“告白されると爆死する”呪いをかけられた高校生・矢木 景を中心に、彼に想いを寄せるふたりのヒロイン、ひとクセありそうなクラスメイトたちのドラマが描かれる『デスマッチラブコメ!』。本作は2013年にスマートフォンアプリ、翌2014年にはWii Uで配信されて好評を得た『D.M.L.C. -デスマッチラブコメ-』のグラフィックを一新し、シナリオも一部加筆してPlayStation(R)4、Nintendo Switch(TM)、Steamと2020年に遊びやすいプラットホーム向けにリメイクしたタイトルだ。本稿では予測もつかない展開を見せる本作の魅力を中心にしつつ、リメイクに際して遊びやすく進化したシステム面についても語っていく。なお若干ながらネタへ踏み込んでいる個所がある。それに留意して読み進めてほしい。



文 / マンモス丸谷

ラブコメの背後にチラつく“伝奇”の不穏な影

本作はゲームタイトルやグラフィック(女子はもちろん、主人公の矢木 景やクラスメイトの男子もイケメンというよりはかわいい雰囲気寄り)が示すとおり、物語のベースはラブコメ。序盤は景が「す」で始まる女子の言葉を告白と勘違いして爆死しそうになったり、夕方になるとなぜか暴走して景に迫ってくるふたりのヒロイン、津野るみ子と白詰乙羽から(おもにギャグ方向に振り切った手段で)逃げつつも、クラスメイトらと楽しい学園生活を送っていくという描写が積み重なって話が進んでいく。

ゲーム内の日数が進み、景とヒロインたち、爆死回避のために協力してくれるクラスメイトらが打ち解け仲良くなっていくにつれ、ギャグテイストで進むストーリーに笑って流せないオカルト的な事象、不穏な心理描写、登場人物(ほぼ全員)のヘビーな家庭環境、裏の顔といったことが明らかになっていく。本作のジャンル“学園伝奇ラブコメノベルADV”の“伝奇”の部分が色濃くなっていき、景たちの日常を侵食していくのだ。

伝奇要素の日常への浸食は顕著で、本作の動画配信が許されている範囲(ゲーム内の4月26日までの時点)でも“三人縛りの天使様”、“みつあみおんなのこ”、“すーぱーこっくりさん”、“学校の無限回廊”といったようなキーワードが頻出。ゲーム全体のテキストのノリは変わっていないにも関わらず、不穏さだけはどんどん増していくという体験を提供してくれる。配信禁止となるゲーム内期日以降の領域に入ると物語の展開はさらに加速。景たちの置かれる状況が二転三転どころか五転や六転していくのに加えて、“旧家に伝わる宗教的儀式“、“日本各地に伝わる鬼の伝説”、“人ならざる者との心理戦”、“異能者どうしのバトル”といった伝奇ものが好きな人にとってはそそられる要素が次々と現れ、デスマッチラブコメの行方にさまざまな影響を与えていく。

◆“全容把握”をサポートするシステム面での心配り

テキストの質や量ともに充実している『デスマッチラブコメ!』だが、それを余すことなく読み解くためのサポート機能が充実しているのも特筆すべきポイント。まずストーリーの内容やキャラクターの置かれた状況、世界設定の把握といった“質”の面の理解にはTIPSが役立つ。TIPSはテキストを読み進めていくと頻繁に発生。直近に起こった変化や会話の内容がおもに景の視点からまとめられているため、主人公である景の感情とシンクロして物語に没入しつつ未解決の謎や現状を把握できる。

「もっと具体的なアドバイスがほしい!」という人には、各種バッドエンド後に選択できる、“とろりんの巣”でヒントを聞いてしまうのがおすすめ。ここでは本編の幼女サイズよりさらにミニマムとなり妖精的存在(?)になった土呂鈴=とろりんが、なぜプレイヤーの選んだ選択肢がバッドエンドに至ったのかという説明のほか、バッドエンドに複数のフラグが関わっている場合は回避方法のヒント、そして景が爆死した際の被害規模などをフランクに教えてくれる。

ゲームの仕上げ段階、すべてのテキストを隅々まで読んでエンディング(爆死エンドを含む)を回収しようとする段階で重宝するのが、今回のリメイク時に追加されたシナリオチャート。このチャートを使えばゲーム中に一度見たことのある選択肢のシーンにいつでも飛ぶことができ、別の選択肢を選ぶことが可能。さらにゲームの進行や終盤に現れるエンディングの分岐に関わるような重要な選択肢には、スイッチのようなアイコンも重ねて表示されており、いわゆる“フラグ”が立っているかどうかさえも目で見て理解できる。複数回同じシチュエーションを体験する(テキストを読む)必要があるというノベルゲームの構造に配慮し、プレイヤーによけいなストレスをかけさせない工夫がなされているのも本作の特筆すべきポイントといえる。

ラブコメと伝奇というジャンルを両立させた意外性に富んだストーリー、ダウンロード価格3,000円とは思えないボリュームのテキストを快適に読ませる便利機能が搭載された『デスマッチラブコメ!』。プレイさせてもらって一番に感じたのは、ただただシンプルに「お話そのものが面白かった」に尽きるのだが、2000年代半ばあたりでノベルゲームから離れてしまった身としては、システム面の進化というかシナリオチャートの便利さにも驚かされた。純度の高い面白さの物語が読みたいという人はもちろん、筆者のようにシナリオをコンプリートするのが面倒でノベルゲームから離れてしまった……という人にもおすすめしたい一本だ。

(c) 2013-2020 KEMCO

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掲載:M-ON! Press