乗り鉄の話題や実際の旅の体験を書いていて、実は不安になることがあります。それは用語。乗り鉄が使う用語は、どこまで一般用語として認知されましょうか。

【画像】乗り鉄が好む…? ボックスシートが並んだ様子

 例えば、山手線と同じ形式で、グリーン車以外は「オールロングシート」になった横須賀線の新車「E235系」の話題。いやぁ、残念ですな。一部で良いから「セミクロスシート」を残してほしかったなぁ。とか。……この残念感が伝わりますか。

 東海道新幹線の初代車両って「回転クロスシート」だと思ったら「転換クロスシート」だったのか。意外だなあ。とか。

 さすがに「転クロ」なんて略したら多くは分からないと思いますから「転換クロスシート」と書きますけれどね。車両よりも旅の話に主題を置くときは、どちらも「クロスシート」と書いちゃいます。それぞれきちんと説明しだすと話が長くなりますし。

 でも、ほんとはこだわりたい。回転クロスシートを褒め称えたい。

 ところで、「クロスシートは快適」と書くと、クロス(布張り)のシート(座席)だと誤解しちゃいませんか……? 書き手としてそんなところも不安です。そこで今回は、乗り鉄&書き鉄が本当はこだわりたい「座席(シート)」の話をします。

●キホンのキホン「ロングシート」と「クロスシート」の違い

 「ロングシート」は名前からイメージしやすいですよね? 長いシートです。窓を背にして、乗降扉と乗降扉の間がベンチみたいになっています。通勤電車のほとんどはこの座席です。

 ほとんどの乗り鉄は好まないタイプの座席です。車窓を眺めようとすると首を真横にしなくちゃいけないし、窓に向いて正座したいけどそんなの幼児しか許されません。駅弁も食べづらい。何より、通勤電車みたいな空間では旅の気分が台無しです。

 昭和時代後期の紀行作家、宮脇俊三ロングシートはお好みでなかった様子。『旅の終わりは個室寝台車』で、“四人向かい合わせの席でなら、ただの酒飲みですむが、ロングシートで飲むと住所不定のアル中の趣を呈してくる”と書いています。

 「クロスシート」は進行方向に向いた座席、あるいは進行方向に背を向けた座席です。よく「観光バスのような2人掛け」と説明します。それか「ジェットコースターみたいな並び」が間違いないと思いますが皆さんいかがでしょう。ロングシートジェットコースターなんてありませんよね。あったら怖い。新しいスリル体験になりそう。イヤだけど。

 このクロスは「交差」という意味です。何と交差しているかというと「進行方向」「レールの方向」「車体の長さ」など諸説あります。並びがこれらと交差していればクロスシートです。

 新幹線の座席もクロスシートです。前述の宮脇俊三が表現した「四人向かい合わせの席」もクロスシートです。クロスシートはかなり大ざっぱな分類です。

 湘南新宿ライン上野東京ライン普通列車ロングシートが主です。しかし、編成の端っこに「一部がクロスシート」という車両があります。このように、同じ車両にロングシートクロスシートが混じっている状態を「セミクロスシート」といいます。

 セミって何でしょう。ラテン語で「半分」とか「準じる」という意味です。ヘアスタイルの「セミロング」のセミ。準決勝「セミファイナル」などでも使います。

 鉄道車両にセミクロスシートはあります。しかし「セミロングシート」はありません。つまり「クロスシート」が主で、「本来の座席の在り方」といえそうです。

●みんな何が好き? クロスシートのいろいろ

 クロスシートは「座席の向き」による分類です。サービスや機構によってさらに分類されます。

○座席数が最大になる「ボックスシート」

 「ボックスシート」は、前述した宮脇俊三が説明した「四人向かい合わせの席」です。背もたれが垂直で、全体として箱のように見えるからボックスシートです。セミクロスシート車両のクロスシートはほとんどボックスシートです。

 4人グルーブでは楽しい空間になりますが、他人ばかり4人だと、わりと気まずい(笑)。窓際の1人が降りたあと、混んでいてもそこに座ろうとする人がいなくてずっと空席という場面も見かけます。

 国鉄時代、長距離運行する普通列車、急行列車はボックスシートだけがズラリと並んでいました。座席数が最大になるからです。「長時間乗るから椅子が多いほうがいいでしょ」ということですね。

 しかし、大都市に乗り入れる列車の場合は、ボックスシートだけでは乗り降りに時間がかかります。そこで「乗降扉の付近だけロングシートにする」という車両が誕生しました。これがセミクロスシートの始まりです。

 ロングシートは「乗客数を増やせること」です。国鉄時代の和田岬線兵庫県)では、大混雑と近距離路線という割り切りで、ロングシートさえほとんど取り払った客車もありました。車両の中央に数人しか座れない。初めて乗ったときはびっくりしました。

