、赤木俊夫さん(享年54歳)の妻だ。

 赤木雅子さんは今年3月、夫、俊夫さんが遺した改ざんの経緯についての「手記」を公表するとともに、国と「改ざんを指示した」と手記で名指しされた佐川宣寿元財務省理財局長を相手に裁判を起こした。その裁判が7月15日に始まるのに合わせて、私と初の共著を上梓した。『私は真実が知りたい 夫が遺書で告発「森友」改ざんはなぜ?』(文藝春秋)だ。

 この本の装丁を相談している時に冒頭の発言が出た。表紙に俊夫さんの直筆の遺書を載せるという案が『週刊文春』出版部から出ていた。それに対し、「手書きの遺書が載ると女性に手に取ってもらいにくくなりませんか?」という懸念だった。この懸念は、本の帯に赤木雅子さんの手書きかわいいイラストを同時に入れるというアイディアで解消されることになる。

 それはともかく、なぜ赤木雅子さんは「女性に読んでいただきたい」と思ったのか? 「男の世界の中で息苦しかった」とは、どういうことを指すのか?

◆「男ってつまらんなあ。男には生まれたくないなあ」

私との共著『私は真実が知りたい』の帯のイラストは、赤木雅子さんの直筆

 後日、私はこの件で赤木雅子さんに直接話を聞いた。すると……。

「夫が亡くなって最初に来たのが、近畿財務局の人たちですよ。全員男性です。彼らがよってたかって、私が夫の遺した手記を公表しないように、マスコミを近づけないようにしました。それはなぜかというと、自分たちの保身、上司に言われているからですよね。

 そして弁護士さんも、前は近畿財務局の人に紹介された方で男性でした。この人も今になってみると、財務省・財務局の意向に沿うようにしていたんじゃないかなあと感じます。

 それにマスコミの人たちもほとんど男の人ですよね。夫が亡くなった時、私がいた実家の周りをマスコミの人たちが取り囲んで、カメラを向けたり話を聞こうとしたりするのが、本当に怖かったんです」

 はい、すみません。私も男ですね。でも、赤木雅子さんが男社会の論理に苦しめられてうんざりしているという話は、以前からことあるごとに聞いていた。

 例えば4月1日。雅子さんは安倍首相が退陣に追い込まれるかもしれないという週刊誌の記事の写真を送ってきた。それに私はこう答えた。

「安倍さんが辞めれば、後任の首相は自民党であっても大喜びで綿密に調査してすべてを公表するでしょう。そうなれば真相がようやくわかります。佐川さんも池田さんも話せるようになり、彼らも楽になります。それがわかっているから安倍さんは最後まで粘るとは思いますが、あとは世論の力です」

 すると雅子さんはこう言った。

「安倍さんやめたらしゃべるんや。そういう仕組みなんですね。男ってつまらんなあ。私は美並(近畿財務)局長や事務次官や役所の人が来られた後、率直に思ったのは『男には生まれたくないなあ』でした。つまんない建前で生きているのがアホらしく思えました」

◆「嫉妬深い男の社会」で出世する人々の浅ましさ

夫の手記をおさめたパソコンを前にする赤木雅子さん

 他にも、冒頭のLINEの直前の6月17日。私は本の末尾を飾る締めの文章を赤木雅子さんに依頼していた。LINEで送られてきたその文章には、雅子さんが私に俊夫さんの手記を託した理由として次の一文がある。

「夫のことをいちばん理解してくれそうで大きな組織(嫉妬深い男の社会)に苦慮した『大阪日日新聞』の相澤さんに手記は託そうと決めました」

 嫉妬深い男の社会。鋭いその言葉に私は感服した。森友の公文書改ざんに関わった佐川さんをはじめとする財務省や近畿財務局の人たちは、誰一人として真相を明らかにしようとしない。改ざんのもとになった国有地の巨額値引きにしても、誰も真相を語らない。なかったことにしようとする。

 それはなぜか? 上を見ているからだ。上司らの意向をうかがい、取り入って我が身を守りたい、できれば出世したいと考えているからだ。実際に俊夫さんの直属の上司たちは「全員異例の出世」をしていると告発する文書が寄せられ、内容は事実だった。

 赤木俊夫さんが「いちばんの親友」と信じていた同期の男性職員も、雅子さんの意に反して麻生財務大臣の墓参の話をつぶし、その後出世した。出世したいばかりに古い友人も裏切る。そういうことを指して赤木雅子さんは「嫉妬深い男の社会」と書いたのだ。

