議員特権としての歳費

 国会議員の特権というと、不逮捕特権がまず思い浮かぶものだと思うが、その他に歳費特権というものもある。

◇憲法第49条
「両議院の議員は、法律の定めるところにより、国庫から相当額の歳費を受ける。」

 これが歳費特権に関わる憲法の条文である。「法律の定めるところにより」とあるように、詳細は法律によって規定されている。その法律が国会法と国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律である。

 まず、国会法を確認すると、次のような規定がある。

◇国会法第35条
「議員は、一般職の国家公務員の最高の給与額(地域手当等の手当を除く。)より少なくない歳費を受ける。」

 「少なくない歳費」という部分が分かり難いかもしれないが、一般職の国家公務員の最高の給与額よりも大きい額の歳費を受け取るということである。「少なくない」とあるので、下回らなければ良く、同額ということも可能であろうが、事実上、一般職の国家公務員の最高額よりも大きい額の歳費が国会議員には保障されていると言える。

ビジネス

※写真はイメージです

 さらに詳細を定めているのが国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律であり、こちらは、歳費の額や旅費、第二の給与とも呼ばれる文書通信交通滞在費などに関して詳細を規定している。

◇国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律第1条
「各議院の議長は二百十七万円を、副議長は百五十八万四千円を、議員は百二十九万四千円を、それぞれ歳費月額として受ける。」

 このように月額が法律の条文で明記されている。

 現在、国会議員の歳費は法律の規定上は月額129万4,000円である(ただし、この金額を2020年6月現在の国会議員が受け取れるわけではない)。どんなに当選回数を重ねても、基本的にはこの額である。その他に、議会の常任委員長や特別委員長などの役職に就くと、国会開会中に限り日額6,000円が支給される。

 大臣など政府の役職に就くと、別途給与が支払われるが、その場合、議員歳費にプラスして一定の給与が支払われることになっているために、歳費と給与を二重に受け取ることにはならない。

◇国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律第9条
「議院の議長、副議長及び議員は、公の書類を発送し及び公の性質を有する通信をなす等のため、文書通信交通滞在費として月額百万円を受ける。」

 これが文書通信交通滞在費に関する規定である。国会議員一人当たり月額100万円支給されるが、これは領収書の公開などが不要であるため、第二の給与とも呼ばれ様々な用途に使用されている。このことから、以前からそのあり方が問題視されている。

5月から20%の歳費削減

 月額129万円の歳費が多いと見るのか少ないと見るのか。

 それぞれ意見はあろうかと思うが、社会全体が負担を強いられるような出来事があると、「国会議員は歳費を貰い過ぎだ」「国会議員も身を切れ」という声が大きくなる。そういう声も受けて、国会議員の歳費の削減がこれまでもなされてきた。

 例えば、先の東日本大震災発生後には、復興財源に充てるため、さらに議員定数削減が実現するまでの措置として、計20%分の歳費削減がなされたことがある。

 今般の新型コロナウイルス感染症の感染拡大を前にして、あらためて国会議員の歳費削減が議論されるところとなり、4月27日に法律の改正案が衆参両院を通過し、5月1日から施行されている。これにより、議員の歳費の削減が現在は行われている。

 改正されたのは、ここまで紹介してきた国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律である。今回の改正は、以下のような一項を附則に追加するものである。

「議長、副議長及び議員の歳費の月額は、国会法第三十五条の規定にかかわらず、令和三年四月三十日までの間は、歳費月額に百分の八十を乗じて得た額とする。」
●国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律の一部を改正する法律案

 後段に「百分の八十を乗じて得た額」とあるように、20%の削減が行われることになったのだ。改正された法律は5月1日から施行されているので、2020年5月から2021年4月まで、国会議員の歳費は削減されることになる。

歳費の返納は難しい

 一律の歳費削減だけではなく、必要に応じて返納をすればいいのではないかとの意見も想定される。

 だが、国会議員による歳費の返納は公職選挙法で禁止されている寄附行為に当たるとされているため、こちらも法改正を行わないと可能にはならない。参議院議員については、国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律の改正が2019年に行われており、返納が可能となっている。

 この改正も附則に以下の項目を追加する形式で行われている。

参議院議員が、令和四年七月三十一日までの間において、支給を受けた歳費の一部に相当する額を国庫に返納する場合には、当該返納による国庫への寄附については、公職選挙法第百九十九条の二の規定は、適用しない。 前項の規定により歳費の一部に相当する額を国庫に返納するに当たつては、同項の措置が参議院に係る経費の節減に資するためのものであることに留意し、月額七万七千円を目安とするものとする。」
●国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律の一部を改正する法律案

 返納をしても公職選挙法に違反しないということを規定している。

 ただし、時限が2022年までに限定されている。額は月額7万7,000円を目安に、さらには返納する場合について規定するものであって、返納が強制されるわけではない。参議院議員の場合、歳費削減と努力義務とは言え、歳費返納がなされていることになる。

 国民からすれば、それでも月額100万円程度というのは大きな金額ということになりそうだ。一方で、歳費は国会議員の活動のためだけではなく、生活費としても使われるものであり、あまりに少なくなるようであれば国会議員の存立基盤を大きく崩しかねない。

 歳費の削減や返納が適切な時もあるとは思うが、どのあたりでバランスを取るのかは常に考えておく必要があるだろう。

※写真はイメージです