 前述した横須賀線の新型車両は普通車が全てロングシートになります。これは「横須賀線は、もはや通勤路線であり、中距離路線とは呼べない」とJR東日本が判断したということ。「それでもクロスシートで景色を楽しみたい、喫食しながら乗りたい人は、グリーン車に乗ってね」となります。その代わりに2004年からグリーン料金が改訂され、平日は休日より安く、車内で買うより乗車前に買う方が安くなりました。定期券青春18きっぷでもグリーン券を買えば乗れます。

○「回転クロスシート」と「転換クロスシート」の違い

 「回転クロスシート」は、新幹線や多くの特急列車で採用されている座席です。座席をくるり180度回転させると向かい合わせになる機構が付いています。

 「特急列車の旅はクロスシートで快適」と書いてある場合は回転クロスシートのことと読み取って良いと思います。回転クロスシートのほとんどはリクライニング機構が付いています。快適です。回転クロスシートなのにリクライニング機構がない車両には、ひとこと文句を書きたくなります。

 「転換クロスシート」は、座面部分は動かず、背もたれを前後にバッタンとスライドさせて前後座席の向きを変えるタイプクロスシートです。回転クロスシートが登場する前は、ほとんどの特急列車で採用されていました。初代新幹線車両も例外ではありません。

 転換クロスシートJR西日本の快速・新快速列車に多く採用されています。関東の乗り鉄は「JR西日本は快速もクロスシートでいいなあ」とうらやましく思うわけです。

 転換クロスシートは回転を考慮しないので、座席の間隔を詰められる利点があります。しかし、リクライニング機構は採用されません。普通列車向きのクロスシートといえそうです。

 ちなみに、東海道新幹線0系でも、後期形は2人掛け座席が回転クロスシートのリクライニング機構付きになり、3人掛け座席もリクライニング機構付きになりました。しかし3人掛け座席は回転できなかったため、座席の向きは固定されました。このような「リクライニング付き固定クロスシート」といえる方式は、海外の列車で採用例が多いようです。

ロングシートも楽しいよ(ただし……)

 乗り鉄にとって、ロングシートとセミクロスシートのどちらが良いかといえば、やはりクロスシートのほうがいいです。車窓を眺めやすいし、弁当を食べてもお酒を飲んでも変ではありません。

 最近は首都圏に限らず、地方都市の普通列車でもロングシートが増えてきました。景色の良い路線でロングシートの車両が来ると残念な気持ちになります。

 それでも最近は「ロングシートも悪くない」と思うようになりました。いや、文句を言っても仕方ないので「楽しさを見つけ出した」とも言えます。

ロングシートの楽しみ1:「向かい側の車窓の広がり」をたしなむ

 ロングシートの窓は背中側にあります。首を回さなければ景色を見られません。でも、無理をして後ろを向かなくても、正面、向かい側の窓を見ましょう。複数の窓を漫画のコマ割りだと思えば、とてもワイドな視界です。クロスシートの窓とは違う景色があります。

 最近の通勤電車の窓は大きな一枚窓です。この景色を横からではなく、正面から見られます。ほら、ロングシートもなかなかのものでしょう?

 ……ただし、視界に立つ人や向かいの座席に座る人がいない場合に限ります。

ロングシートの楽しみ2:「広々している」ことをたしなむ

 クロスシートはどうしても小さな空間になります。古い車両ならなおのこと、圧迫感もあります。

 しかしロングシートならばどうでしょう。広々としています。開放感があります。思いっきり足を伸ばせます。飛行機クルマやバスではできない体験ですよ。

 ……ただし、まわりに人がいないときに限ります。通行の邪魔にならないように注意。

ロングシートの楽しみ3:「横座りでゆったりできる」ことをたしなむ

 ロングシートでどうしても進行方向に向きたいときは、ドアの横に座りましょう。靴を脱ぎ、シートに片足を乗せて進行方向を向き、ドアとシートの間の仕切りに背中を当てます。ほら、これでクロスシート風の体勢になります。しかも広々。両足を乗せるとお座敷列車気分になったりして。

 ……ただし、ほかにお客さんがいないときに限ります。

 結局のところ、ほかのお客さんがいなければ、ロングシートも楽しい。

 いや、空いている電車ならどんなシート配置でも楽しいです(笑)乗り鉄の計画を立てるときは、通勤通学時間帯を避けるなど、三密を避けた日程を作りましょう。

(杉山淳一/乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴 JR路線の完乗率は100%、日本鉄道全路線の完乗率は99.69%<2020年3月時点>)

乗り鉄/書き鉄が本当はこだわりたい「座席(シート)」について