将棋のAI(ソフト全盛期である現在、若手だけでなく中堅、ベテラン棋士もソフトを用いて研究することが増えてきた。「終わった戦法」と言われたものが再評価され、最新の戦型として生まれ変わることもあり、人の力のみで研究してきた棋士からすれば、まさに目から鱗ということも珍しくなくなった。最年少タイトル獲得に向けて大注目の藤井聡太七段(17)も日々の研究にソフトを取り入れているが、快進撃を続ける天才棋士について、ベテラン中川大輔八段(52)は「AIで強くなるのは当たり前じゃない。そんなに甘いものでもない」と指摘した。

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 プロの棋士とAIとの対決という点においては、トップ棋士に勝利するAIが生まれたことで、その後は公の舞台で大々的に対局が行われることがなくなった。現在では、プロ・アマを問わず、ソフトを用いて自身の棋力を向上させる、という時代に入っている。中川八段の口からも「今はAI全盛で、藤井聡太さんや若手棋士は、AIを使って研究する」と語られた。ただ、その後に続いたのはこんな言葉だ。「アマチュアの方で誤解される方も多いが、それを使えば全員が藤井さんみたいに強くなれるんじゃないかと思われがち。でも実際にはそんなに甘いもんじゃなくて、AIを使って研究をしたとしても、10人やって強くなれるのは1人か2人か」。同じソフトを使ったとしても、成長度合いにも大きな違いがあるという。

 ポイントとなるのは、情報の取捨選択だ。「AI、書籍、棋譜。優秀な情報がたくさんある。食べ物に例えるなら、栄養満点のものが並んでいるが、片っ端から食べていたらブクブク太って何にもならない」と、調べればすぐに情報が手に入る時代だからこそ、この選び方が成長速度に影響を与えると指摘した。「周りの環境がよくても、強くなるのとはまた別の話。藤井さんは、うまくAIを取り入れて強くなっている。簡単なことです。おじさん世代ならAIを使えば強くなるのは当たり前とも言いたくなるが、そんな甘いもんじゃない」と、52歳の中川八段が同世代も含めた人々への考えも含めて説明した。

 現役棋士である中川八段だが「私が今の藤井さんと同じくらいの歳で、AIで(研究を)やったとしても、藤井さんのようにはならないし、(今と)同じような棋士にしかならない。そういうものだし、簡単じゃないってことです。日常で考えても、いい食べ物やサプリまであるのに、全員が健康かと言われればそうでもない。さらに将棋は相対的で、自分が強くなっても、相手がそれ以上に強くなっている可能性がある」と、類まれなる才能、それを伸ばす努力に、最先端のソフトの能力がうまく噛み合った形が、今の藤井七段であると述べた。

 将棋界においては、AI・ソフトに対して、今なお多様な考え方・接し方がある。人間とAI、双方の能力を認めた上で、分かりやすく伝えたベテラン中川八段の解説に対して、出演していたABEMAの将棋チャンネルには、コメント欄にファンからの感想が殺到。「正論だ」「ソフトを使うのは新しい発想を得るため」「アマがプロの棋譜を並べただけでは強くならないのと同じ理屈」といったものから、「若い人認めるってすごい」「いいこと言ってる」「中川先生の話がわかりやすい」と、中川八段自身を絶賛する声も見られていた。
ABEMA/将棋チャンネルより)
「AIで強くなるのは当たり前じゃない」「全員が藤井聡太さんにはなれない」ベテラン棋士が指摘する“情報過多”でも育つ理由