働く女性あるある満載ナギサさん、うちに来てほしぃ〜。

「私の家政夫ナギサさん」(TBS系 毎週火曜よる10時〜)を観て思った人は多いだろう。
家政夫・鴫野ナギサ(大森南朋)はなかなか予約がとれないレジェンド家政夫。主人公・相原メイ(多部未華子)の28歳の誕プレ(誕生日プレゼント)に妹・ユイ(趣里)が特別に4日間頼んでくれた。

メイは仕事(製薬会社のMR…営業担当)に夢中で、恋人もいないし、部屋も散らかり放題。フローリングの床は物で覆われ、ベッドは服置き場になり、メイはソファで寝ている。いや、ソファの上も物が乗ってソファの下で寝ているという惨状。ネット通販のダンボールが開封されないまま増えていく。お気に入りのアクセサリーが見つからない。リップやリモコンが物に隠れてしまい何個も買ってしまう。

「ナギサさん」第一話には働く女性のあるあるが詰まっていた。うちにもあるWERNERのシューメーカーチェアを部屋の片隅に見つけたので余計に。ちょっと素敵なインテリアを買っても全然意味ない散らかった部屋が、あるある過ぎてメイを抱きしめたくなった。

なぜメイのプライベートはそれほどまで悲惨なことになってしまったのかメイが仕事一筋でプライベートが悲惨になってしまったのは、子供のときに将来の夢は「おかあさん」と言った彼女に母・美登里(草刈民代)が「男の子に負けない仕事ができる女性になるの」と言い聞かせたからだった。

言うとおりに自立したにもかかわらず、28歳の誕生日にそろそろ結婚……という話題を持ち込む母。いわゆる「呪い」にかかって抜け出せないメイの元に現れたのが、家政夫のナギサさん。ナギサさんはメイにかかった呪いを解いてくれるのか。

最初は帰宅したら見知らぬおじさんが自分の下着を片付けていることに動揺したメイだったが、ナギサさんは仕事としてなんの感情も沸かないらしく、テキパキと片付ける。散らかっていた部屋はあっという間に整理され、野菜豊富のお弁当を持たせてもらって、夕食の用意も。食生活が充実して、ふかふかのベッドで眠れて、肌ツヤもよくなって……。もう最高じゃないか、ナギサさん。

それでもナギサに対して距離をとっていたメイの気持ちが揺れたのは、ナギサが「おかあさん」になりたかったという言葉に昔の自分を思い出したのと、打ち込んでいた仕事に失敗して落ち込んだときのナギサさんの言葉。メイの部屋がどんなに散らかっていても仕事関連の物はきちんと別になっていたことを挙げて労うナギサさん。仕事を認めてくれて、自分を理解してくれたと感動したメイは、ナギサに心を許しかけ……。

仕事で疲労困憊している女性を部屋で優しく出迎え、全面的に認めてくれる。これは“ビューネくん”のおじさんバージョンではないか。ビューネくんとは、化粧品のCMに登場する、化粧品の妖精みたいな存在で、働く女性が疲れて帰ってくると、優しくしてくれるという、心地よいスキンケアの擬人化のCMで、現在は竹内涼真が演じている。初代は藤木直人、二代目は押尾学三代目松田翔太であった。このCMの影響か、ビューネくん的癒やし系男子がドラマで描かれることは多い。朝ドラあさが来た」の新次郎(玉木宏)もその理想形のひとりである。


これまでのスタンダードと今のスタンダードを描くかつては、経済的に頼れる男性と結婚するのが女の人生のスタンダードであった。最近再放送された「やまとなでしこ」(00年 フジテレビ系)はまさにそれ。主人公(松嶋菜々子)は合コンで最もお金持ちをゲットしようと躍起になっていた。

だが時代は変わった。女性が男性以上に頑張って働くようになり、結婚相手に家事をしてくれる人を求めるようになった。言ってしまえば、結婚という形式をとらず、家政夫を雇えば済むという発想。それがナギサさんである。

結婚しなくても家事をやってくれる人と雇用形態で結ばれるスタイルは「逃げ恥」がそうだが、「ナギサさん」はさらに発展して、男性が家事を仕事として女性に提供するという価値観を提示する。ジェンダーフリーとはこういうところまでいってこそなのだろう。男性が家事を仕事にしてもいいし、女性の下着を男性が触れても片付けるという目的であればなんの問題はないのである。

ジェンダーのみならず年齢に対する先入観も。ナギサさんというおじさんに下着を片付けてほしくないとか家にいられることに違和感を覚えるということも気をつけなくてならない。そう思うと、「逃げ恥」で平匡(星野源)のもとに新垣結衣でなく40代の女性が家政婦として来たらどうだったか……なんて思ってしまう。

そうはいっても年齢や性別を抜きに考えることはなかなか難しいが、そういう場も世の中にはあるのである。京都大学の吉田寮では、トイレを男女別にしてないし、年齢で上下関係を作らないように敬語を使わなくてもいいのだそう。

「ナギサさん」の第1話は、メイの性別や年齢に対する偏見だけでなく、彼女の仕事ぶりにも偏見が宿っていることを描く。ライバル会社との勝ち負けのことばかり考えていたメイは挫折するのである。

これだけだと2時間ドラマできれいにまとまりそうなところ、ライバル会社の営業担当・田所優太(瀬戸康史)が隣に部屋に住んでいて……という「恋はつづくよどこまでも」的隣人展開も。第2回以降は、メイとナギサさんと田所の恋愛ものになっていくのだろうか。
(木俣冬)

番組情報TBS 火曜ドラマ『私の家政夫ナギサさん』
毎週火曜よる10:00〜10:54
番組サイト:

https://www.tbs.co.jp/WATANAGI_tbs/

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