◆産休中の小川彩佳キャスターが自らインタビュアーを買って出た

赤木さんをインタビューする小川彩佳キャスター

 裁判を起こした後、多数の報道機関から取材依頼が舞い込んだ。私は、雅子さんの「真実が知りたい」という願いを多くの方に知ってもらうためにも、取材はできる限り受けた方がいいと勧めてきた。しかし、マスコミに恐怖感がある雅子さんはなかなか踏み切ることができなかった

 そういう中で、ふと雅子さんがもらしたのが「女性に取材してもらいたい」という言葉だった。女性なら男社会の犠牲者同士、安心して話ができるのではないかと考えたのだ。

 7月1日、雅子さんとの共著書の校了作業が佳境を迎え、私は文藝春秋本社で作業をしていた。そこに、最新号で雅子さんのLINEに関する記事を掲載した週刊文春の女性誌版『週刊文春WOMAN』(季刊誌)の編集長が現れた。「赤木さんの記事、女性にすごく反響が大きいです。共感を呼んでいますよ」

 この編集長も女性だ。私は答えた。

「それはよかったですね。赤木さんはこの本を女性に読んでほしいと言っているんです。取材もできれば女性に受けたいと話しています」

 それを聞いて編集長はすかさず反応した。

「そうなんですか!? じゃあ女性に取材してもらいましょうよ。私、『ニュース23』の小川彩佳キャスターを知っていますから、連絡してみます」

 ここから話は早かった。編集長の打診に小川さんから「ぜひ」と返事が届き、私は大阪に戻って赤木雅子さんに話を伝えた。小川さん本人がインタビューするというのは雅子さんにも魅力だった。こうして7月11日、都内のホテルインタビュー取材が実現した。

 他社の取材なので内容には触れないが、終わった後に赤木さんは「きれいな人やわ~。見とれちゃった。話し方もすごく柔らかかったし、気づかってくれたので、いろんなことを話すことができました」とほっとした様子だった。

◆自ら表に立つことを決めた、赤木雅子さんの闘いは始まったばかり

報道特集」金平茂紀キャスターインタビューを受ける赤木雅子さん

 同じ日、たまたま同じTBSの「報道特集」で赤木雅子さんのことを特集で取り上げる予定になっていた。そのことを「報道特集」の金平茂紀キャスターから聞いて事前に知っていた赤木雅子さんは「金平さんに黙って小川さんの取材を受けるわけにはいかない」と、自ら金平さんに電話して取材の件を伝えた。

 そこで急きょ、金平さんも同じ場所で小川さんに続いてインタビューすることになった。金平さんはさすがベテラン記者の貫禄でするどく切り込んでいく。しかし、その前に小川さんとのインタビューで心がほぐれていた雅子さんにとっては苦にならなかったようだ。「先に小川さんインタビューを受けておいてよかったわ~」と話していた。

裁判開始と同時発売される、私との共著『私は真実が知りたい』を手に質問する金平茂紀キャスター

 金平さんがどういう話を聞き出したのかは、すでに当日の報道特集で紹介された通りだ。これが赤木雅子さんのテレビ初登場となった。小川さんの取材成果は7月14日の「ニュース23」で放送される。金平さんとはまた違う切り口の話が聞けるはずだ。

 この日のインタビューがうまくいったことで、雅子さんには自信がついた。「報道特集」の放送後、改めて取材依頼のあった関西テレビ読売テレビ毎日放送の、在阪民放3社のインタビュー取材を、7月13日一日で立て続けに受けた。これは以前の雅子さんでは考えられないことだ。

 いずれの社も7月14日の夕方の関西エリア向け報道番組で放送を予定しているという。朝日放送も取材に向け動いている。NHKは「クローズアップ現代」がぶ厚く取材を進めており、7月15日に放送予定で、映像素材をニュースでも使うかもしれないと雅子さんに伝えている。

 嫉妬深い男社会の壁を打ち破り、真相解明がかなうのか? 赤木雅子さんの裁判は7月15日に始まる。それに合わせて本の発売も始まる。雅子さんの闘いはこれからだ。

<文・写真/相澤冬樹>

【相澤冬樹】
大阪日日新聞論説委員・記者。1987年NHKに入局、大阪放送局の記者として森友報道に関するスクープを連発。2018年NHKを退職。著書に『安部官邸VS.NHK 森友事件をスクープした私が辞めた理由』(文藝春秋

遺影を手にインタビュ-に臨む赤木雅子さんと、それを迎える小川彩佳さんはすでに産休に入っていたが、自らインタビュアーを買って出た。インタビュー前の懇談から和やかな雰囲気で進み、インタビューは約2時間に及んだ。